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THE POWER ONLY TO KILL

 魔物の隙を縫って、彼は瓦礫をどけた。すると、中から車いすと、それに乗っていたであろう少女が倒れこんでいた。


 「っ!?―――大丈夫か!」

 「す、けて……兄さん……」

 「意識が酩酊してる……青龍、治療は―――」

 「ダメだ。真司が戦闘能力を失う」

 「だけど……今すぐ治療しないと―――この足のけがはまずいだろ。特に出血量が……」

 「わかっている。だが、ここで真司という戦力を失うのも……」


 言いたいことはわかっていた。真司にも誰かを助ける余裕がないことなどわかっている。そして、青龍も真司が目の前の少女を助けたいと思っていることは容易に想像できた。


 「クソッ!」

 「っ、真司!後ろだ!」

 「―――っ!?」


 気づけば魔物の拳がすぐ目の前に迫っていた。彼は急いで少女を抱えて退避する。

 すぐに真司たちのいた場所がえぐれて、大きなクレーターになる。


 その上、轟音とものすごい量の砂煙が巻き上がり、彼らの視界を塞ぐ。だが、その程度では彼らも攻撃を受けたりはしない。


 「次、下に避けろ」

 「あいよ」


 青龍の言葉を聞いて下方に高度を下ろすと、その一瞬後に彼の頭を魔物の拳が通過する。


 「やっぱり、あっちは魔力を頼りに索敵してるか?」

 「ああ、視界がつぶれてこの精度なら十中八九そうだな」

 「ん……だ、れ……?」

 「あ、目が覚めたか。でも、あんま無理はするなよ。死ぬ寸前とは言わないけど、お前、かなり衰弱してる。精神的なものもあるんだろうな」

 「そう、ですか……」


 少女はやけに落ち着いていた。今の状況、半狂乱になって暴れてもおかしくないのに。

 その原因が彼女の心持にあることは真司にはなんとなくわかった。似ているというつもりはないが、心になにかを抱えている者の顔だった。


 先ほどは本能的に助けを求めていたが、実際の彼女は死にたいと思っていることすらもどことなく気付いてしまった。


 だが、だからと言って真司が彼女の手を放すようなことはしない。


 「青龍、こいつを治療しろ」

 「だが、ここで我が離れたら―――」

 「アサルトでやる。あれは、お前を中に押し込んで違う何かが出てくる力だ。おそらくお前がいなくてもなんとかなる」

 「だが、誰がお前を……」

 「そん時はお前が止めろ。あいつに幸せにしてもらえた。笑えるはずないと思っていた世界で、十分笑えたさ。もういつ死んでも悔いはない」

 「……わかった。だが、我はまだお前を死なせたりはしない」

 「そうかよ」


 議論が終わり、真司は少女を安全圏に置くと、青龍を置いてすぐに飛び出していった。

 青龍の力がないとはいえ、今の彼は人知を超越したなにかだ。普段通りにはいかないまでも、そこそこ強い力は扱える。


 「まだ死なせない、か……そうだな。まだ、死にたくないな」


 死ぬ気で始めた戦い。いつのまにか彼は、命を投げ出すことに畏怖の念を覚えてしまっていることを、彼はまだ気付かない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「またか……」


 気づけばいつかの日の場所に来ていた。


 『答えは聞けるのか?』

 「その前に一つ聞かせてくれ。お前は誰だ?」

 『知っているはずだ。誰のおかげで剛剣を使えたのか。誰のおかげで、赤き進化を遂げられたか。お前の魂は、その答えを知っているはずだ』

 「そうか……なら、答えよう。俺の戦う理由は……だ。―――っ!?」

 『まだか……まだ声は届かず、届けられず、か』


 そう言って真司の目の前に現れた存在は姿を消そうとする。だが、真司は薄れゆく意識の中で呼び止める。


 「待て!お前は!お前は……なんだろ!……は4体。……以外に、もう3体いる!クソッ!どうなってやがる!」

 『単純だ。人は時の流れに抗えない。過去を、変えることはできない。万物は前に進むもの。土台、ただの人間に過去を見よ、というのが無理だったというわけだ』

 「なにを言って……」


 そこで真司は気づいた。


 (俺はこの領域で何度も赤子になった。現実ではなっていないのに。そして、目の前の……の1体は言った。時の流れに抗うのは無理だと……それは過去に人間が行けないという意味ではなく、体や思考状態が過去に戻る時間の流れに伴って、退行していくから?)


 その考察は限りなく真実に近かった。だが、同時に彼の力ではどうしようもないことを意味する。


 『我の力を欲するのなら、お前は―――』

 「……っ!?―――クソッたれがああああああ!」


 その言葉は届かないはずだった。だが、真司には届いた。そしてその真実が、彼の人として死ぬ運命すら奪っていくのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「グオオオオオオアアアアアア!」


 周囲一帯に響き渡る方向。

 叫びの元の声を出しているのは、紛れもない真司。アサルトを使って暴走が始まった。


 様相はいつもと同じ。体表が赤く変化し、鎧も青龍のものではない真っ赤なものに変化していた。そして、何よりの特徴のボロボロのマント。彼のすさんだ心と生き様を描いたかのような悍ましいマントだ。


 そんな彼に魔物は拳を振るう。しかし―――


 「ガアアアアアアアアア!」


 真司はその拳を咆哮を上げながら片手で止める。

 そして、そのまま彼は受け止めた腕を蹴り上げた。


 そうすると、魔物の腕は元の軌道をたどって戻っていき、それどころか、勢いのまま魔物の肩の可動範囲を超えていき、メキッと嫌な音がしたと同時に魔物腕が背中にくっつき、肩の皮膚が裂けた。


 これで魔物の右腕は使用不能。先ほど破壊した眼球を治していないところから察するに、今の状態で傷を治癒させる方法がないようだ。


 しかし、そんな間あげは今の彼にはない。ただ目に入る目の前の魔物を殺すためだけに―――ただ不快な存在を消し去るために、効率的に殺す。

 そのために相手から攻撃手段を削っていく。


 そうすれば、あとは流れで敵を一突きにすればいい。


 「グアアアアアアアア!!!!!」


 たとえその余波で町が崩壊し、誰かが泣くことになっても彼は止まらない。いや、止まる方法を知らない。彼が止まるとき。それは誰かの命の光が途絶えるとき。

 もう彼は正義の味方であることはできないのかもしれない。


 なぜなら彼はたった一人にとっての英雄なだけで、彼は世界の敵なのだから。

File2 『0号 Crimson』

パンチ力 20t

キック力 60t

ジャンプ力 ひと跳び2メートル

備考

真司の変身する通称0号のパワー形態。赤の体に青の鎧。素早さはないが、圧倒的な力が特徴だ!

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