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転校生がやってくる

 今朝、ついに魔物や真司の姿がカメラで撮影されてしまった翌々日のこと。

 真司の通う学校では二つの会話でもちきりだった。


 一つはもちろん―――


 「なあニュース見たか?」

 「ああ、見たぜ。あの怪物騒ぎだろ?」

 「で、それを見たってことは―――」

 「ああ、あの例の龍の人間のことだよな?」

 「そうそう。ぶっちゃけどう思うよ」


 一昨日の化け物騒ぎ。―――正確には朝のニュースと昨日のニュースでは少しだけ報道内容が違う。


 報道では、真司と魔物は明確に分けられている。

 魔物は化け物。真司たちは、人間の形をした龍だと。


 それだけなら、どちらも化け物だと言われていたが、SNS上であるつぶやきが注目された。


 『この人に助けられたことがある』


 報道ではずいぶん最近に注目された事案だが、ネット上には都市伝説的な感じで呟かれていた。

 怪物に襲われたけど変な人に助けられたなど。世間的には眉唾レベルでの話だったが、報道によって流れが変わった。


 あの都市伝説は本物だ。

 その流れが、先のつぶやきを浮上させることになる。


 そのせいで当初の放送で専門家たちが真司のことをボロカスに言っていたのに、つぶやきによってあらわになったすべての映像から、真司のことを正義のヒーローだという意見も出てくるようになった。

 その影響で、真司の母である明音は朝から機嫌がよい。


 「俺的には、敵じゃね?理由はどうあれ、人に向けて発砲してんだろ?」

 「だよなあ、やっぱ情報には懐疑的になれって言われても疑いようないよな」


 しかし、報道通りに真司(変身態)の印象がいいかと聞かれたら、そんなことはない。

 むしろ、最悪と言ってもいいだろう。やはり、威嚇とはいえ人に向けて銃を撃ったのがよくなかったようだ。


 と、その話だけでクラスはもちきりと言うわけではない。

 もう一つの話題―――それは


 「なあ、うちに転校生がくる話、知ってるか?」

 「ああ、しかもとびきり美人の女らしいよな!」

 「ああ、しかも音楽の天才とか言われてるらしいぜ!―――職員室で話してるの聞いただけだけど」

 「どんな美人が来るんだろうな。楽しみだぜ」

 「うわっ、男子サイテー」


 このクラスに転校生が来る。しかも、女で超美人の。

 そのニュースは思春期の男子生徒にとって怪物騒ぎと同等の賑わいを見せる。


 クラス中の男子がそわそわし、女子たちがそんな彼らを卑下しながらHRは幕を開ける。

 先生の長い話。注意事項、今日の連絡。その他諸々を聞いて、ついに待ち望んだ時がやってくる。


 「で、ここからが本題だが、このクラスに転校生が来る!喜べ男ども!」

 「「「わあああああ!」」」

 「ほら、入ってこい」


 転校生の紹介、クラス中が静まり返る中、ついに渦中の“少女”が入ってきた。

 その姿を見て、真司は息を呑んだ。むろん、転校生がすごい美人だったからと言うわけではない。


 (……!?青龍、聞こえるか?)

 『どうした?』

 (あの女生徒―――見おぼえないか?)

 『む……あの女、カマキリ戦の前に助けた女ではないか?』

 (やっぱそうか。見おぼえあると思ったら……逃げ切れたみたいだな)

 『そのようだな。あの後に襲われて死んだとなれば目も当てられなかったな』


 入ってきた少女は、先日に助けた少女だったのだ。


 「はい、自己紹介して」

 「喜瀬川アリス(きせがわありす)でーす!アメリカから来ました!お父さんが日本人なので、日常生活の日本語なら問題ないでーす!あ、あと、私音楽には自信があります!よろしくおねがいしまーす!」


 そう天真爛漫に自己紹介をした少女の名は、喜瀬川アリス。

 紹介の通り、父親が日本人のハーフ。かなり容姿が整っており、欠点らしい欠点が見当たらない子だ。


 しかし、そんな彼女も冷めた目で見ている。


 どうせ関わり合いになることはないからだ。

 と、思っていたからバツが下ったのだろうか?いや、世界を守る男に神がバツを与えるはずがない。相当運が悪かった。いや、常日頃の蛮行のせいだろう。


 教員にも生徒にも嫌われた真司の席は、一番後ろの端。隣に昨日まではなかった空席があるのに端だった。

 つまりそれが意味するもの。


 「じゃあ、喜瀬川さんは十神の隣に行ってくれる?」

 「わかりましたー!」


 クラス中の注目が集まる中、彼女は真司の隣に座る。


 「よろしくね……十神君?」

 「……」

 「あれ?聞こえてない?よろしくー」

 「ちっ、よろしく」

 「―――あれ?今の声……」


 HRが終了すると、転校生の周りに人が集まり始める。

 美人な彼女にみんなお近づきになりたいのだろう。


 真司から鬱陶しい以外のなにものでもなかった。どさくさに紛れて肘鉄入れるバカもいたし、挙句の果てには、彼がトイレに行っている間に席を奪う暴挙に出るバカまで出てきた。


