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THE APOSTLE

 渡辺の言葉を聞いて、伊集院は考えるよりも早く体が動き出していた。

 自宅のバイクを利用して、渦中の場所まで向かっていった。


 問題の距離はかなり長く、電車で数駅ほどの距離にあった。電車は無論、タクシーだって近づかなくなる。そうなれば移動は自宅の乗り物―――つまり、彼のバイクのみだ。


 彼は検挙されないレベルの速度まで引き上げて、現場へ急行していった。


 なぜこうなったのかというと―――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『デモニア目撃の通報有―――各隊は配置につき戦闘準備を』

 「聞いた?南条君」

 「はい、行きましょう、渡辺さん」


 意気揚々とスーツの装着場所に移動する南条を前に、渡辺は少し不安感を覚えていた。

 それは前の戦いのこと。唐突に彼は動きを止めたのだ。戦闘中であるというのに、一瞬彼の応答がなくなり呆然資質とした人間のように、視線カメラに写っていた映像も標的を捕らえたまま動かなかった。


 自信過剰な南条がこのような無様な真似をするのは、少し心配事だった。

 もし、次の戦いで似たようなことが起こったら。そう考えると、南条を装着員にしたことを、もっと反対するべきだったと考えてしまう。


 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、彼は言った。


 「今回もすぐに終わらせてしまいましょう」

 「……そうね。早く終わるに越したことはないわ」

 「どうですか?私を装着員として認めてくれますか?」

 「それは、まだまだ先よ。そんなこと言ってる暇があるのなら、さっさと終わらせてきなさい」


 無神経な南条の言葉に、彼女は最低限の言葉だけ返して彼を送り出した。

 南条は、粗雑な扱いを受けてもなお、渡辺のことを考えながら戦闘に向かう。ただ、彼に恋愛感情があるわけではない。


 ただ、自身が選ばれなかったことを妬んでいるのだ。

 今度こそ、彼女に自身が装着者に適切であると認めさせると。あんな、伊集院などという窓際に劣るなどありえないと。


 そうして、勝つ気満々で戦闘に出向いた南条は―――


 「がはぁっ!?」


 ―――無様にも相手側に嬲られていた。

 最初こそは押していたのだが、0号が現れないことに対する渡辺の不安が南条に直に伝わってしまった。


 確かに、南条が単独撃破したのは1体だけ。

 それからはこれと言った功績を上げていない。上の人間もたった1回の功績のために南条を担ぎ上げているのみ。


 所詮弱い方のデモニアを倒しただけ。


 それが顕著に表れてしまっていた。


 「はぁ……はぁ……」

 『南条君、まだスーツは破損していないわ。まだ戦えるわよ!』

 「ごふっ……」


 渡辺の言葉に、南条は一切返答しなかった。代わりに、自身のせき込みをマイクに吹き込み、かなり追い詰められていることを意図せずに伝えてしまっていた。


 しかし、それで相手の猛攻が収まるはずもなく、南条は次々に後方に吹き飛ばされていく。

 住民の避難が済んでいなければ、犠牲者が出ていたところだろう。


 「ふんっ!」

 「がはっ!?」


 確かにデモニアは異質だった。

 顔が崩れかかっているし、攻撃方法も謎。


 相手が手をかざした瞬間に、南条が吹き飛ばされるのだ。


 その謎の攻撃に、彼は恐れをなし、立つことができなくなった。

 なんどもなんども見えない攻撃を受けて―――


 彼の心は折れてしまった。


 地面に倒れ伏せる南条はゆっくりと腰に手を回して、緊急解除スイッチに指を伸ばす。

 その動きに気付いた渡辺は怒鳴った。


 『南条君!まだユニットは損壊してない!まだ戦えるわ!』

 「はぁ……はぁ……ふざ、ふざけるな……」

 『緊急離脱装置起動……南条君!』


 マスクも脱げ、渡辺の声は南条に届かなくなり、八方塞がりとなった。

 抜け殻となったスーツを残して走り去っていってしまった南条を見たデモニアは、破壊活動を再開した。


 『まずいわ……今デモニアが出現している場所は、近くに大型の病院がある。電力は止まっても問題ないけど、いつあれが病院に行くのかも……仕方ないわ。こうなったら処分も覚悟でやるしかない』


 そんなつぶやきがユニットのヘッドスピーカーから聞こえたが、それに呼応するものは誰もいなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『魔物だ』


 カタ……


 飯を食らっていた加藤は動きを止めた。

 中の魔物が察知したからだ。


 仲間の気配を察知する。それは、それに対抗する戦力も現れている証拠だ。

 その中には、警察組織だけでなく、0号―――魔界が『オリジン』と呼称する存在だ。


 「オリジン……」

 『行くぞ』

 「ああ、今度こそあいつを……」

 『いや、オリジンは来ないぞ』

 「は、なんで?」

 『今回はおそらくアピスの使い魔の波動だ。四神レベルの魔物には観測できないほどの微弱な魔力奴は来ない。まあ、ホウドウ?なるものをされていたら来るかもしれないが』


 エルダーの使徒。今回の魔物はそんないつもとは違う魔物。

 力こそは主のエルダー級のものに匹敵するが、それを使う目的は新たな力を体に慣らすためのもの。


 行ってしまえば、エルダー級が人形を使って自身の魔力を使用していくもの。

 つまり、使途自体に魔力はない。エルダーの力を通すときにわずかな波が生まれるが、それをはるかに凌駕する魔力量を持つ四神はそれの観測が不可能なのだ。


 その説明を聞いた加藤は、飯を残したまま家を飛び出していくのだった。


 残された家の中、彼の母親がリビングに入ってくる。


 「こんなに残して……最近食べる量が増えたかと思えば、急にどこかに行く。食費がかさむし……この残った料理も捨てると怒られる。どうしちゃったのかしら、あの子……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 入電を受けた伊集院は、現着次第スーツを即座に見つけ出し、ヘッドマイクを使って渡辺の呼びかけた。

 

 「伊集院、現着しました!」

 『よく来たわ。とにかく、早く装着して、一番近くの総合病院に向かって』

 「装着って言っても、緩衝用のスーツが……」

 『そうね、でも仕方ないわ。死ぬほど痛いと思うけど、やるしかないわ。あのバカがそのスーツごと逃げていったのだから』

 「わかりました。特殊スーツ装着します」


 そう言うと伊集院は、緩衝スーツなしという状況でも、躊躇なく戦いに向かっていくのだった。

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