THE MAGIC OF DRAGON
新幹線に乗り込んだ一行は、特にこれと言った問題もなく進んでいた。
「ねえ、真司。なんでこの車両はいろいろな駅をとばしてるの?」
「うーん、これはの〇みだからなあ。鉄オタじゃないから詳しいことはわかんないけど、この新幹線が一番飛ばす液が多いらしいからな。代わりに遠くの駅に早くつけるからな」
「じゃあ、止まらない駅で降りたい人はどうするの?」
「それは止まる新幹線に乗るんじゃない?」
「へー、にしても日本は時間が正確ね。さっきからアナウンス通りの時間に到着してばかりね。アメリカじゃあ遅れるのなんて当たり前なのに」
そうアリスは車両の扉の上にある電光掲示板を見ながら言う。
確かに日本の時間帯する意識は高いと聞くが、真司自身もアリスがそういった反応をすると、本当にそうなのかと納得してしまう。
時刻も段々と経過していき、新幹線に揺られる時間も折り返しの時を迎えたくらいに、3人は先ほどの駅で買った弁当を取り出した。
明音とアリスは高いやつを買ってきているのに、真司だけカツサンドだと母としては少し気になるもので、彼が好きで選んだとわかっていても質問してしまう。
「真司、それで足りるのか?」
「大丈夫だって。なんだかんだカツサンドって重いんだから」
「うーん……私の肉、少し食べるか?」
「だから大丈夫だよ。母さんも肉は好きだろ?俺は人の好物食ってまで満たされたいとは思ってないよ」
「そ、そうか……?なら、いただきます……」
釈然としないながらも明音は弁当の中身を口に運ぶ。
決して温かいことはないが、口の中に広がる香りや柔らかい舌触りに声が漏れそうになるが、彼女はそれを我慢した。しかし―――
「んー!真司、おいしいわこれ!」
―――まったく我慢できない人物が真司を挟んで窓側に座っていた。
だが、真司はそんな彼女のことをなだめながら優しく頭を撫でていた。
「おいしいか?なら、ゆっくり味わって食うんだぞ。なかなか食えるものじゃないんだから」
「んー!!おいしすぎるわ!真司、ほら!肉食べてみて!」
そう言いながらアリスはつたない箸の持ち方で真司の口の前に肉を持ってくる。しかし、彼はそれを受け取って食べることはせず、優しく彼女の箸を持っている方の手を優しく包んで弁当箱の上に戻していった。
「アリス、箸はこう持つんだ」
そう言いながら真司は彼女の右手を正しい箸の持ち方に組み替えていく。
「アリスはアメリカで育ってるし、箸の持ち方がつたないのは仕方ないとは思うけどな。これから日本で過ごしていくなら必須スキルだから、頑張っておぼえようか」
「う、うん……って、お肉はいいのかしら?」
「いいよ。アリス、それがすごくおいしいと思ったんだろ?だったら、独り占めしな」
「う、うん……これで箸の持ち方は合ってるかしら?」
「うーん、その親指は上に突き出さないようにしなきゃ」
「難しいわね……」
彼女は真司にふいに手を包まれ動揺したが、すぐに箸の持ち方の難易度に四苦八苦する。
今まで彼の前で食事はスプーンやフォークだったのがたたったのだろう。駅弁を買ったときなど、おてもと―――つまり、割りばししか渡されなかったときに苦労することになってしまう。
もっと前から真司や明音に箸を教わっていればと思うアリスだった。
なんだかんだ、麺をすすれないことも彼女が気にしているのはここだけの話だ。
「そんなに苦しそうな表情しなくていいよ。少しずつ、少しずつだ。傍にいるときはいくらでも付き合ってやるから」
「わ、悪いわよ……私一人でもこれくらい……」
「つよがんなくていいのに……」
そんなこんなで明音が頭を抱えたいほどに彼らはイチャイチャしているが、突然真司の動きが止まった。
「……?」
「どうしたの?」
「いや、この感じ……」
『魔物だ』
無慈悲に宣告される言葉に、真司は立ち上がる。
人も多いため、アリスは気づきながらも口に出すことはない。それは明音も同じこと。
真司が0号であることは誰にも言ってはならない。本人が誰にも言うつもりがなかったのだから当然のことだ。
「2人とも、ちょっとトイレに行ってくる」
「ああ、さっさと行ってきな」
真司の言葉に明音は特に何も言うことなく送り出す。そんな母の言葉を聞いて真司は通路側に出ようとするが、ふいに服を引っ張られたような感覚に襲われる。
振り返るとそれは幻覚ではなく、アリスが顔を俯かせながら彼の服を引っ張っていたのだ。
「その……気を付けて」
「ああ、行ってくる」
彼は弱々しく言う彼女の頭をわしゃわしゃと撫でると、そのまま車両扉を抜けていった。
車両の出口側に出て、トイレの中に入った真司はうちから鍵を閉めて、静かにクリスタルを押し込む。すると、彼の姿は変わり、ブラックに変身した。
「龍魔術を使う」
「わかった……『転』でいいんだよな?」
「そうだな。ほかの術を使ってもよいが、今乗っているこの車両は吹き飛ぶぞ」
「真に受けんなって―――龍魔術……」
呟きながら彼は右手を握り、親指を立てた状態で、広げた左手の上にのせる。
「『転』」
そう唱えた瞬間、鍵の閉じられたトイレの中には誰一人存在しなくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔物の現れた場所は悲惨な地獄と化していた。
そこかしこに燃え盛る家や炭になった人間の死体が転がっていた。
しかし、真司たちの感知速度はいつもと変わらなかったはず。なのに、被害が桁違いだった。
そんな騒ぎの中心にいるのは間違いなく魔物の姿だった。
その現場にいち早く到着したのは、真司ではなくDBTの特殊スーツを纏った南条だった。
「現場に到着しました」
『いい?目撃情報によると、相手の魔物は火を吐くみたいね。スーツなら400℃くらいまでなら問題なく活動できるけど、耐熱は無制限ではないわ』
「わかりました。なら、近接より遠距離から銃などを使用したほうがいいですね」
そう言うと、南条はバイクから銃を取り出す。
『DBT対デモニア携行銃―――アクティブ……名前長いのよ。本当にネーミングセンスないわね』
「文句言わないでください。それと渡辺さん」
『……なに?』
「見ていてくださいよ。この私の方が、伊集院さんなんかより装着者にふさわしいということを」