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転校生が見送ってくれる

 『魔物だ』

 「……!」


 5時限目の途中、突然青龍の言葉が響いた。

 いろいろあって急なことに動揺がもろに出てしまう。それを隣で授業を聞いていたアリスが気付き、ノートに文を書いてそれを見せてくる。


 『どうしたの?』


 純粋に真司を心配する一文。彼女の善意に真司は胸がいっぱいになるが、今はそれに気を取られてるだけと言うわけにはいかない。


 『魔物だ』

 『魔物?』

 『言ってなかったっけ?』

 『聞いてないわ』

 『時間がないから簡潔に説明すると、この間アリスを襲ってたやつらの総称。町に出たらしいから』

 『そう、行ってくるのね?』

 『うん』


 先生が行ってくれている授業そっちのけで文字で会話する2人。これから真司は授業を抜け出すので、それを考えたら些細なことかもしれない。


 ガタッ


 「あ、十神!またお前か!今度と言う今度は―――」


 真司が立ち上がり、先生がそれを止めようとこちらに走り始める。

 それをさっさと撒こうと走り出そうとする彼の腕を、アリスはつかんだ。


 「喜瀬川、そのままつかんどけ!―――今度こそ!」


 何事かと振り向くと、彼女は俯き、頬を赤らめながら消え入りそうな声で言った。


 「怪我しないでね」

 「……!」


 たぶん、さっきの青龍の言葉より彼は動揺しただろう。

 誰かに心配されること。それもまた、最近は母親以外に口にされたことがなかったから。


 「うん、無傷で帰ってきてやるよ」


 その言葉を聞いた瞬間、アリスはつかんでいた手を離した。


 ガラガラガラ


 「くそっ!喜瀬川、もう少し長くつかんでおれんかったのか……」

 「……無理ですよ」

 「そうか、さすがに男には力じゃ―――」

 「彼の道を、何人もふさいじゃいけないんですよ」

 「……?なにをいっているんだ?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 授業中に学校を抜け出した真司は、数ある家屋の屋根の上を跳びながら移動している。

 もちろん変身している。さすがに素の状態でこんな芸当は到底不可能だ。


 「止まれ!そこのビルの屋上から様子を見るぞ!」

 「……どうした?」

 「気配の数が多い。少し様子を見るぞ―――魔界が戦法を変えた可能性がある」

 「わかった」


 真司は青龍の言葉を聞き、指定されたビルに飛び乗る。

 かなり気配そのものからは離れているが、変身状態の強化された視力なら、その気になれば見えるはずだ。


 しかし、視界に入った魔物“たち”を見て、二人は驚きの声をあげた。


 「おい、多すぎだろ」

 「いや、さすがに我も、あれは想定していない」


 真司たちが見たものとは、10や20で収まりようのない100を超えるほどの魔物の大軍勢だった。


 「セクト軍……いや、タイル―――混合軍……そう出てくるか」

 「あ?なに言ってんだ?この状況で知らない単語を増やさないでくれるか」

 「真司、メイズで撃ち抜け」

 「自分がどれだけめちゃくちゃなこと言ってるか、わかってる?―――まあやるけど」


 言って真司はクリスタルを回転させて押し込む。

 そうして、彼は地が黄色のメイズに変化する。


 変化した真司は、手近にある柵にある一本の棒を引きちぎる。さらにL字に折り曲げて銃のように持つ。

 まるで小学男児のようなことをするが、これも彼にとって大きな意味を持つ。


 柵から引きちぎられた上に、折り曲げられてただの棒と化したそれが、真司の手の中で先の戦いのときのような銃に形を変えた。


 しかし、それだけでは終わらず、真司はその銃のグリップを強く握り、バレル部分を反対側に強めに引っ張る。すると、機械音とともに銃身が引き延ばされて長くなる。

 さらに引き延ばされた銃身の左右から新たな機構が飛び出してくる。それらは、又状に広がっていき、良い感じのハの字を描いて止まる。


 グリップ部分も下に伸ばして持ち手を一気に長くする。

 それによって、至近距離でもどうにか扱えるような銃から、超遠距離専用のライフルモードに切り替わった。


 「ライフルモードの貫通力は高いから、セクト程度なら数体貫通できるぞ」

 「それくらい知ってるよ。これまで対複数戦はなかったわけじゃないだろ?」


 言いながら彼は、先頭集団に照準を合わせる。決して複数の弾が出るわけではなく、あくまで一回のアクションで1発まで。


 なら横なぎには撃てない―――つまり、縦ラインに一列に並ぶ集団を見つけなければならない。


 「ロックオン、対象は5」

 「5なら問題なく貫通できる」


 照準を合わせた真司は、迷わずトリガーを引く。それと同時に発射された弾は綺麗な直線を描きながら、敵の頭蓋を次々にぶち抜いていく。


 ズドン!


 数秒遅れて炸裂する爆発音―――いや、数秒遅れてこちらに聞こえてくると言った方がいいのだろうか。


 敵のほうは、突然仲間の頭が破裂したことと謎の爆発音で軽いパニック状態になって陣形が崩れ始めている。

 このままでは射線が取りづらくなってしまう。


 「ここは頭を―――」

 「却下だ。このまま敵の頭を撃ったら、奴らは確実に統制を失う。そうなると、四方八方に逃げる可能性がある。今のうちは、俺たちがさばききれない数の時に対象を討つべきではない」


 言いながら、真司は新たな弾を撃ち放つ。

 次々に当たり、貫通する弾。それによって、100もいた兵は見る見るうちに減っていき、数えられるほどになっていった。


 しかし、相手もそれで黙っているわけにはいかない。


 不利だと悟るやいなや、逃げの姿勢を逃げ始める。それと同時に、奴らの後方に空間のゆがみが生じ始めた。


 「魔界の門だ!逃げるぞ!」

 「了解―――ふぅ……―――いや、無理だ。間に合わねえ」

 「そうか。今のお前がそう言うのなら仕方がない―――我らも引くぞ」

 「やったー、早上がりだあ」

 「お前、わざとやってないよな?」

 「そんなわけないだろ?間に合わなかったのは本当だ」


 魔物たちが消えた後には倒壊した建物や、満身創痍やすでに死んでいる人たち。これまでとは比にならないほどの虐殺と略奪が行われていた。

 それを遠くから見ていた真司は、胸を締め付けられるような感覚を覚えた。


 「どんな力を持っても、助けられない命がある……か」

 『まさか、魔界がこんな侵攻の仕方をするとは―――もはや、数%程度の命などどうでもいいというのか?』

 「どの道だ。これで、日本は黙ってられなくなったはず。少なくとも、これからは自衛隊を出すことになるだろうな」

 『読みか?』

 「いや、予測だ。まあ、考えずとも国民思想がそうするだろうな。この混乱に乗じて日本侵攻を考える国も出てくるだろうな―――いや、さすがに言いすぎかな?」

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