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THE TEARS WON'T SPILL

 「ふわぁ!いっぱい種類があるわ!行くわよ、真司!」

 「待てって……たく、水着くらいアメリカにもあるだろう?」

 「あなたは乙女心ってのを学んだ方がいいわ。そりゃ、アメリカにもたくさんあるわ。でも、恋人のあなたに選んでもらうことに意味があるのよ。わかった?」

 「はいはい……アリスは今日もお綺麗でございやす」

 「え、そう?嬉しいわね」


 一瞬、真司はこいつちょろいと思ったが、結局全身をくねくねさせながら喜ぶ彼女の愛らしい姿を見ているとなんだかそんな考えもなくなっていった。


 そんな彼らが来ているのは某ショッピングモール―――イ〇ンだ。


 近くに水着専門店なんぞありはしない。そうなるため、彼らの選択肢はおのずとこういう大型のショッピングモールくらいしか選択肢がないというものだ。


 それでもそれなりの品揃えで、あとの問題は一つだけ。それは―――


 「あとはサイズがあるかどうかね……」

 「まあ、アリスはスタイル良いもんな」

 「ふっ、自分で言うのもなんだけど、ボンキュッボンってめちゃくちゃスタイルがいいのよ。でもね、下着もシャツもサイズを考えて買うと可愛いのが少ないのよ……」

 「ふーん、最近はそういうのにも対応してる店も増えてるらしいけどな」

 「それでもよ!結局、貧乳にも巨乳にもこの国では人権がないのよ!」

 「急に貧乳もディスり始めたな……」


 会話の内容だけ聞くとひどいくらい騒いでいるように見えるが、そこは安心してほしい。これでいて、二人はかなり声量は押さえている。そうでもしないと、今のアリスの発言は滅多打ちにボコボコにされてもおかしくない発言だったから。


 そして、売り場を少し見ながら回っていると、彼女はある一つの水着に興味を持った。


 「これ……」


 そう呟きながら彼女が手に持った水着とは―――


 「いやあ、ベタな展開っすね。アリスさん、これもう紐っすよ」

 「真司、なによその喋り方……でも、これはいつ着るのかしら?」

 「もはや海とかプール―――人前に出る場所では着れないな」

 「じゃあ、どこで使うのよ。なんの意味もないじゃない」

 「まあ、人怪我無い場所。最低限の人数しかいない場所。胸とか尻とかを強調するようなもの―――まあ、ひとつしかねえわな」

 「あー、ラ〇ホね」

 「なんで直接的な表現使うの?俺、伏せてたよね?」

 「悔しかったら、私をそこに連れ込みなさい!」

 「なにが悔しいと思ったんだ?」


 そんなこんなで彼女の水着選びは続く。ちなみに、先ほどの紐はレジカゴに投入済みで、彼女は買う気満々の様子だった。

 本当にどこで使うつもりなのか、真司にはわからない。いや、半分わかっていたがわからないふりをしている。


 「ちなみに真司はどういうのがいいと思うのかしら?」

 「うーん……俺はスタンダードなやつでも十分なほどアリスの可愛さは天元突破してるんじゃない?」

 「真司、さすがに言い過ぎで私も反応しづらいわ」

 「やっぱそうだよな。でも、可愛いのは本当だし、なんでも似合うんじゃない?」

 「ふぅん……じゃあ、こういうのはどうかしら?」


 そう言って彼女が手に取ったのは、特にこれと言った柄のない水色の水着だった。

 特徴らしい特徴と言えば、クロス・ホルターだということくらいだろうか。


 「似合うんじゃない?スタイルもいいし、着て変ってことはないだろ」

 「そうねえ……でも、試着はしてみようかしら」

 「それでいいんじゃないか?試着室の外で待ってるから」

 「ちゃんと感想言いなさいよ!じゃないと、公衆の面前であれを着るからね!」


 そう言うとアリスは恥ずかしいのかバッと試着室のカーテンを閉めるとガサガサと布が擦れる音を立て始める。

 彼が、「あれ」について聞くのは無粋だろう。というより、あれに該当する物はレジカゴの中のそれしかない。


 アリスが試着室にて着替えているのを待っていると、二人を見ていた店員に声をかけられる。


 「仲がいいカップルですね」

 「……そうかもな」

 「素敵な彼女さん。あなたの心を溶かすかのように入り込んでくる」

 「あいつはいつもそんな感じだ」

 「本当に幸せ者ですね―――その幸せ、分けてもらいたいくらいです」


 そう言うと店員は真司の手を勢いよくつかんでくる。

 その瞬間、バチッと電気が走るような感覚に襲われて、それに驚いた真司がとっさに手を退ける。


 店員の言動が少々不審だった。そのうえで触ろうとしてくるのは警戒するべきだった。


 (青龍、防カメの改ざんは?)

 『すでにできている。あとはどこに飛ぶかだ』

 「適当な空でいい。高ければ高い程な」

 『心得た』


 その瞬間、真司の存在が世界から消えた。正確には周り人間たちの意識から消えた。そんな存在しない真司の後ろに青龍が現れ、両手を前に合わせようとする。


 「お、前……魔力、ある」

 「出てきたな。このタイプの魔物はだいぶ久しぶりだな」

 「お前、絶対、危険。陛下のために排除!」


 そう言うと、言語機能がギリギリの店員がとびかかってくる。

 だが、真司は相手を殴ることなく、掌でいなし続ける。


 しかし、彼が防戦一方というわけではなく、掌底を一撃だけ腹部に加える。


 すると、相手は怯み、腹を押さえながら後ろに下がる。

 それを見た真司は、そのままの勢いを利用するために前に出て、相手の腕をつかみ、片腕で首を押さえながら、勢いのままアリスの入った試着室の隣に入る。


 部屋に入るや否や真司は相手を壁に叩きつけて、動けないようにし、自分もろとも青龍の術式範囲に引きずり込む。


 「今だ!」

 『龍魔術―――』


 青龍は自身の手の片方を開き、そこに特殊な形に組んだ手を乗せる。


 「―――転」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「じゃーん!どう?似合ってるかし……あれ?」


 自身が着替え終わって、真司に見せる覚悟を決めたアリスは勢いよくカーテンを開けたのだが、試着室の前には誰もいなかった。

 着替え始めの頃に真司が誰かと話す声が聞こえたような気がしたが―――


 しかし、彼が何も言うことなく彼女を置き去りにするはずがない。その場合は必ず何かあったとき。


 そんなときの彼女は彼の帰りを待つしかない。


 「ふぅん……真司―――あなたはそんなに私の煽情的セクシーな水着がみたいのね。そうなのね」


 彼のことをわかっているがゆえに、ちょっとおどけながら心を落ち着かせる彼女。だが、彼女の目尻には誰が見てもわかるくらいに潤んでいた。

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