 さすがに黙っているわけにもいかないので、真司も抗議をする。


 「そこ、俺の席なんだけど?」

 「うるせえな。今は喜瀬川さんと話してんだよ!」

 「大丈夫だよ。お前みたいなやつに転校生は振り向かねえよ」

 「―――んだとてめえ!」

 「さっさとどけ」

 「てめえ、逃げただけのクズのくせに!」

 「だからなんだ。それが今関係あるのか?『命が惜しくば』早くどけ―――じゃないと……」

 『殺すぞ』

 「お前は黙っとけ」

 「ああ!?なに言ってんだてめえ!」


 青龍に横やりを入れられて、周囲からしたら意味不明な言動をする真司。

 それのせいか頭に血が上った生徒が真司に拳を振り上げた。


 「ちっ」


 彼はそのまま放たれた拳をつかみ、勢いのまま後方―――廊下側の教室の壁に投げつける。

 あまりにも一瞬の出来事で、クラス中が静まり返ったが、そんなことを意にかえさずに席に座る真司。


 ガラガラ


 「何の音だ!」


 激しい音を出しすぎたのだろう。

 教員が慌てて教室に飛び込んできた。


 教室内に横たわる男子生徒を見た瞬間に教員は憤慨する。まあ、そういう教師なのだ。


 「だれだ!こんなことしたのは!」


 教員が叫ぶと全員の視線が真司のもとに集まる。それを見た教師はなんの迷いもなく彼の首根っこをつかむ。


 「またお前か!」

 「俺、暴力沙汰なんか起こしたことないでしょ?」

 「うるさいぞサボり魔!お前もどうせろくな人間じゃねえんだろ!」

 「その発言は教師としてどうかと思いますけどね」

 「口答えするな!」

 「あ、あの……」

 「お前は……転校生の喜瀬川か。怖かったな、こんな男のせいで……」

 「ち、ちが……」


 彼女がなにかを言う前に真司は教室の外に連れ出されていった。

 普段のサボりとかも響いているのだろう。文字通り、教員の怒号が廊下中に響いている。


 あまりにも話を聞いてくれない教員に喜瀬川がぽかんとしていると、クラスメイトに話しかけられた。


 「喜瀬川さん、大丈夫?」

 「なんで……」

 「どこか体調悪いのか?」

 「なんで、見て見ぬ振りができるんですか?」

 「なんでって……十神はそういう奴だから」

 「ありえない!話しかけないで!あなたたちみたいなゴミの掃きだめと会話するつもりはないわ!」


 そう叫ぶと、クラスで一番人気の男子が彼女に話しかけた。

 彼は彼女の言葉なんぞ意にかえすことはなく、むしろ嘲笑ったような雰囲気を纏っている。


 「そのうち君にもわかるよ。たかだか夢破れただけで荒れる男がどれだけくだらないか」

 「夢破れたのがたかだか……?」

 「そうさ、そもそもプロになろうというのが土台無理な話なんだよ。そんなのは選ばれた人間しかなれない。そうだね、例えば大会で優勝するくらいに実力がある加藤くらいじゃないと―――っ!?」


 流暢にしゃべるイケメンに喜瀬川は綺麗なアッパーカットを見舞った。

 完璧に顎を捉えられた生徒は、綺麗な弧を描くように飛んでいき、床にたたきつけられる。


 「本当に腐ってるわね!夢破れることがどれだけ辛いと思ってるの!長い間夢を想うほど、かなえられなくなった時の無気力感をわからないの!?私には理解できない!」

 「だから言ってるだろう?彼は、その周囲の優しさを無下にした。授業もサボりまくってる」

 「そんなもの、理由があるからに決まってるでしょ!」

 「君にそれがなんなのかわかるのかい?」

 「確信はないけど、なんとなくわかった。彼の―――」


 そこまで言って彼女は走り出した。

 もちろん、職員室に行って真司の無罪を証明するために。


 そして、彼女は気づいた。出会った瞬間に予感はしたものの、授業をサボりがち。そんな雰囲気ではない男子生徒がなぜそんなことをするのか。

 おのずと、自分の勘が正解を言っているような気がしてならなかった。

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