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BEFORE TOO LATE

 イチャイチャしながらさらに水深が深いところまで歩いていく。

 真司が持ち前の力を生かして、アリスの両足を持って潜りながらその場で浮遊するように足を動かすと、まるで彼女が水面に立っているように見えているのだ。


 「あはは!すごい!すごいわ真司!」

 「ごぼごぼ……」

 「え?なんて言ってるかわから―――きゃあっ!?」


 バシャン!


 水中にいる真司の言葉はアリスに届かず、仕方ないと思った彼は、彼女の足を放し、自身が浮上する。

 突然放したので、当然のようにアリスは落下。彼が受け止めなければ、顔までしっかりと海水に浸かっていただろう。


 しかし、真司がそれを阻止するように彼女の腰のあたりに腕を回してキャッチした。


 「ひゃっ!?―――な、ナイスキャッチ……」

 「なんだ?沈められると思ったか?」

 「そんなわけないじゃない。ただ、ちょっとだけ驚いただけよ」


 そう言ってプイッと顔を背けるアリスだったが、数秒もしないうちに彼の方を向くと、ちゅっとキスをした。

 突然のそれに彼は驚いたのか、短時間の間だけ硬直してしまい、彼女が唇を離す瞬間に引き留めることができなかった。


 少しだけ気まずくなった二人は、それなりの時間水の中にいたということもあり、またあの徐が彼の背中に乗って海から上がった。


 「ふぅ、ありがとうね」

 「はは、俺も久しぶりに人を運びながら泳いだよ。いい運動になった」

 「ふふ、ならよかったわ」


 そんな会話をしながら真司とアリスは、明音の待つシートまで戻る。

 3人の用意していたシートの場所には、グラサンをかけて、キレッキレに決まっている明音が寝転がっていた。


 「いつも思うんだけど、お義母さんってワイルドよね」

 「いや、なにも言わないでくれ。あんなのを見せられる息子の気持ちにもなってくれ」

 「そ、そうね……纏うオーラがすごいから、ナンパとかに会わないんでしょうけど―――普通だったら近づいてきてもおかしくないわ。そりゃ、親のナンパされてるところなんて見たくないか」

 「あれは、もうそれ以前だろ……」


 近づいてきた二人に気付いたのか、明音はサングラスを外して2人に声をかける。


 「結構長いこと入ってたな?」

 「まあ、なんだかんだ楽しめたよ」

 「そうか、それはよかった。連れてきた甲斐があったよ」


 そう言うと、明音はまたその場に寝転がった。

 確かに昼飯までまだ時間がある。そうは言っても、さすがに放置しすぎじゃないだろうか?


 真司はそう思いながら呆れるが、アリスはもう少し泳ごうと、彼の水着を引っ張った。


 「ちょっ、なんで水着引っ張るの!?」 

 「ほら、行くわよ。さっきのあれ、もう一回やって頂戴」

 「別にそれくらいはいいけどさ」


 アリスにねだられながら真司ははもう一度海に出ようとするが―――


 「東京のまたデモニアが出たっぽいね」

 「ね、なんか0号が出てこないらしいよ」


 そんな会話が後ろから聞こえてきた。

 彼は会話に対して反射で顔を向け、会話の主たちがスマホを見ていることに気付いた。


 それを見た彼は、奪い去るように2人の女子たちからスマホを奪い取る。

 唐突に伸びてきた手にびっくりしたものの、すぐに自身のスマホが奪われたことを悟り、取り返そうとするが、真司はそれを飄々と躱しながら記事を確認した。


 2時間ほど前にデモニアが出現。

 今はDBTが応戦しているが、近くに大型病院などがあり戦いの長期化は危険。しかも、0号によく似た存在が襲ってきているため、対応はより難しくなっているとのこと。


 (青龍、なぜ気付かなかった?)

 『わからない。だが、すぐに向かった方がいいだろう』

 (そうだな。アリスには申し訳ないが……)


 「あ、悪かったな。これは返す」

 「あ、返してくれるんだ……」


 スマホを2人に返すと、彼はアリスのもとに向かっていく。

 表情が変わったのを敏感に察知したアリスは、ただ一言だけ聞いた。


 「行くの?」

 「ああ……すまない。もう―――」

 「別にいいわよ。こういうことはある程度想定済みよ。うーん、だったら今度一緒にプールに行きましょ?市民プールじゃなくて、あの遊べるタイプの」

 「ああ、わかった。そこでアリスのやりたいこと、全部やろう」


 そう言うと、真司は海岸の近くにある岩場に消えていった。

 彼の背中を見届けたアリスは、腰が抜けたようにとさっとその場に座り込んでしまった。


 楽しかった一夏の海の思い出。そうなるはずだった。

 実際楽しかった。キスも恥ずかしかったけど、心が満たされた。


 大好きな彼と一緒にいることに幸福感を覚えていたところにこれだ。

 真司は悪くない。魔物が悪い。本当に憎い。自分から大事な人を奪っていく魔物が。


 「本当、戦わないくせに、嫌な女……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 誰からも見えない岩場に隠れた真司は、言葉にして青龍に話しかけた。


 「青龍、変身から転移だ」

 『わかっている』


 言葉を介さずとも、青龍は真司の言いたいことを理解していたが、それでも真司は口頭での確認にこだわった。

 戦いの中でお互いの認識に齟齬があったら、それこそ大変なことだからだ。


 そうして真司は変身して、両手を組もうとしたときに―――


 「大樹ーっ!」

 「なんだ……?」


 唐突に聞こえてきた叫び声に彼の意識はそちらに向く。

 視線の先には、母親らしき女が海の方に向かって誰かの名前を叫んでいた。


 女の視線のほうに目を向けると、溺れかけているのかもがいている子供の姿があった。

 そして、その異変にも真司はすぐに気付いた。


 「なんだあれ?」

 「どうした?早くいかないのか?」

 「あれ、溺れてるんじゃなくて―――」


 子供は確かにもがいている。だが、すぐ近くに浮き輪もあるし、なんならつかんでいる。

 なのに、子供は浮き輪ごと沈んでいっている。叫んでいる母親はテンパって気づいていない様子だったが、彼にはそう見えた。


 そして、もう一つ。子供の下になにかの気配を感じた。

 それは、いつも感じるあの不快な感覚。それを感じたとき、青龍からの声を受け、戦いへと向かう。


 そんな気持ちの悪い感覚が子供の真下にいるかもしれない。


 「なあ青龍……」

 「なんだ?」

 「この場所に魔物はいるか?」

 「いれば我が―――む?いる。あの子供の下だ」


 その言葉を聞いた瞬間、真司はコルバルトに姿を変え、迷うことなく海の中に飛び込んだ。

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