THE VOW OF LOVE
食事を始めてしばらくすると、アリスの食事の手が止まった。
なにかを考え込むように顔を伏せ、フォークを持っていた手が完全に静止している。
反面、戦闘や日々のストレスから食べる量が多い真司は、バクバク食べている。しかし、ちゃんとアリスの異変に気付いた真司は彼女に疑念を持った。
「どうしたんだ?」
「いや、その……」
真司の言葉に対しても、アリスは口をつぐむ。それではなにもわからないと顔をしかめる真司だったが、明音はなにかを察したのか、アリスに言った。
「私が言うのもあれだし、アリスが真司に可愛く見られたいのはわかる。だけどな、真司は無理に食べようとしない子より、幸せそうに笑顔でご飯を食べる子が好きだぞ」
「待って―――なんで俺の好きなタイプが親に割れてるの?」
「笑顔で食べる……」
明音の言葉に真司は引っかかるところがあったが、今は触れている場合でもないようだった。
明音の言葉に、少し考えるような素振りを見せたアリスは決心したように動く。
明音に癖を看破されて唖然としていた真司の箸に掴まれていたゴマ団子を頬張った。
「あ、なにすんだよ!」
「むふふ―――いいじゃない。あ、おいしい」
「笑顔ってそういう意味じゃ……まあ、いいか」
「はは、惚れた弱みってやつだな」
「俺って、一応惚れられた側だったんだけどなあ……」
「私の甲斐甲斐しいアプローチに、真司も落ちちゃったのね」
「そう言われると腹立つな」
真司はそう言うと、食べ物を取りに行く。アリスに食べられたゴマ団子もだが、今ので真司の前のプレートの上に食べ物がなくなってしまったのだ。
彼が去って、女2人だけの空間になったその場で明音は先ほどのことについてまたも言及した。
「別にアリスはスタイル良いんだから、今日お腹いっぱい食べても問題ないだろ?」
「でも、この後だから、お腹が出るのが、って思って。あと、少し動ける余裕を持っておきたいし……」
「それもそうだけど……無理して食べるのを我慢しないほうがいいぞ?あいつはなにかと聡いところがある。真意がわからなくても、我慢してるのはわかるんだよ。別に腹が出るまで食えとは言わない。でも、物欲しそうな顔で食べるのはやめるな」
「え?そんな顔してました?」
明音の詩的にアリスは驚いた。確かにもう少し食べたいとは思ったが、そこまで顔に表れてるとは思わなかった。
それを知った彼女は、少しだけ申し訳ない気持ちになる。こんな楽しい旅行についてきているのに、そんな表情を見せてしまったことに。
だが、明音はそんなこと思っていない。
「ほら、そんな顔しない」
「へ……?」
「あいつが好きなのは、落ち込んでるそんな表情より、いつもの笑ってる表情だろ。あいつもいい年だから、もう私ができることは少ない。アリス―――お前があいつのすべてを……」
「お義母さん、任せてください」
少しだけしんみりとした空気になったところに真司が戻ってくる。
プレートの上には、スパゲティや刺身―――和洋中様々な料理が並んでいた。
プレートだけでなく、小皿にすら盛ってきている彼の大食いぶりにはアリスも目を見張った。
その後は、真司の食べっぷりも見ながらアリスたちは談笑し、笑うのだった。
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食事を終えて部屋に戻ってきた2人は、食事前のようにくっつくことはなかった。
まあ、アリスはこれからのことでいっぱいいっぱいだし。真司もなんとなく空気感を察していた。
だからこそ、なんだか二人の距離感がわからなくなっていた。
その沈黙を破ったのはアリスだった。
「ね、寝る前にお風呂入りましょう!」
「あ、ああ、そうだな」
そう言うと、部屋の鍵をアリスに預けて真司は風呂に入っていった。無論アリスも入りに行ったのだが、やることがあったので、良い感じに身を清めた彼女はとんでもない速さでそこから上がった。
それから1時間して、覚悟を決めるのに時間がかかった真司が部屋に戻ると、もじもじしているアリスがそこにいた。
「お、おかえり……」
「た、ただいま……」
真司の目には心なしか、アリスの浴衣がはだけているように見える。
もう、真司の察しは確信に変わった。今日この日に、彼女は大人になろうとしている。
それをわかっていながら、真司は一歩離れたところに座った。しかし、彼女はその距離を詰めるように真司にぴったりとくっついた。
くっついたかと思えば、アリスは彼の背中に手を伸ばして体を押し付ける。
布越しに伝わるアリスの温もりに、真司も少しずつ理性が溶けていく。
「真司……」
「アリス、いいのか?」
「うん……今日のためにいっぱい調べてきた。ここはそういう場所じゃないから、最低限のやらなきゃいけないこととか……」
「母さんの入れ知恵?」
「それも、あるけど……ほら、ベッドにビニールとその上に自前のシーツだってかぶせてる。私は最後までいきたい」
アリスに誘導されて、ベッドの方を見ると、確かに二つあるうちのベッドの片方が少しだけ違って見えた。というより、掛け布団がないし、少しだけ膨らんでいるのだ。
おそらくそっち側が、アリスの準備したほうのベッドだろう。
真司は少しだけ申し訳なく思った。
彼女にこんな準備をさせてしまったことを。こういったことは、男である真司がやるべきだった。男女差別がどうの以前に、彼女が覚悟を持って自分に体をささげようとしているのに、ここまで準備させたことが問題なのだ。
彼女の過去のことも知っている。ここまでの彼女の覚悟も受け取った。
彼はもう「NO」という選択肢などあるはずがない。
「アリス……初めては痛いらしい」
「知ってるわよ。でも、あなたとの温もりを感じるためよ」
「俺も経験ないから、うまくないぞ?」
「うまかったらうまかったらでショックよ。むしろ、あなたの初めてで嬉しいわ」
「これからの甲斐性なんて―――ないぞ……」
「いいわよ。それまで優しくしてくれれば」
気づけば真司はアリスの唇に自身のものを重ねていた。
舐り、絡め、水分の音を立てながら彼女を抱きしめる。
「んぅ……真司……」
「アリス、しようか……」
「えぇ、優しくね?」
「わかってる」
そう言うと真司は、アリスを持ち上げてベッドの上まで持っていくと、浴衣をはだけさせる。
生まれたままの姿となった2人は、その日の夜、ついにつながった。