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THE SWIMSUIT

 「人少なっ!」


 開口一番、アリスが言い放ったのはその一言だった。場所は福岡の宣告的には一切有名ではない浜だった。それでも真夏ということでまばらに人はいるし、まあ、海の家らしきものもあった。


 ホテルから出て、いの一番に向かったのはこの場所なのだが、やはり朝市ということもあって、ちゃんと人の間から砂が見える。


 アメリカ規模で考えたらもっと人はいるだろうし、彼女が経験しているものを考えたら、なんでもないただの砂浜だろう。

 テレビでも、砂浜―――海と言ったら沖縄というイメージが強く、その場所も人であふれている。


 一体彼女がなにを見て、なにを基準にしたのか。それを真司が知る術はないのだが、気にすることでもない。ただ今の時間に、アリスに笑顔になってもらえればいいだけのことなのだ。


 「海はアメリカでも行くのか?」

 「うーん、人が多すぎて泳ぐとかはできなかったわね。まあ、私のまとまった休みが、行楽シーズンとかのせいで人があふれかえっていたっていうのもあるのだけれど……」

 「へー、やっぱ芸能人とかいたのか?あっちのほうのはわかるけど、こっちのはわからないわよ。本当にただの日本人くらいにしか思ってないし―――あ、でも、お父さんが色紙持ってどこかに行くことはちょくちょくあったわね」

 「ちなみにそこって?」

 「ん?ハワイよ?」

 「じゃあ、お父さん日本芸能人のサインもらいに行ってるじゃん」


 そんなことを言いながら、俺たちは砂浜に併設された更衣室へと消えていった。

 互いに後で会おう、と言いながら中に入っていく。


 真司はすぐに服を脱ぎ、周りに人もいないので局部を隠すようなこともしない。

 まあ、すぐに水着も着るし、問題はない。


 そんなこんなであとは日焼け止めを塗るくらいですべて終わる真司は、割とすぐに更衣室から出てこれた。

 出た後は、アリスと母を待つために更衣室の前にあるベンチに座っているのだが、彼は自身に対しての周りの目が気になっていた。

 まあ、つまるところ、彼はちらちら見られていたのだ。


 確かに、彼はかなり強靭な肉体を表すような筋肉がついている。

 魅せるものではなく、正真正銘戦うための無駄のない筋肉。


 顔もそれなりに良いので、出会いだけが面食いの女子相手なら笑いかけるだけでコロッと堕とせてしまうものだろう。というより、学内での扱いが不憫なだけだ。本来、周りの反応はこれくらいあってもおかしくはないのだ。


 しかし、だからなんだということでもあるのだが。


 彼が更衣室の外に出てから10分ほど経過した後、2人が姿を現した。

 出てきたアリスは、いつかの時に一緒に買いに行った時の水着だった。自分と一緒に選んだということもあるが、昨日の情事を過ぎた後だと考えると、グッとくるものがあった。


 「おい……」


 真司は“露骨に”アリスの方だけを見て近づいていく。

 彼女の白い肌は、少しだけてらてらとしていて、日焼け止めを塗っているのがわかる。そんな目線に気付いたのか、アリスが言った。


 「真司、少し見過ぎよ……」

 「あ、ああ……わりぃ」

 「それは置いておいて、この姿は―――見せるのは初めてね。可愛いかしら?」


 そう言うアリスの質問を、隣の方から感じる殺気を無視しながら考える。


 無論、アリスは可愛い。それに間違いも誤解もない。

 ただ、今の彼女の姿が可愛いかと聞かれれば言いよどんでしまう。


 水着が明らかにセクシーよりなのだ。

 決して布面積が馬鹿みたいに狭いというわけではない。だが、彼女の魅力的な柔肌に、目を引くほどのスタイル。そんな美しい肢体に、いつもとは違って開放的な姿へと化す彼女のその水着は、エロスを感じさせるものがある。


 「なんというか、色々あったせいでいろいろな視点で考えちゃうけど、なんていうかアリスらしいって言うのかな?すっごい似合ってる」

 「あら?可愛いとは言ってくれないのね?」

 「勘弁してくれよ。普段からアリスは可愛いよ。今日は、格好とかも相まって、少しセクシーだな」

 「へ、へぇ……そ、そうかしら?」

 「恥ずかしいならつよがんな」


 アリスにだけ注目して話していると、ふいにグイッと彼の頭が引っ張られ、無理やり視線が自身の母に向かっていった。


 「あたしになんか言うことはないのかい?」

 「いや、母親が水着着て、俺はなにを言えばいいんだ?」

 「なんでもいいだろうが。母親とはいえ、超絶美人のあたしが水着を着てるんだ。一言あってもいいだろう?」

 「あ、アリスさーん」

 「私は凛々しくて、エロくていいと思うわよ?」

 「くっ、俺の恋人は母にすでに落とされていたというのか!」


 そんな余計なことを言ったせいか、もう一度真司の頭が、締められる。

 ギリギリと音を立てそうな勢いでやって来るので、彼はタップをしてなんとか解放してもらった。


 その光景はいろいろな人が目にすることになっているのだが、ただの親子のじゃれ合いと皆気にすることはない。親子連れならなおのこと。

 彼ら3人のことを気にするのは本当にそういうことが目的の者たちばかりだ。


 それをわかっているのか、3人は早々にその場を去り、ある程度人が密集しているところ―――海の家から比較的近いところにパラソルやシートを設置。明音は、そこで寝始め、真司とアリスは心配しつつも海の方へと向かっていく。


 ありきたりに水を掛け合ったかと思えば、唐突にアリスが真司の背中の上に乗り、深いところへ向かうように指示を出す。

 そのうちに足がつかないところまで行くのだが、真司は足をバタバタさせながら、アリスを上に乗せたまま水面に浮かび続ける。


 「あはは!すごいすごい!」

 「はぁ……はぁ……これめっちゃきついぞ」


 そう言いうと、アリスもさすがに申し訳ないと思ったのだが、すぐに背中からは降りたものの、結局彼女は真司抱き着き、しっかりと密着して彼の負担は変わらなかった。


 だからこそ彼は知らなかったのだ。

 この海の外―――砂浜の上で話題になっていることに。

 絶対に見逃してはいけない情報が、海を上がってスマホを見れば1発でわかることを。しかし、それを一瞬後悔するも、早くその問題の解決をしようとしなかったことを、正しい選択だったと思いなおすことになる。


 「ねえ、またデモニアってやつが現れたみたいだよ?」

 「えー、でもどうせ0号が倒しちゃうんでしょ?」

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