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DON'T HAVE TACTICS

 真司は考えていた。吹き飛ばされながら彼は勝ち筋を見いだせず、それを嘆いていた。


 そして、こういうピンチに陥ったとき、彼は必ず考えることがあった。

 あの時助けた人は幸せだろうか?あの時助けた子供は、笑えているだろうか?


 魔界の侵攻はなぜか真司の住まう町の周辺に集中している。しかし、例外はいくつもある。郊外に突然出現し、海外こそないが、北は北海道、南は沖縄まで。回数に限りはありつつも、何度も戦闘を繰り広げている。


 そうなれば、ただ一人の行く末などうわさでも聞くことはない。


 そして、どんな扱いを受けるのかの結末すら知らない。真司の関知していないそんな人間はごまんと存在する。

 もしかしたら、周りから死ぬことを望まれていたのかもしれない。果ては自死を望んでいたものがいるかもも知れない。助けたことによってかえって追い詰めてしまう結果になっているかもしれない。


 ただ人の命を救うだけの行為のリスクだ。彼もそれはわかっている。だが、わかっていても全部は呑み込める話ではない。


 だから彼はまだアサルトを使わない。


 まだ意識を手放さない。あれに頼れば、勝てるには勝てるだろう。だが、それは彼の勝利ではない。彼に潜む化け物の勝利でしかない。


 そう、まだその時ではない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「ぐっ……」

 「真司、まだ動けるか?」

 「当然……て、言いたいけど、今のは痛かったな」

 「痛みを感じるうちはまだ余裕だ」

 「楽観的だな」

 「いや、体験談だ」

 「そうか。ならいけるか」


 そんな会話をして、真司は瓦礫を押しのけて立ちあがる。常人ならぐちゃぐちゃの肉塊になっているところ。それを耐えられるのはひとえに青龍のおかげ。と、言いたいところだが、彼がクリムゾンに変わり、肉体そのものの防御力が上がっているのが一番大きいだろう。


 そして、彼は考える。次の攻撃はいつか。

 そして答えはすぐに出る。なぜならもう、魔物の予備動作は始まっている。


 受け止めるか避けるか。二者択一。


 彼に迫りくる拳が見事に着弾した瞬間、瓦礫が粉々になり煙が舞い上がる。

 おそらく、真司と言えどひとたまりもない攻撃。防いだ様子はない。身をよじった様子もない。諦めたか、どうなのか。


 そんな疑問に答えるように魔物が拳を地面から持ち上げる。すると、そこに真司の姿がなかった。


 彼の姿を見失った魔物は青龍の放つ大きな魔力の波動を追って、気配を探ろうとするが探知できない。粉みじんに砕けて、瓦礫と一緒に吹き飛んだか、肉眼でとらえきれぬほどにつぶれて死んだか。

 それとも―――


 キラッ


 「どおおおおらあああああああ!」


 ―――感知できない距離まで一気に離れたか。


 真司は超長距離から一気に距離を詰めて、魔物の眼球に飛び込んだ。その影響で、魔物の右目は文字通り破裂し、片目をつぶすことに成功した。

 そんな彼の体は青く変色していた。


 「ん……?」

 「真司、離れたほうがいいかもな」

 「みたいだな。なんか―――」


 青龍は、魔物特有の性質で。真司は、戦う者としての直感で感じ取った。


 青龍には見えていた。魔物が破壊された眼球に―――真司の直近に魔力を溜めるように流していることに。

 真司は感じとる。己の命の危機を。


 二人の意見が一致し、迷いなく魔物からだから落ちる。

 かなりの高さから落ちるが、青龍の魔力を使って、態勢を立て直してから着地をする。高高度から落ちているので、少々の痛みを感じてしまうが、それは仕方ない。


 「で、どうする?真司、なにか考えはあるのか?」

 「ない。というか、あるわけがない。俺は天才じゃないし、軍師でもない。未知との遭遇ですぐに作戦建てできるほど有能じゃない」

 「だが、そんな危機はごまんとあったはずだ」

 「それは青龍の事前知識があったからこそだ。今回に関しては、青龍の予備知識すらない」


 その言葉に青龍は返せなかった。

 今まで真司が明確な作戦を立てたことはなかった。


 単独戦闘の上に、彼は感覚派の天才。肌感覚で想ったことを形にするので、情報をもとに彼なりのビジョンが見えているのだろう。


 だが、今回は違う。情報が何もない。そうなると、彼の頭でどんな処理をしているのかはわからないが、なにも見えていないのだろう。こんな状態では、対抗するなどとは軽々しく言えない。


 「だけど、勝つさ」

 「……!?―――根拠は?」

 「よく言うだろ。敵の巨大化は最大の負けフラグだって」

 「それは物語の世界だろう?実際に起きたら―――」

 「脅威さ。脅威だからこそ、俺は負けない。世界のため、友人のため、恋人のため。どれをとっても、勝つ以外に選択肢なんてないからな」

 「……わかった。時間を稼げ。どうにか作戦を考える。だが、期待はするなよ」

 「どうしてだ?」

 「真司以上の考えは思いつく気がしない。それに、今のままでは腕力や脚力。すべての能力が足りない気もする」

 「そうか。だからって、アサルトは使えないぞ。あれは強いけど、作戦とかのレベルじゃないからな」


 力が足りないのなら、クリムゾンで。だが、それでも足りぬのなら?それはアサルトしかない。だが、自我を失う関係上、作戦行動をとるなんて夢のまた夢だ。


 せめて、意識がはっきりしていればいいのだが、彼の知能が衰退しているのか不明だが、アサルト発動中はろくな思考もままならない。


 そうやって次の動きを考えていると―――


 ガラッ


 「「……っ!?」」


 ―――何かの物音を察知した。


 「魔物?伏兵か?」

 「急ぐな青龍。逃げ遅れの可能性も十分ある」

 「たしかに……魔力は一切感じられない。本当に人間なのか?」


 物音がしたのは、真司たちを挟んで魔物と反対側。だが、そこには瓦礫ばかりで人の姿は確認できない。


 「もしかして、生き埋めか?」


 そう言うと、真司は迷わず音のした方をしらみつぶしに調べ始める。

 すると、わずかにだが、小さな声で訴えかける声があった。


 「……す……けて……」

 「……!―――待ってろ!今助ける!」


 か弱い声。つらそうな吐息。

 そんな相手を彼が見逃せるはずがない。誰よりも正義感の強い男。そして、今魔物と戦う中で、純粋に皆の幸せを願うもの。


 彼の伸ばす手に定員は作らない。乗せられるだけ乗せて、救えるだけ救う。


 それが彼の生き方であり、誇りだった。

File1 『0号 Black』

パンチ力 5.0t

キック力 15.0t

走力 4.96秒(100m)

ジャンプ力 ひと跳び4m

備考

真司の変身する通称0号の基本形態。黒色の体に青の青龍の鎧を身にまとう。

最大の特徴は、その平均的能力と実数値以上のスペックを引き出すことができること。

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