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THE BLOOD CANNON

 「はぁ……はぁ……こ、ここまでくれば……」


 息を切らせる男―――汗をだらだらと流しながら走る男は、帰宅途中なのか、スーツを身にまとっていた。しかし、荷物などはどこかに落としてきたのか、手には何も持っていなかった。まあ、こんなになるまで走っているのであれば、当たり前なのかもしれないが。


 男が走りながら後ろを確認すると、いつの間にか撒いたのかわからないが、自分を追いかけてきている存在の姿は見当たらなかった。


 しかし、それでも走り続ける。

 自分を追いかける存在の姿を一瞬でも見てしまったので、逃げ切ったように見えても、いつまで追いかけられているような気がしてならないのだ。


 それから10分ほど走り続け、男の自宅からかなり離れたところに来て、少し休憩する。息を切らしながら少しだけとベンチに座り、冷静になると自身の身に起こったことを思い出す。


 男はただいつも通りに会社から帰宅していただけだ。

 普段通りに最寄り駅を降りて、明かりの少ない道を通って自宅へと向かって言っていたはずだった。


 だが、見てしまった。見てしまったのだ。

 なにかの気配を感じて、普段は近づくことすらない裏路地の中に入り、目を細めながら真っ暗な暗闇の中を見てしまった。


 段々と目が慣れてきて、真っ暗の中でもうっすら見えたその光景とは―――


 倒れている人の前にたたずむ化け物の姿だった。

 その化け物と目が合った瞬間、男は走り出す。命の危険を感じて走り出したのだ。


 それだけならよかったかもしれないが、走って裏路地から抜けようとしたとき、化け物がこちらを見て追いかけてきたような気がしたのだ。


 「はぁ……はぁ……もしかして、あれが、デモニア……?」


 報道だけでしか聞いたことないが、男にもその正体はわかることができる。しかし、状況が好転するわけではない。


 「とにかく早く逃げない……と……ひぃっ!?」


 息を整えてもう一度走り出そうとした瞬間、ベンチのある公園も入口にあの化け物の姿が見えたのだ。

 これ以上ない恐怖を感じた男は、必死にその場を離れようとするが、何もかも遅かった。


 「あが……ぬあっ!」

 「かっ!?」


 化け物がうめき声を上げながら両手を広げた瞬間、胸からなにかが飛び出し、背を向けて走っていた男に突き刺さった。

 刺さった瞬間に、その勢いで男は前方に吹き飛ばされたが、そんな些細なこと。そう、次の瞬間に起きたことを考えれば何でもないことだった。


 「―――かっ……!?あがっ……!?」


 針が刺さった次の瞬間、男の体に異変が起きた。言い表しようのない地獄のような感覚。

 強いて例えるとするなら、全身を一点だけから吸われているような妙な感覚。そして、それが命に係わる致命的なことを起こしていることにも気づいてしまう。


 声を出して、助けを呼ぼうとするが、喉はかさつき声が出ない。それならばと、冷静にその場を離れようとするが、足が動かない―――いや、思考ができない。

 なんだか虚脱感もひどく、冷や汗が止まらない。しかも。段々とそれを感じることもできなくなってきている。


 薄れいく意識の中、男は自身の妻と娘の安全を心配し、帰ろうと手を伸ばすのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 時間は進んで―――いや、渡辺が伊集院の家を訪問している時


 「あ、そういえばあなたに共有しておいた方がいいと思うことがあったの忘れてたわ」

 「共有……?」

 「知ってるかしら?最近頻発している不審死のこと」

 「あー、外傷や通院歴などがないのに立て続けに人が亡くなっている、例の?」

 「えぇ―――それが、また新しい被害者が出てね。ほかの被害者も合わせて検死結果が出たからあなたにも伝えておくわ」

 「はい。それで、死因は?」

 「失血症よ」


 渡辺の言葉を聞いて、伊集院は不思議そうな顔をした。

 失血症なら血をたくさん失ったということ。しかし、死体は出血の跡どころか外傷すら確認されていない。死体のうえ、死んでから時間も経っていため、肌の血色の判別はつけづらかったが、それでも失血につながるような傷はなかったと聞いている。


 だというのに、死因は『失血』

 その疑問に答えるように渡辺は続けた。


 「それにね。おかしいのよ。失血症なのに、体内の水分はほとんどなくなってないのよ」

 「水分が……?」

 「もちろん、自然的な蒸発量を考えてよ。失血症になるほど血を出したのなら、体内の水分が大きくなくなっていてしかるべきなのよ」

 「でも、それがなかったと」

 「そうなのよ。検死報告によると、水分量は適正。ただし、血中内のある物だけ以上に割合が減っていたらしいわ」


 言いながら渡辺は報告書をぴらぴらさせると、端的に言った。


 「体内の赤血球だけなくなっていたのよ」

 「はい……?いや、血だけがなくなるならまだしも、赤血球だけって……」

 「でも、本当なのよ。実際、血液はしっかり残ってた。まあ、赤色ですらなかったんだけどね。白血球とかは普通にあったみたい。本当に不思議な死に方よ」


 不思議な死に方。それは言えていた。

 不審死の時点で、不思議なのはそうなのだが、渡辺から検死資料を受け取った伊集院は認めざるを得なかった。


 赤血球だけなくなっているこの死体のことを。


 「でも、目的は何なんですかね?」

 「わかるわけないでしょ?でも、血液中から赤血球だけ狙う。ただの人間には不可能よ。この私ですらその方法は考えつかないもの」

 「じゃあ、これは人の所業ではないと?」

 「ええ、十中八九デモニアの仕業ね。でも、今回のこれは0号の出現も確認されてないから、本当に知能犯という可能性も無きにしも非ずと言ったところかしら」

 「0号……」


 今回の事件、0号が出てきていれば、相手の姿を見ていなくてもデモニアの仕業だと断定できる。

 しかし、目撃証言も0号も誰もいない。


 操作は難航しているのではなく、あくまでデモニアの手口だと断定。渡辺もその考えに異はないが、そんなことよりも早く伊集院に戻ってきてほしい様子だった。

 そうでなければ、足しげく彼の家に行くことはない。


 「0号……どんな人なんですかね?」

 「普通の人よ。少し勇気があるだけの、ただの人間よ」

 「ただの、人間……ですか」


 正体がわからない0号の姿を考えると、キリがないのだが、まあ当の本人は、恋人の胸に顔を埋めながら眠っているのだが……

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