ORIGIN THE FIRST
「契約って言ってもどうすればいい?」
「それはお前も知っているはずだ」
「そんなわけねえだろ!」
ライオンの攻撃を避けながら真司は青龍に応対する。
無茶苦茶なことを言われても、とりあえず聞くしかない。
そうしなければ、契約の仕方もわからなければ、戦う術も知らないまま死んでしまう。
今は相手の攻撃をいなすだけで精一杯。攻撃する手段を持ち合わせていれば、確実にダメージを与えられるところがあった。彼的には、やるのなら早くしたい。
しかし、お前は知っていると返されるばかりでなにも進展しない。
知っているのならとっくにやっている。そう思うが、青龍の言葉にも嘘は感じられない。
「さすがに―――このままだとマズいんだけど!」
「お前が契約の言葉を結べばいいだけだ」
「だからそれがわから―――」
わからない。そう言った瞬間、彼の頭に情景が浮かんできた。
自分じゃない何かが必死に戦っている姿。自分の知らない記憶が頭の中に流れてくる。
「ぐっ……!?」
「どうやら、思い出したようだな?」
「破壊の手……」
次々と流れ込んでくる記憶。その本流に彼の意識は飲み込まれて見失いそうになるが、無理やり自分を保つ。
「凄惨の大剣……貫通の銃口……」
「我、至高の存在なりて力を授ける。神のいたすがままに我ら命とともにあらん」
言葉を紡ぎ続けると段々と力の流れが真司の胸に集中していく。
“4つ”の力が彼の心臓に向かって、血に溶けていく。力を形成し、彼の体を末端から少しずつ人間から変えていく。
「虐殺の双刀……」
「破壊で満たすその心。救済をもちて枯渇する。潤い求めて戦い続け―――」
「世界を穿つ力とならん」
「救うたび、乾いてく」
「「我、破壊を持ちて救うもの」」
「俺(主)の名は―――」
『―――オリジン。魔を穿つ光となる』
それを唱えた瞬間、直前まで近づいていたライオンを後方に吹き飛ばせ、真司の体を光とともに変えていく。
その現象に真司は戸惑わない。特段、この姿を知っているわけではない。
だが、彼は一人ではない。4と1で戦う戦士となった。
―――いや、5人で戦う戦士となった。
光が収まり、姿を現した真司の様相は、まったく違うものに変わっていた。
全身は白くなり、左の手首にはひし形のクリスタルが、赤青黄黒の順に円形に並んだものがつけられていた。
「契約はなされた。命を以て戦うこの男を止める力はないと知れ」
「これが俺の力の姿―――さあ、勝負だ」
そう言って木の枝を拾った彼は、剣に変形させて魔物と対峙した。
「人間ごときが……勝てるわけがないだろ!」
「そんなものはやってみなきゃわからねえだろうが」
「やらずともわかる。矮小な存在が戦えるはずがない」
「そう言ってるけど、お前はどう思う、青龍?」
「愚問だな。我がどんな存在だと思ってる」
「そうだな―――上位種なんだろ?やって見せろ」
そう言って真司は目の前の魔物に向かって走り出す。
相手もこちらに向かって攻撃を仕掛けてくるが、武器の分リーチが長い。それを利用して、間合いに相手を入れた瞬間に彼は剣を振り下ろした。
慣れない武器でつたない剣筋―――だが、強力な武器で相手を撫でることにより強力なダメージが相手に入った。
「ぐっ……!?」
「なんだなんだ、言う割にはその程度か!」
「なん、だ?人間になぜこんな力が!」
「ごちゃごちゃうるせえぞ!」
後退して魔物に距離をとられたが、それすぐに詰めて斬りつける。
強力な斬撃ゆえに、魔物はおろか、その後ろの方も斬り捨てていき、どんどん地面がえぐれていく。
おそらくここが立ち入り禁止の雑木林でなければ人が集まってしまっていただろう。
しかし、あまりにも距離をとろうと後ろに後退しすぎるので、我慢の限界に達した真司は、剣の柄の部分を刀身に対して45度に曲げる。
すると、刀身部分が少し縮み、半分に割れて少しだけ開いた。
武器が変形したことで相手は警戒するが、そんなこと意味はなかった。
おもむろに銃を構えた彼は、すぐに引き金を引いた。ためらいなく放たれた弾は真っすぐ進んでいき―――
「ぎっ!?」
―――弾を目で追うことすら許さない速度で魔物の腹を貫通した。
「速すぎねえか?」
「そういうものだ。考えるより、肌で感じたことで戦った方がいいと思うぞ」
「そうか―――やってみるわ」
そう言うと真司は、刀身を縦に割り、1本の両刃の剣を2本の片刃の剣に変化させる。
感じるがままに―――そう言われて彼は自分の使える力を選んで使う。
構えの姿勢を少しだけ取り、全力で踏み込む。すると、彼の視界が一気にゆっくりになり、彼の踏み込んだ地面も確かに抉れたのだが、打ち上げられた地面の石の落下速度が異常に落ちていた。
彼が異常なレベルで加速しているだけのことなのだが。
そのまま彼は双刀を使い、相手の懐に飛び込む。
真司の体感時間では何十秒にも及ぶ斬撃だったが、魔物の体感時間はコンマ1秒にも満たないレベルの攻撃。音すらも置き去りにするそれは、斬られたことすらわからなかった。
何十回もの斬撃を終えて、真司が元の時間軸に戻った瞬間、魔物にとっての時間が訪れる。
魔物の目の前に真司が現れたかと思えば、遅れてやってきた数々の斬撃。あらゆる方向から斬りつけられて、前のめりに倒れこもうとする。
しかし、彼はそれを許さなかった。
剣を捨て、生身となった彼は、左手についているクリスタルを押し込み、力を放出させる。
神にも等しい力が4つも一気に流れ込んだことによって、彼の意識は一瞬だけ飛ぶが、すぐに持ち直した。
「うおおおおおおおお!」
彼は走り出し、大きく跳び上がる。
それに呼応するように青龍が現れて、彼が前方向に攻撃できるようにエネルギーを飛ばす。
とてつもない速度まで加速した真司は、なんらの容赦もなく相手に突っ込んでいった。
「だあああああああ!」
「クッソがあああああ!」
真司の足は見事に相手の魔物の胸を捉えて、大きく後方に吹き飛ばす。
その直後、魔物は立ち上がったのだが、断末魔を上げながら爆散した。
「勝った、のか?」
「ああ、素晴らしい。やはり、お前は―――」
「うっ……!?」
青龍がなにかを言おうとしたが、バチバチっと真司の体に電流が走るような衝撃が流れて、その言葉を止められた。