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THE EXPLODE

 「ガアアアアアアアアア!」


 真司の苛烈な攻撃の連続で魔物は段々と弱っていく。ふらついたり、なにもないところでたたらを踏んだりと、明らかに本調子とは程遠いものになっている。


 しかし、それが目に入っても真司は攻撃をやめない。


 どれだけ相手の目がつぶれていても、右腕がありえないほど後ろにねじ曲がっていても止まらない。


 次に彼が狙ったのは魔物の左足だ。


 ちょうど目に入ったビルの屋上の柵から一本ほど鉄塊となり果てたものを拝借し、それを剣に変化させる。そのまま飛び降りて地面に降りると、それに反応するように魔物が踏みつぶそうと足を振り上げてくる。


 だが、魔物よりも早く反応し、コルバルトでもないのに目にもとまらぬ速さで建物の間をすり抜けて、死角を刺していく。


 そして、剣にクリスタルをかざし、刀身に光が集まった瞬間、真司は魔物とのすれ違いざまに横凪に一閃、振りぬく。


 その攻撃は見事に魔物の足を両断し、相手を大地にひれ伏せさせる。


 ずうぅぅぅぅぅん、とゆっくりかつ重厚な轟音を立てて街中に魔物が倒れこむ。


 ―――――――――――


 『目標2体、静止中』

 「今ならいけるな――――打てぇっ!」


 ―――――――――――


 周囲からの違和感にすぐさま反応したのは真司だった。暴走しながら本能がむき出しになっている彼は、すぐに自身に迫る危機となにがやってきているかの予測をすぐに立てる。


 超遠距離から音速を超えて接近するもの。その実態はまだわからないが、真司は迷うことなく周囲一帯に防御結界を貼る。


 ドーム状に広がったそれは真司たちに着弾する直前にすべて爆発する。

 その光景にミサイルを放った軍全体が驚愕に包まれる。


 本来は機動隊を前線に向かわせ、足止めしているうちに味方ともども撃ち抜いてやろうという考えだったが、思いのほか真司と魔物の戦いが苛烈で機動隊が近づけず、しかもそうしなくてもいいタイミングでその場から動かなくなった。それを絶好の機と踏んだのに、結果はあの有様。


 そうして、魔物の足をぶった切り、軍の攻撃を凌いだ彼は、今度は足を振り上げた。


 すると、地面にはいつくばっていた魔物が宙に打ち上げられ、完全に無防備な状態になる。足も失い、腕も失い。機動力を完全に失った魔物は体をよじるなどの抵抗ができない。それを見てか知らずか、真司は剣にクリスタルを押し当てる。


 そのまま彼が剣を上段の構えに持っていくと、後方に刀身が長く長く伸びていく。


 「グアアアアアアアア!!!」


 咆哮の直後、なんの迷いもなく真司は剣を振り下ろす。

 打ち上げられた魔物はいまだ高く舞い続け、真司の剣も長いがゆえに切っ先の速度が増していく。


 そのまま切っ先は魔物を捉えて、通過する。


 数瞬、なにも起きなかったが、真司が刀身を元に戻した瞬間―――


 「かぱっ!?」


 間抜けな断末魔とともに魔物体が頭から真っ二つになり、空中で爆散した。


 戦いが終わり、周りに殺す対象もいない。そんな状況であれば、暴走状態は解除される。アサルト状態の真司はなにも考えられない頭で、変身を解除―――


 ズドン!


 ―――できなかった。


 変身を解除しようとした瞬間、真司が何者かに爆撃された。

 唐突な出来事に普段の真司なら何が起きたか理解できず、倒れこんだだろう。しかし、今はアサルト状態。理解できなくても、戦いが始まることを肌で理解し、爆発の直後体を旋回して無理やり後退して構えを取る。


 「私の名はアピス!陛下の名を受け、貴様を殺しに来たっ!」

 「ガアアアアアアアアア!」


 相手の魔物―――アピスの名乗り口上に一切の反応を見せずに真司が斬りかかる。

 しかし、とびかかって振り下ろされた剣は、見事に止められてしまう。


 その上、アピスが持っていた杖をカンッ!と地面に叩いた。


 瞬間、攻撃の予備動作がほぼないことに油断をしていた彼の頭が爆発した。

 ただ脳幹が爆発して頭が吹き飛んだのではない。突然、先ほどのように爆撃されたような状態になる。


 突然の爆発の影響で、真司は大きくノックバックし、隙が生まれる。本能で戦う彼は段々とぼろが出始めてくる。とは言っても、そう簡単に隙をつかせるわけではない。


 アピスと名乗る魔物が隙に向かってくると、それに反応した真司が剣を逆手へと器用に持ち替えて攻撃を受け止める。


 「グウウウウウウ!」

 「フハハ!理性を失い、本能で戦っても我と戦うか!面白い!」


 アピスがそう言うと、彼の頭についている角が発光し始める。

 真司はその光に目をあてられて、顔を背ける。だが、それがよくなかった。


 その一瞬目を離した隙にその角が爆発した。


 爆風によって真司は吹き飛ばされて、無残に宙を舞う。彼は弧を描くように飛んでいき、ビルだった瓦礫に叩きつけられる。


 「かはっ!?」

 「ふむ……セトを倒し、アヌビスを退けた貴様なら我と少々はやりあえると期待したのだが……やはり期待するだけ無駄というわけか」

 「ガアアアアアアアアア!」

 「咆えるだけでは、私は倒せないぞ」


 そういった瞬間、真司は相手に距離を詰められた。変身していて、彼の表情はうかがえないが、本来なら彼の表情は驚愕に満ちているだろう。目にもとまらぬ速さで詰められた彼はなにもできずに、敵の拳をもろに食らった。


 ただのパンチではない。的確に芯を捉え、的確に急所を打ち抜き、的確に頭蓋を砕く一撃。

 何より特筆するべき点は、移動に使ったスピードがすべて拳に集約していた点だ。


 それだけの加速力が乗れば、真司の体を浮かして、後方に吹き飛ばすことは容易でもある。


 その通りに真司はあらゆるビルだったものを突き抜けて吹き飛んでいき、7個目の廃墟にぶつかったときにようやく停止した。


 そしてそこは、先ほど青龍に少女の治癒を命じた場所。

 もっと前で止まりたかったが、そういうわけにもいかないようだった。


 しかし、暴走状態の真司はその場から逃げ出そうとしていた。そう、本能で戦う彼には見えていた。自身の敗北が。そしてその先にあるのは、敗北者の死。それだけは避けなくてはならない。


 彼を突き動かす衝動がまだ死にたくないという情動か、それとも本当に生物的な危機を察した本能なのかわからない。だが、真司がこんな終わり方をする男でもないのは確かなことだった。 

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