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THE SHOTGUN ERROR

 彼がゾンビのとどめを伊集院と名乗る男に任せ、相手の足止めに専念する。

 しかし、それの効率が悪いことは本人が理解している。


 頭を撃てばいいと思いついたのなら、自分でやればいい。

 だが、彼はそれをしなかった。


 自分の武器が通じない可能性がある、というのなら、先ほどゾンビに穴をあけた銃を伊集院から奪って、自分で撃てばいい。

 コルバルトで超高速移動をしながら、相手を完封しつつとどめを刺すことは容易にできるだろう。


 なぜそれをしないのか。そんなこと、彼が一番最初に考えている。

 そして、答えも出ている。


 (たとえ相手がゾンビでも―――最後の最後で、人を手にかけたくないんだな)


 彼なりの心の弱さ。乗り越えたと言っても、彼が嬉々として人を殺すことはない。もし相手が自我を失っていても、敵の手に落ちたとしても―――たとえ、異形の存在になり果てていたとしても、だ。


 それを警察だからと、相手に押し付けてしまう行為も、彼にとって形容しがたいことではあるが、彼なりの心の守り方だった。


 メイズのまま彼は銃を構える。

 少なくとも、ライフルモードに替えなければ弾が貫通することはない。ただ、貫通しないだけで、威力はある。ゾンビは大きくノックバックする。


 彼はそれを利用しながら射撃し、自身の機動力を生かして近接に持ち込んだ。


 「青龍、俺は噛まれたらアウトか?」

 「我にもわかることではない。ただ、そこいらの魔術なら、それが侵入した時点で対抗魔術を我が作れる。今回の場合なら、ゾンビにする魔術に対してこちらが人間にするという魔術を作れる」

 「ならそれをほかの人に―――」

 「無理だ。たとえできたとしても、完全にゾンビになり切っている者たちには通じない。完全になり切らないから戻せるだけだ」

 「そうかよ……っ!」


 青龍の言葉で、人が救えると一瞬でも思ったのが間違いだった。

 そもそも青龍ができるのなら、それはもうすでにやっていたはずだ。やらなかったのは、そういうことだろう。


 動きが鈍重とはいえ、銃の照準を合わせるには少々難しい足で相手は動いている。


 近接で噛まれないようにしつつ、伊集院の射線上にゾンビの頭を置く。そう簡単にできることでもないが、やるしかない。


 まずは一人目。一番最初に出現したゾンビから。

 特殊部隊員がゾンビ化したものよりは、装備がなく、幾分かマシだと考えたからだ。


 「どらあああ!」


 彼は雄たけびを上げながらスライディングをする。

 相手の足を引っかけながら宙に浮かせて、下から何発か射撃する。


 腹部に弾が直撃し、一瞬だけポップアップし、そのまま地面に叩きつけられる。


 追撃にと、彼は背中から4発、四肢に向かって弾を放った。

 腕と足に穴が開き、運動器官を失ったゾンビは、なにもできないままにうごめく。


 「今だ!」

 「はい!」


 真司の声に応答して、伊集院が貫通弾を放つ。

 銃口から射撃された弾は完璧な軌道で、相手の頭に侵入し、脳天をぶち抜いた。


 ゾンビが、一瞬ビクッと体を震わせるとそのまま糸が切れたように動きが止まった。


 「読み通りだ。このまま行くぞ」

 「はい―――ですけど、相手の装備が……」

 「その弾は、あの装備を貫通できないのか?」

 「いや、そこまでは……でも、通らないと考えてから―――」

 「いや、先に試すぞ。最悪俺も撃つ」


 そう言うと、真司は残りの3体のゾンビに攻撃を仕掛ける。

 厄介なのが、わずかながらに生前の意識が残っているのか、少しだけ統率の名残のように、3体のゾンビは固まって行動していた。


 「いやあ、固まっちゃってるなあ……」

 「どうする?」

 「まあ、まとめてやるしかないでしょ。しゃあっ、行くぞ!」


 ズガガガと、射撃しながら相手へと近づいていく。

 しかし、弾は相手の体へと貫通どころか、当たっても弾が体内に侵入することもない。


 そして―――


 カチャ


 「なっ!?」

 「グギャアアアアア!」

 「それは、聞いてねえよ!」


 ゾンビたちは突然持っていた銃を構え、3方向から一気に彼に向けて射撃してくる。


 「0号!」

 「―――まずったまずった。まさか、武器を使う知能があるとはな。いや、生前の戦い方が影響しているのか?まあ、もう二度目はないぞ」

 「よかった……生きてた」


 盾は持っていない。警戒するべき武器は相手の所持している火器だ。

 変身した真司と言えど、特殊装備レベルを防げる確証はない。


 それに、伊集院に関しては生身の人間。完全ヘイトを彼自身が買わなければならない。


 それを理解したうえで、彼は走り出す。

 相手が訓練されたと言っても、結局は動きが鈍くなったゾンビだ。彼の機動力なら、相手の隙を作ることは難しくない。


 「今だ!」

 「はい!―――……っ!?」

 「どうした?早く撃て!」


 伊集院が突然引き金から指を放す。

 その行動に真司は驚いたが、それにさほど動じることなく一喝した。


 だが、それでも伊集院は撃たなかった。撃てなかった。


 「ダメです!射線上に、市民が!」

 「―――っ!?なんだと……って、伊集院!後ろ!」


 俺の叫びに合わせて伊集院は振り返ったが、唐突に現れたそれに驚いてしまった。

 真司が目の前に集中しすぎて、1体消えていることに気付かなかった。完全に彼の油断。


 いや、伊集院もそれは同じだ。1体に照準を合わせるためだけに集中力を使いすぎてしまった。


 後ろから迫ってくるゾンビに気付けなかった。

 そのせいで、不用意に体が強張ってしまい、間違えて伊集院は引き金を引いてしまった。


 弾丸は見事に先ほど照準を付けたゾンビへと真っすぐ進んでいき、それを貫通してからその真後ろにいた一般市民に向かっていった。

 一般市民は高齢者のようで、もはや自分の身に弾丸が近づいているなど気づきもしていないようだった。


 しかし、迫りくる弾丸は市民に当たることはなかった。


 カァン!


 コルバルトに変身した真司が横から弾を叩き落としたのだ。

 回転速度の速すぎる弾を少しでも触れたことで、手が焼けそうだったが、そんなこと彼は気にしなかった。


 そのまま高速状態を維持し、今度は伊集院に襲い掛かっているゾンビに向かっていく。


 左ひじを引いて、左半身で突撃するようにタックルをする。

 するとゾンビは後方に吹き飛んでいき、九死に一生を得たようだった。


 「立てるか?」

 「あ、ありがとうございます……」

 「さっきのゾンビも頭から外れたから、まだ生きてる―――あと、2発でなんとかするぞ」

 「はい……」

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