THE AFTER
朝―――と言っても、早朝の5時なのだが、目を開けると目の前には端正な顔立ちの女子がいた。
真司の記憶は、夜遅くまで彼女と絡み続け、彼女の意識が切れたところで、もう片方の布団に運んだところで途切れている。
かなりの長時間の活動で、彼女もだが、真司もかなりの限界が来ていたのだろう。
それでも早朝に起きてしまったのは、慣れないベッドで寝たからだろう。
どんなにふかふかでも、どんなに綺麗なベッドでも、慣れ親しんだ自分のものにはかなわない。
あまり長い時間寝ることができなかった彼は、彼女を起こさないように布団から出ようとするのだが、一つ問題があった。
自身の右腕に彼女が抱き着いていたのだ。
このままでは身動きが取れないと、彼は彼女の腕を持つのだが―――
「なにしてる?」
「どわぁ!?お、起きてたのか?」
「あなたがゴソゴソし始めたからよ……ふわぁ」
「それは悪かったな。ちょっと俺は体洗うために風呂入ってくる」
「こんな朝早くても入れるの?」
「パンフだと、清掃の時間がかぶってないっぽいからいけるでしょ」
「へぇ……私も行こうかしら。色々なのでベタベタだし」
そう言うと、アリスも起き上がる。
だが、二人とも昨日のまま寝てしまったので、生まれたときと同じ格好である。起き上がったことによって布団がはがれてしまい、アリスのすべてがあらわになると―――
「ひゃっ!?」
「わ、悪いっ……」
「べ、別にいいのだけれど……は、恥ずかしいわね」
「とりあえず、浴衣だけでも着るか」
彼らはお互いの体を見ないように散乱した浴衣を着る。
あれほどお互いの体を見たのに、やはり恥ずかしいのが青春というものなのかもしれない。
着替えが終わった後、真司はふと自分たちがいたしていたベッドを見た。
そこには遠くから見てもわかるほどに、シーツが赤と黄色に変色していた。
「あんまり見ないでくれるかしら?」
「いや、俺たちあそこでしたんだなー、って」
「私は言ったのよ。トイレに行きたいって。真司のせいなんだからね」
「それは悪かったよ。俺も歯止めがきかなかったんだよ」
夜中のことを思い出し、自身が受けた仕打ちも一緒に思い出した彼女は一瞬、むすっとしたが、すぐに真司に抱き着いた。
「ほら、お風呂に行くわよ。とりあえず、体を綺麗にしたらもう一回寝るわよ」
そう言いながらアリスは真司にくっつきながら準備をする。
バスタオルや体を洗うタオルなど、抱き着いていて満足に動けない真司の分も合わせて、アリスはせかせかとその部屋の中を真司を連れて回った。
そうして2人は部屋を出ようとしたのだが、アリスはなにかを思い出したように言った。
「真司……」
「なんだ?」
「思ってたより痛くなかったし、気持ちよかったわよ」
「急になんだ?―――まあ、でも、よかったよ」
「それだけよ。さ、お風呂に行くわよ」
そんなアリスの言葉は、真司の少し戸惑った声とともに、まだかすかに暗い外の景色に消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お風呂に入って身を清めた二人は、浴衣を身にまとうと、再度布団の中に入った。
しかし、真司は湯浴みをしたせいか眠気などなくなっていた。
それはアリスも同じようで、彼女も真司の腕の中でもぞもぞと態勢を入れ替えたりと、大変そうだった。
「眠れないわね……」
「仕方ないな」
「もう一回、する?」
「いや、もうゴムがないだろ」
「そうね―――夜の真司は狼そのものだったものね」
「うっせ……」
二人が身を寄せ合いながら話すのは、昨日の出来事。
初めてだからか、二人の思ったことや感じたこと。その全部を話そうとしていた。これから、またすることにはなるので、より良いものを。そんな考えからでしかない。
別に暇だからとか、そういうわけではない。お互いに、お互いを思いあうからこそ互いの感想を言い合うのだ。
「なあアリス」
「なにかしら?」
「旅行が終わったら、するのは週に1回だけにしないか?」
「そうね……でも、理由を聞いていいかしら?」
「疲れるんだ。現に、今は腰がめちゃくちゃ痛い」
「回数を押さえればいいんじゃない?」
「わかってる癖に―――もう、歯止めが効かないんだよ。アリスを前にすると、気持ちが抑えきれない」
「ふふ、わかった。毎週の土日の間の夜にしましょう。実のところ、私も結構疲れてるのよ」
「まあ、アリスは気絶しちゃったもんな」
互いのルールを設け、愛し合う。
彼女はゴムをしないでいいとは思ったが、そこは真司の譲れないところだった。
子供ができたら、苦労するのは彼じゃない。
アリスが痛い思いをして産んだのに、それが苦になってしまうかもしれないと思うと、そんなことはできなかった。
まあ、無責任に相手を妊娠させるより全然いいことなのだが、アリスの気持ちを近くで聞いている真司は、最後まで葛藤はした。彼女のためにと、買ったゴム。それは本当に彼女のためなのかわからなかった。
恩師から聞いたアリスの噂。それをしないことも選択肢だった。
「悩まなくっていいわよ」
「アリス……」
「あなたが私のことを思ってるのは、いつもわかってる。昨日だって、私のことを思って、自分より私を優先した行為だった。これ以上は、私のわがままよ」
そう言って、彼女は彼の胸に顔を埋めた。
彼女の温かみを覚えながら、真司は彼女を抱きしめる。
そろそろ時刻は6時半―――学校に通う二人がいつも起きている時間を回りそうだった。
朝ごはんの時間は、8時。
まだ起きるには早い時間でもある。それまで2人はお互いの体温を共有しながら再度眠りにつこうとする。
しばらくして、アリスが眠りについたのかと確認するために、彼女の耳を触って確認する。
すると、目を閉じていた彼女が―――
「やめなさい―――私は、耳が性感帯なのよ」
「なに言ってんだよ……」
と、言いながら顔を真っ赤にした。
彼の触れていた耳は、水は沸くんじゃないかと思うくらいに熱くなってしまっている。
真司に釘を刺したアリスはもう一度目を閉じたのだが、なにかを思い出したかのように目を開けると、すぐに彼の目線と同じ位置に顔を上げ、言った。
「そうだ。キス―――キスは毎日してくれるわよね?」
「それくらいなら、いくらでもできるよ」
「そう……じゃあ、今しなさい。ほら、早く」
「はいはい」
そう言って2人は軽めのキスをした後、少しだけ短い睡眠に意識を落した。