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THE RAIN OF TEARS

 「最近はずっと雨ねえ……これじゃあ真司とデートに行けないじゃない」

 「毎日俺の部屋にいる奴がなにを言ってるんだ。休みだからと呆れるほど来やがって」

 「あら?嫌だったのかしら?」

 「別に、嫌とは言ってねえけど」


 二人の言う通り、ここ最近は雨続きだった。

 予報ではこれから1週間も雨が続く予報。地域によっては土砂災害の警報なども出ているくらいだ。


 それくらい長く続く雨は、もしかしたらこれから悲劇の前触れ―――いや、真司自身の涙だったのかもしれない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「んー、帰ってきたわね」

 「そうだな。なんだか俺のせいでちゃんと向こうを楽しめたって感じがしないな」

 「しょうがないわよ。でも、おいしいものは食べられたからいいんじゃない?」

 「そうだな。真司、あんまり気にするな。あたしも休日を謳歌できた」


 そう言って明音とアリスは彼を慰めた。

 だが、彼の申し訳なさそうな表情は消えない。本当に彼がつぶれたせいなのは誰も否定はできないからだ。


 だが、テレビであれだけ好き勝手騒がれていた人が暴れていた騒動だが、真司が倒したものだけでなく、似たような事例は真司の住む街にも数件確認されていたらしい。


 だが、国が発表した事実は驚きのものがあった。


 町で暴れている人間だったものは、すでに死亡しているからだが動いているとされており、所謂ゾンビの状態だと。そう発表されて、SNSでは物議を醸していた。


 だが、国は鑑識の結果から得られる情報だけを話していると、発言し、それが嘘だと思うものは少ないだろう。だが、それを鵜呑みにする人物はそんなに多くない。つまるところ、世間半信半疑というところだ。


 まあ、被害者遺族は激高しているみたいだが。


 家に戻り、荷物を置いた真司たちは、少しだけゆっくりした後、明音が言った。


 「真司、アリスを送って行ってやれ」

 「いや、荷物片づけてから―――」

 「お前、恋人を自分の都合で待たせるのか?しかも、アリスのほうが荷物が多いんだぞ?」

 「い、いや……お義母さん、わたしそんなこと……」

 「いいんだよ。真司、これは男のエチケットみたいなもんだ―――わかるか?」

 「前時代のことを言いやがって。まあ、わからないでもないから従うけどさあ」


 そう言うと、真司は降ろしていた腰を持ち上げて、彼女のスーツケースを引っ張り始めた。

 アリスもそんな彼に続いて、慌てて外に飛び出していった。


 「待って、真司!」

 「はいはい―――左手空いてるから繋いでくぞ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 家を出てから少しして、アリスが口を開いた。


 「悪いわね、送ってもらっちゃって」

 「別に謝ることなんてどこにもないだろ。明るいとはいえ、アリスは綺麗だからな。十分警戒しないと」

 「あなたから素直にそういう言葉をもらえるようになったのは、嬉しいものね。最初はあんなに付き合うことに懐疑的だったくせに」

 「悪かったよ。まさか、こんなに口説いてくるとも思ってなかったんだよ」


 そう言うと、彼女はふふっと笑いながら真司の腕に抱き着いた。

 夏場なので、人肌の温もりというものは強く感じられないが、二人はそれ以上の幸せを感じていた。


 2人が腕を組むようにして歩いているので少しだけ歩きづらいが、ゆっくりと時間を楽しむように歩いていく。近所の人たちには、すぐにあの十神真司だと気づかれるがお構いなしだ。


 ちなみに、近所で真司はちょっとした有名人だった。

 昔、真司が全国に出たとき、それにあこがれて幼稚園や小学生の子供たちがこぞって水泳を始めたものだった。だからこそ、真司が水泳を辞めたのを残念に思っている人たちも多い。


 彼のファンだっていた。まあ、それは息子が頑張る姿を応援するようなものだが。


 そんな視線にアリスは気付いたのか、周りをちらちらと見渡す。


 「あなた、結構有名人なのね」

 「まあ、界隈だとそこそこ有名だったからな。近所の人は良く俺のこと聞いてきてたよ」

 「鬱陶しくなかったの?」

 「まあ、純粋に応援してくる人ばっかりだったから。むしろ学校の方が億劫だったかな。不躾に聞いてくることも多いから。胸デカい人いるのか、とかな」

 「あー、いそうね。そういう男子は」

 「競泳用水着で興奮するなんて、よくわかんねえな」

 「まあ、選手ならそう思うんじゃないのかしら?よくわからないけど」

 「アリスはそういうことなかったのか?」


 彼が言うと、彼女は少し考えるそぶりを見せながら言い始める。


 「まあ、私は最近の騒ぎとかあなたとの時間を取りたいとかで、コンサートとか全部蹴ってるけど―――前は休む暇もないくらいに仕事が詰まってる時もあったわね。だから、学校には私の居場所はなくて……いじめらめてたわけじゃないのよ?ただみんな、もうグループを作ってるから。あっちはやっぱりカーストとかが日本より根強いから。まあ、テレビに出た次の日くらいには注目されてたけど」

 「まあ、あっちじゃ有名人だもんな」

 「でも、それくらいならいいのよ。真司は知ってると思うけど、私っていい体してるじゃない?」

 「自分で言うのかよ。まあ、その通りだけど」

 「だから、不躾に抱かせろとか―――お金持ちの人によく言われたわね。わかってると思うけど、それでも私は真司が初めてだからね」

 「疑っちゃいねえよ」


 彼女の言葉に真司はそう返した。

 あの日の夜、彼女は破瓜の痛みに悶えていた。初めてなのは重々承知していた。だからこそ、守ってきたものを渡されたような気がして、愛おしかった。


 「私、あなたのこともっと知りたいわ」

 「そうだな……恩師が海外行くって言ってるし、ちょうどいい機会かもな」

 「そうね、まずはあの人とあなたの関係性をちゃんと知りたいわね。あなたの恋人として」

 「そうだな。あの人と出会ったのは小学生の頃でな―――」


 ズガアァァァン!


 「―――な、なんだ!?」


 唐突に響いた轟音。

 住宅街に似つかないその音は、周りにいた人たちをわらわらと集め始める。


 真司たちもその例にならい、音のした方へと向かっていった。


 音源では二つの車が、フロント部分をともに大破させて煙を上げていた。

 つまるところ事故だ。


 野次馬はどんどん集まってきて、ちょっとした人だかりになっていく。そんな中、当事者たちが車内から出てきて、互いの安否を確認しようとする。

 幸い搭乗者は運転手のみらしく、互いに怪我の状態を確認してから通報すればそれで終わりという感じだった。


 「うっ……な、この感じ……!」

 「どうした、アリス」

 「これ、あの時の―――」


 突然アリスが頭を押さえながら真司抱き着く。苦しそうに耳を塞いで彼女は彼に大事なことを伝える。


 それと同時に2人の運転者が車内から出てきて、片方の男が話しかけた。


 「あ、あの……大丈夫ですか?」

 「ダメ!その人、ゾンビよ!」

 「グアアアアアアアア!!」


 その瞬間、真司は走り出した。

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