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ZONBIE MARCHING STOPS

 報道は例のごとくクソだった。

 今回のゾンビの件は、ニュースでも特番を組まれるほどのものになった。


 今回の件に関しては伊集院の名前は堂々と使われて、彼の家にも取材班が来ていたらしく、妹も辟易としていたらしい。

 まあ、真司がそれを知ることはないのだが。


 テレビでは、専門家(笑)がまた登場し、的外れな意見だけを並べていた。

 そして、その意見のほとんどは今回の件はデモニアの討伐ではなく、殺人行為として伊集院と0号を裁くべきだ、という話だった。


 発端としては、国内の女性解放論自称活動家が、ネットニュースに噛みついたことからだった。


 元となったネットニュースは、伊集院と0号がゾンビの行進を止めたとまとめただけのものだった。

 だが、噛みついた活動家の意見は、男がどうの、女がどうのとかも行っていたが、要約すればこんなにも簡単に人を殺してもいいのかというものだった。


 この呟きが発端となり、ゾンビを殺すべきかどうなのかというネット上での議論が勃発。だが、その発端となったアカウントは、呟きの冒頭に殺されたゾンビが男だけでよかったなどという通常の人間ならば、普通思いつかないような意見も言っていたこともあり、通報を受けすぎて凍結されていた。


 なので、今からその発端の呟きを見ることはできないのだが。


 しかし、そのネットの流れを汲んだのか、テレビではそのツイートやネットでの意見を用いてニュースを作った。

 もはや、ゾンビを倒し、町の被害を抑えたなどということはトピックにすらならない。


 今の争点はゾンビを人間として扱うかどうかだ。

 第三者だからそんな馬鹿なことで話し合える。当事者じゃないから、問題の大きさもわからない。


 確かに今回の警察の避難誘導の流れは早かった。

 だが、それでも漏れはあったし、そこは責められるべきところだ。だが、それは警察側がもみ消したのか、トピックにもみ消されたのかわからないが、その報道は一切見かけることはない。


 まあ、報道もすべてがゾンビは人間だ。治すための薬を待つべきだ、という意見ばかりでたいした意見は出てこなかった。


 聞く価値もない―――いや、聞くに堪えない専門家(笑)達の意見は0号である真司の恋人のアリスのイライラを募らせていった。


 それを募らせた彼女は、ぶつっとテレビを消した。真司と明音が見ているだなんて関係なかった。

 見ていて不快。聞いていて不快。神のような耳を持つ彼女にそんな音を聞かせる方が悪い。


 「なんなのよ。毎回毎回……真司のおかげで被害が抑えられてるって言うのがわからないのかしら」

 「アリス……真司の真司はなにも言ってないんだからそう言ってやるな」

 「いやあ、俺も今回は擁護できないな。ゾンビを人間として認めるのは、賛同できない。まあ、例えるとするならな。もしもの話だ。もし、ゾンビになる原因がウイルスだったら―――おそらくこの世の病気で一番症状が似てるのは狂犬病だ」

 「狂犬病って、ゾンビパニック物のモデルになった病気のこと?」

 「ああ」


 真司の言葉に二人は意図を汲めなかった。

 行ってしまえば魔物の力によるゾンビ化と、ウイルスによる自然的な発症の狂犬病。二つは全く違うものだ。仮にだとしてもどこを結びつけるのか。


 それがわからず、首をかしげる。


 「噛まれてからゾンビになるまで一瞬だけラグがある。おそらくゾンビ化の発症は、傷口から脳に到達し、全身に力が行きわたるのに時間がかかるんだろうな噛まれて感染するっていうところが、一番似てるところかな。で、おそらくだがゾンビ化は力が回ることで肉体が死が訪れる現象―――つまり」

 「「つまり?」」

 「死が訪れた時点でそいつは助けられない。つまるところ、発症したら致死率がほぼ100%の狂犬病と同じようなものだ。テレビでは一種の病気として扱ってはいるが、この類似点に気付かないわけがない。どれだけその道の専門家がいると思ってる」


 真司の言葉の通り、このことに気付いている者は多い。

 しかし、テレビではそういった考えは報道されない。ゾンビを殺すしかないという意見は、議論にもならないし、注目を集めないからだろう。


 あからさまな報道姿勢にさすがの彼も擁護のしようがなかった。


 明音はというと、いつもこの時間帯の後にやっているロケコーナーを楽しみにしていたのだが、さすがにこの状況でテレビをつけなおすのはできなかった。


 「まあ、真司もアリスも思うところはあるだろうが、あっちがそれが仕事なんだ」

 「あの声色で本気で言ってるわよ?」

 「そ、そうか……」

 「息子と同じ年齢のやつに論破されんなよ……思想とか考え方自体は人によりけりだからな。仕方はないさ。俺がどう言われようともいいよ。ただ、伊集院とか言う警察の人間が実名報道で名指し批判されてるのはいただけないな」

 「そうよね。あんなに真司と一緒に戦ったのに。まあ、実際には見てないけど」


 真司たちの戦いはいろいろなカメラに押さえられていた。

 近くの家の監視カメラや、誰かが落としたスマホ、カメラ。そのデータはネット上で拡散され、その時の戦いはほとんどの人が認知している。


 どれだけテレビで批判されても彼には響かない。そりゃ、色々な意見がはびこるSNSや掲示板などのインターネット社会では真司と伊集院を擁護する声も多い。

 だが、彼が心折れず戦える理由など一つしかない。


 その感謝の意を伝えるため、真司は椅子から立ち上がり、アリスの腕を掴んで自身の母の隣まで行く。

 両隣に二人が来るようにして、対面に立つと彼は二人を抱きしめた。片腕ずつ母と恋人に回して、少しだけ力を込める。


 「やっぱアリスと母さんがわかってくれればなんでもいいや」

 「お前、マザコンとか今時流行んないぞ」

 「違うわ。さすがに母さんに対してアリスに向ける感情と同じものはわかねえよ」

 「まあ、そう言われると少しムカつくが、親を大切にするお前は孝行ものなんだろうな」

 「そんなわけねえだろ。そうだったら、俺は……」

 「もういいのよ、真司。あなたは私とお義母さんのおかげで心が折れなくていられる。それでいいじゃない。私はこういうのあったかくていいわよ」


 そう言いながら3人は誰も離れようとしなかった。

 その温かみは、誰も離したくないようだった。


 ピンポーン


 その空気をぶち壊したインターホンには全員殺意を覚えたものだが。


 だが、3人は知らなかったのだ。これが悲しみの始まりだということを。

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