THE WORDS SHE WANTS TO HEAR
『大特集!0号は敵か味方か!今夜、あなたは真実を見る!』
「なんだ、この昭和感の強い番組は……」
「し、真司、こんな番組ちゃダメよ!」
夕食を終えて、ゆっくりした真司たち3人は、母さんの泊まる部屋に行き、ゆっくりとしていた。
すると、なにげなくテレビをつけたところにさっきの番組タイトルコールが聞こえてきた。
それに気づいたアリスが、彼からリモコンを奪って、チャンネルを変えるか、電源を落とすかしたかったのか、それを彼が機敏な動きで回避。引き続きテレビを見続けようとした。
「真司……この番組は―――」
「今日の昼のことだろ?これ見よがしに被害者遺族を取り上げようとしてるんだろ。マスコミは、視聴者が食いつくなにかがあれば何でもいいんだよ」
「真司―――あなた、マスコミになにされたの?」
「アリス、あいつらは俺のことを記事になにを書き続けてきた?むしろ、手を出さないだけマシじゃないの?」
真司の言うマスコミの記事と言えば、ある過激的な専門家の意見のみを取り入れた『人類の敵?未確認の存在に迫る!』とか、SNSに叩かれまくって炎上した記事なのだが、出版社は一貫して確固たる証拠をもとに記事を書いているとして出した『0号がもたらす世界戦争への影響!』だとか
証拠もクソもない記事ばかりだった。
それだけなら別にかまわないのだが、どれこれもが0号は敵。戦争の火種になるなどと、散々な書かれようだった。
別に罵声を言いながら文句を言うことはないが、真司としても言いたいことくらいはある。
現に目の前の番組も、敵か味方かみたいなことを言っているが、結局どっちつかずな答えか、適当でっち上げでもやって敵だと断定するのがオチだろう。
そう思っていると、正直言って彼にとって想定外の画が映し出される。
「この人―――今日の昼の?」
「そうみたいね……あの後、報道陣に囲まれたみたい。かわいそうよね」
「……たぶん感情のぶつけようがなくなってるんだろ。テレビ側はめちゃくちゃごみなことやってるけど、この人にとって吐き出せるところがここにしかないんだろうな。俺はこんなだし、魔物なんか人間が鑑賞できるところにいないし」
「ご丁寧に子供の写真まで用意してあるぞ。ここまでされると、同じ一人息子を持つあたしでも、あからさまなお涙頂戴過ぎて見ていられないぞ」
スライドでどんどん流れてくる今日命を落とした子供の笑顔の写真の数々。
それに合わせて母親がどんな子だったかを後ろで言いながら、すすり泣く音が聞こえる。
悪いことはしたと思うが、こういうことをされると罪悪感はわかない。
正確には、テレビ側も母親側もお互いを利用しているようにしか見えなかった。
「真司……」
「大丈夫。アリスと母さんがいてくれるからな」
「そんなのでいのかしら?そう言ってくれるのは嬉しいのだけれど」
「そういうもんさ。さっきアリスが身をもって俺に教えてくれたから」
「そ、それならよかったわ……」
彼の言葉で先ほどのことを思い出してしまったのか、アリスの頬は紅く染まる。
さすがに真司に対して攻勢に出れるアリスも、こういう冷静な時やほかに誰かいるときは、少しだけ恥ずかしいようだった。
彼も多少のダメージはあるが、もう自分たちが肉体関係を持っていることなど母親にバレている。
それをわかっているからこそ、アリスほどの羞恥は感じていないだけだ。
「青春だねえ」
「これは青春って言うのか?なににとは言わないけど、溺れてるのほうが正しいと思うんだけど」
「お互いにこれから自制するつもりなんだろう?だったら、清い関係のうちさ。孫の顔を見たい気持ちはあるけど、息子のためにそこまでアリスに迷惑はかけられないしな」
「明音さん……」
「母さん……」
「その年で妊娠は本当に辛いぞ。経験者からの警告だ」
話が重すぎた。
確かに明音が真司を授かったのは、ちょうど今の彼らと同じくらいの時。
高校卒業とともに彼を産み、色々あって一人で彼を育てることになった。
大学も卒業していない、大した資格もない。そんな彼女に仕事をするというのは困難を極めた。
今の仕事は知り合いの伝手で入れてもらえた優良企業だが、ほんの数年前まで幼馴染の家である唯咲家に世話になることが多かった。勘違いはしないでほしいのだが、食事を一緒にさせてもらっただけで、お金を無心したわけではない。
だからこそ明音は、幼馴染である唯咲美穂と彼が仲良くなるのは必然だったし、真司の好きな人は美穂だけになるかと思っていた。
まあ、とんでもない状況に巻き込まれていて、とんでもなく可愛い子を連れてきたのだから驚いた。
それにも慣れてきて、二人の様子を見届けることに幸せすら感じていたのだが、やはり世間の動向がどうしても気になった。
息子の悪口を言われている気分。
アリスと同じように憤りは感じていた。だが、真司が思ったより怒っていない。いや、呆れているのだ。
昨今はSNSでも言われているように、テレビは品が落ちた。
いや、昔もコンプラがなかったのでないところはなかったが―――やはり視聴率を稼ぎたいというが露骨に見える。
「あたしも真司を失ったらこんなことするのだろうか……」
「絶対やめろよ。静かにさせてくれ」
「ふ……そうだな。静かにしていたいよな……」
それから2時間ほどだろうか。
番組も終わり、特にすることもなくなった真司とアリスはその場を立ち上がった。
「じゃあ、母さん―――おやすみ」
「ああ」
「お義母さん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。明日はそこそこに早いから、ほどほどにな」
そう言われてアリスは顔を真っ赤にした。
なにとは言われていないが、それを察してしまったのだ。
隣の部屋に行き、二人きりになった瞬間、アリスが踏み込んだ。
ぎゅっと真司に抱き着き、舐るようなキスをした。
「アリス―――恥ずかしいんじゃないのか?」
「馬鹿ね。私はあなたとだけなら大してよ。あなたがお義母さんの前で言っちゃうからじゃない」
「あの人は曲がりなりにも経験者だからな。わかっちゃうんだよ、どう隠しても」
「うーん……まあ、私は今幸せだからもういいわ。真司はどう?」
「その質問はずるいよ。答えなんてわかり切ってるくせに」
「当り前じゃない。でも、私は真司の言葉で聞きたいのよ」
そう言われて、真司は口をパクパクしながら時間を稼ぐ。
そうして、彼がひねり出した言葉は―――
―――「幸せだよ。アリス、愛してる」