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TRANSFORMATION ISN'T EVERYTHING

 事故を起こした片側の車から出てきた男は、叫び声をあげると、一番近くにいた人―――つまり、もういい峰の車に乗っていた男につかみかかった。


 さすがにそこで異変を感じたのか、掴まれた方はなんとか振りほどこうと体をよじらせるが、まったくびくともしない。


 「え、ちょっ……なんなんですか!」

 「グアアアアアアアア!!」


 叫び声を上げながらゾンビは大きく口を開けて、つかんだ相手を噛みつこうとする。

 万事休すかと思われたが、口を大きく開けた男はいきなり大きく吹き飛んだ。


 次の瞬間に男の目に写ったのは、高校生くらいの男子だった。

 同性ですら目を引くような整った顔立ちに、目を奪われるが、すぐに自分の置かれた立場を思い出す。


 パニックになっりそうなところに、少年の声が響いた。


 「早く逃げろ!」

 「え、あ……」

 「ちっ、死にてえのか?」

 「あ、わ、わかりました!」


 少年の言葉をしっかりと受け止め、男は走り出した。

 その瞬間、周りにいた野次馬も混乱し始め、走って逃げる者やその場にとどまって撮影を始める者たち。


 最近発表されたばかりのゾンビ現象を間近にし、黙っていられないのが本音なのだろう。


 少年―――真司が対峙したのは、スーツを身にまとっただけの人。前と違って生身だ。

 なぜ前のような異形の姿をしていないのかは不思議だったが、それを気にしている余裕はない。


 彼が走り出したことによって取り残されたアリスも、できるだけ撮影している人たちが避難するように呼び掛けるが、その状況でカメラを向けるような人間が応じるはずもなかった。


 「あ、あの!避難してください!」

 「うるせえ!」

 「痛っ!」


 応じないだけならまだしも、手を出してきた。

 傷などはできなかったが、アリスの体には確かな痛みが走り、彼女はたまらず声に出してしまった。


 それに気づいた真司は、ゾンビそっちのけでアリスに手を上げた男の顔面に拳を振りぬく。


 バキッ!


 「ぐえっ―――な、なにすんだよ!」

 「これがあるから、避難しないのか……?だったら、こうするだけだ」


 そう言うと真司は殴られた反動で堕とされたスマホを拾い上げると、そのまま握る力を込め始める。

 端末は徐々にミシミシと音を立て始めて―――


 「お、おい!そんなことしたら壊れちまうだろ!」

 「なに言ってんだよ。壊すんだよ。こんなものがあるから避難しないんだろう?」

 「わ、わかった!ここから離れる!だからやめてくれ!」

 「ちっ……」


 男の言葉を聞いた真司はスマホを投げると、男はそれを拾い上げて走り去っていった。

 それを確認した真司は、振り返り真っすぐゾンビに視線を向ける。


 『変身するか?』

 「いや、人目がある。一人つぶしたとはいえ、撮影もされている」

 『生身でやるのか?』

 「長く戦ってきた。食い下がることくらいならできるさ。警察が来るまで一旦は耐えだ」


 そう言うと、彼は構えをとる。

 すると、戦いの本能に触れたのか、誰に襲い掛かろうかきょろきょろと視線を動かしていたのが、真っすぐ彼に向く。それと同時に両者の距離が一気に縮まり、近接戦が始まった。


 真司は両手を上げて抱きかかろうとする相手の視線から下方向に消え、そのまま足払いをかける。

 ただのそれなら普通に片足を払われる程度だが、彼の戦いによって精錬された高速の足払いは相手の両足を見事に巻き込み、体を空中に浮かせ、回転させる。


 足払いをするために体を全体的に下に寄らせていた真司は、相手が回転し終わる前に立ち上がり、そのまま拳を叩き込んだ。


 高速で拳を2,3発叩き込んで、後方の車に叩き込んだ。


 「ふぅ……いけるな」

 『油断は大敵だ。今までの敵とは違うんだ。どんな手を隠し持っているかわからない』

 「まあ、でも一応噛むという行為にはなにかありそうだな」

 『それはどうとる?』

 「おそらく、よくあるゾンビものみたいな―――あるいは狂犬病のごとくか。噛まれたらゾンビ状態が伝染するんじゃねえか?感染対象は人間限定か、それとも―――って感じだ。まあ俺らがどうなるかもわからない」

 『なら、変身に使わない魔力を、極薄の超短距離結界に使用するか?』

 「いや、いい。あの特殊スーツのやつが来れば、俺もこの場から一旦離れられるはずだ」


 そう言って戦法を組み立てる真司。だが、彼は知らない。現在、DBTの特殊スーツは破損。新しいスーツは短く見積もってもあと1週間はかかることを。


 だが、そうであっても警察は来るだろう。そこで彼が離脱すればいい。

 力のない一般人相手に離脱できるのかは別だが。まあ、なにも知らない警察は無理やりにでも彼を避難させるだろう。


 「おらあっ!」

 「ギシャッ!?」


 組み手をするまでもなく、蹴りや拳で対処が可能。

 確かに力は強いが、魔物ほどではない。おそらく強みがほかにあるのだろう。だが、それが今わかることはない。


 遠距離攻撃のような特殊能力も見受けられない。


 (どうする……?殺すべきか。いや、だがそれでも相手は人間だ。こいつにも家族もいるだろう……だが、ここで仕留めなければどんな被害が出るか……クソ、誰だよ。こんな……こんな!)


 怒りをぶつけるように彼のラッシュは激しくなっていき、彼がゾンビを押し気味なのは誰の目から見ても確かだった。


 怒りをぶつける相手が違うことは彼が一番わかっている。だが、どうしようもない。

 彼だってどうすればいいのかわからないのだ。


 『離れてください!』


 唐突に大きな声が一体に響いた。

 拡声器を使ったのか、あからさまに響く音で、真司もその呼びかけに応じて、一気に後退した。


 すると真司の前に盾を持った重装備の警官隊が前に出た。だが、攻勢に出ることは内容だった。


 「特殊部隊?」

 「対応を感謝します。ここからは我々警察が対処しますので、あなたは避難してください」

 「あんたは……?」

 「警察のDBT所属の伊集院と言います。ここからは特殊部隊が作戦に当たりますので、ここから避難してください。住民が近くにいるのに、火器を放つなどできませんから」

 「……わかった。行こう、アリス」


 ここで初めて会った伊集院の言葉を受け入れて、避難せずに彼の動向を陰から見ていたアリスに言葉をかけてその場から離れる。


 いつの間にか近隣住民たちは避難誘導を受けていたのか、彼の探知に引っかかる人間は、あのゾンビと警察の面々だけだった。

 しかし、彼は特に期待しなかった。警察が成果を上げることなど。

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