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THE OVERHEAT

 「はぁはぁ……おか……お母さん!」


 絶望に打ちひしがれている少年の目の前にあるのは、真っ黒になった人だったなにかだった。

 口ぶりから少年の母親であることは明確だが、傍から見ればその光景は残酷で、少年がその場にいることは愚かであった。


 灰と化しつつある町の中を徘徊していた魔物のターゲットにその少年が選ばれてしまう。


 「グルル……」


 魔物がうなり声を上げながら少年に近づいていくが、悲しみに打ちひしがれる彼が気付くことはない。

 一歩、また一歩と歩みを進めながら少年に近づいていき、口を半開きにしながら少しずつ構えを取る。


 ガッ!


 そんな魔物に対して後ろからしがみついて少年から引きはがそうとする者が現れる。誰でもないDBTスーツ着用の南条だった。


 「逃げなさい!早く!」

 「……お、お母さんが……!」

 「現実を見なさい!今はあなたが逃げることが最優先です!」

 「でも……!」

 「死にたくないのなら早く逃げなさい!じゃないのなら、私があなたを撃ちます。早くいきなさい!」


 その言葉を聞いて、少年は目の色を変えてその場を去っていく。

 少年の後姿を見届けた南条は、自身の手から魔物を解放して、生まれた隙にドロップキックをお見舞いする。


 「アッツ……!?」

 『腕部ユニットオーバーヒート!南条君、相手に触り過ぎよ!』

 「触ってもダメというわけですか……渡辺さん、腕部の温度はどのくらいまで上がりましたか?」

 『オーバーヒートってことは、耐熱温度の400℃を超えられたってことね。でも、長時間触れない限りはこちらの温度が急激に上昇するわけじゃないから、拳などが駄目なわけではないわよ』

 「……わかりました」


 渡辺の言葉を聞きながら南条は腕の温度が少しでも下がるのを期待する。

 しかし、ほんのり温かさを感じる腕が冷たくなる様子がうかがえない。


 出来るだけ腕に負担を与えないように戦うしかない。


 そう思った彼はバイクから銃のアタッチメントを取り出し、持っていた武器に装着する。


 『えーっと、アタッチメントオン―――DBT携行ショットガン、アクティブ』


 銃の機能が解放されたとみるや否や、南条は持ち手部分をスライドさせて待機状態に入る。

 そのまま敵に照準を合わせたまま発砲すると、寸分の狂いもなくデモニアを打ち抜こうとする。


 しかし―――


 「キシャアアアア」


 相手がなにかを吹き出すような動作を始めた瞬間に、散弾銃の弾がすべて燃え尽きた。


 「なに!?」

 「ギシャアアアアアアアアアアアア!」


 弾だけだけでは飽き足らず、デモニアはさらに吹き出すような動作を続ける。

 すると―――


 バチバチバチ!


 「ぐあ!?」

 『胸部ユニット―――いや、全ユニットオーバーヒート!バッテリー出力70%まで低下。まだ戦えるわ、南条君』

 「……!?は、はぁ!っ……!」

 『南条君!?立ちなさい!まだあなたは戦えるわ!』


 渡辺の声を聞きながら南条は足がすくんだまま立てなくなる。

 絶体絶命かと思われたその時―――


 「どりゃああ!」


 どこからともなく飛びながら相手にパンチをかますものが現れ、デモニアの注意がそちらに向く。

 そして、その姿に南条は驚いた。


 「ぜ、0号!?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「あっつ……!?」

 「真司、気をつけろ。奴はこの世界で言うミイデラゴミムシという魔物だ」

 「みい……なんだって?」

 「とにかく、奴の口から噴き出すガスに気をつけろ!さっき見た通り、弾丸を飛んでいる最中に燃え尽きさせられる凶悪なものだ」

 「わかった。あとはタイムリミット―――小倉に到着するまでの約3時間以内にかたをつける」


 そう言って真司は相手の魔物に殴り掛かる。


 「ふん!」

 「ギシャア!?」


 熱いのは我慢できる。というか、殴っていると段々熱くなくなってくる。

 ジャブやストレート、左右の拳を使って、緩急を合わせながら魔物を滅多打ちにしていく。


 真司が考えたことは熱線に対する懸念のみ。

 遠距離―――メイズの射撃で戦うことも考えたが、先ほどのDBTの銃撃が機能していないところを見るに、難しいところだろう。


 なら矢継ぎ早の攻撃で攻めるしかない。


 多くの拳を叩き込みながら、真司の体表が少しずつ青色へと変化していく。


 「ふん!―――どらああ!」


 コルバルトへと完全な変身を遂げた彼の拳は、より精錬され、より早く、手数の多い攻撃へと昇華していく。

 ついには残像まで見えるようになり、百裂拳のごとく、敵を滅多打ちにしていく。


 「ギシュウウウ!ギャアアアアアア!!!!」

 「うるせえぞ!」


 あまりにもうるさい魔物に対して、真司は一層強い一撃を入れ、敵を吹き飛ばす。だが、すぐに我に返った真司は自分の選択の愚かさを呪った。


 「まずい!」

 「キシャアアアアアアアアアアアア!!!!」


 (拳の射程圏から出してしまった……迂闊だった!拳が届かなければ、必然的に奴に攻撃する隙を与えるのと同義!)


 そう思った瞬間に魔物は全力でブレスを吹いてきた。

 辺りの空気を漂う塵が着火物となり、ブレスが大きな炎を纏って真司に襲い掛かる。


 「ぐっ……!?」


 真司は真っ赤な炎の中に沈んでいった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『あ、0号が!』


 そんな間抜けな声がなんでもない家のリビングに響いた。

 遠くからとはいえ、戦闘の惨状が見える場所から見ていたリポーターのコメントだ。


 どの局をつけてもデモニアのニューズばかり。

 どこも生中継で戦いの模様が送られている。


 「南条さん、大丈夫かな?」

 「兄さん、南条さんって?」

 「いや、0号の後ろに倒れてる人いるだろ?もしかして動けないのかな?」

 「そりゃ兄さん、あんなのと対峙したら怖いでしょ?」

 「違うよ。もしかしたらシステムがオーバーヒートして、スーツのほうが活動不能になってるのかも」


 そう言いながらリビングで伊集院はテレビ画面を注視する。

 だが、テレビ中継程度の画質では細部まではわからない。というより、今は炎の光があたりを包んでいるため、見にくいだけ。


 しかし、彼の妹が心配しているのはそこではなく、0号の安否だった。


 「0号……」


 彼女は自分の恩人を想い、死なないでくれと願う。しかし、それに反して魔物はさらに火力を高めていき、報道陣がその場に入れないほどになってしまい、中継が切れてしまった。

 心配する彼女を知らずに、テレビはどの局もスタジオに戻されてしまった。

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