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THE METAMORPHOSE

 『これより対DBT作戦を開始します。すでに、全部隊は配置についています』

 「そうか。相手は未知の存在だ。出し惜しみはしないでくれよ」

 『了解しました』


 今回の作戦の指揮を執るのは、陸海空自衛隊の上層部及び防衛大臣率いる防衛省だ。


 今回の作戦を成功させれば、国民の軍事力を持つという考えに傾く。それも、戦争のためではなく、国を守るためという大義のために、という建前で。


 国の本当の思惑は表に出ることはない。だが、それは民衆によって看破される。だからこそ、隠すことにも隠さないことにも意味はない。


 ただ、建前が重要。

 国を守る。その建前さえあれば、反対の意見こそあれど、結局最後は押し切れる。それが民主主義の悪いところであり、都合のいいところでもあった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『始まったみたいだな』

 「ああ……変身はあとどのくらいだ?」

 『夕暮れ時にはできるはずだ』

 「そうか、あと1時間。軍には粘ってほしいものだな」

 『DBTを出せば少しは食い下がれるだろうに。無駄なことを』

 「結局、国の上に立つ人間は駄々っ子ばかりなんだよ。自分のしたいことがどうにもいかないとき、手段を選ばない。駄々をこねるように、なにがなんでも実現したがる。その末路がこれだ」

 『ダメだ、あのミサイルでは魔物を殺すには足りない』


 青龍がそう言って見つめるのは、遠方より襲来したミサイルだ。

 ミサイルは寸分の狂いなく巨大化した魔物に着弾するが……


 「目標、損傷なし―――か」

 『ダメだ。あれでは魔物の眠りを妨げてしまうだけだ』

 「起きたら起きたで、俺たちが出る。さすがに1時間じゃ、国は滅ばないだろ。もしかしたら、街は壊滅状態になるかもしんないけど」

 『それは我が直す。だから、どんな状況になっても、戦いだけは―――』

 「放棄するつもりはない」

 『そうか……』

 「第二幕が来るぞ」


 そう言うと、すぐにミサイルの弾幕の二回目が飛んでくる。

 着弾の瞬間、爆風が吹き抜け、魔物の付近の建物が崩れていくが、国はそんなこと気にしないとばかりに容赦がない。


 あたりに響く轟音。

 耳を塞ぎたくなるほどの衝撃波による音。


 どれも真司でなければ耐えられないものばかり。


 しかし、彼らにも動かない理由はあった。


 ひとつは魔力不足。変身した状態で活動(戦闘)をするには青龍の持っている魔力が必要だ。今はその力が回復しきっていないため下手に出れない。

 そしてもう一つ。あの弾幕だ。


 魔物は耐えてはいるが、それはあの巨体があってこそ。おそらく真司たちがもろに受ければ、死にはしないだろうがただじゃすまない。


 そうこうしていると、第三幕が終わったあたりで動きがあった。


 その巨体が少しずつ動き始めた。付近には誰もいないが、おそらくこの映像を報道越しに見て、民衆は息を呑んでいるだろう。つい魔物の反撃が始まる。


 そう思った矢先、真司は自身の横を見た。

 視線の先は、すでに地面ごと抉られた後だった。


 「速いな……」

 『今のが見えたのか?』

 「ギリギリな。だけど、これはまずいかもな」

 『ああ、あのミサイルを射出していた砲台が一つ破壊された』


 地面がえぐれた衝撃は、真司たちの横で止まるなんて都合のいいことはなく、ただただ彼らの後ろを突き抜けていった。

 その後ろにあったものとは、軍の部隊。


 その一部が壊滅した。


 『真司、ここはもう出るべきだ』

 「いや、我慢だ」

 『だが、これ以上わかっているのに死者を……』

 「結局人の力じゃ対抗できない。そうなれば、俺たちが最後の砦だ。俺たちが倒れれば、もっと奥の人間が死ぬ。そういう天秤のもとに立たされてるんだ」

 『だが……』

 「正義のヒーロー云々じゃない。命を助けるということは、救う命を選ぶこと。救えないものを悔やむ時間はない」


 そう言うと、真司は座っていたビルの淵から飛び降りて地面に着地する。


 「あと、30秒、29、28……」


 そんな彼の頭上をミサイルが抜き去っていく。

 指揮系統が崩壊したのだろうか。そのミサイルは、魔物に当たらない者もいくつかある。


 「20、19……」


 あらぬところが爆発。どんどん建物が倒壊していき、街が少しずつ更地と化していく。

 雑に奪われた命。これが小説なら、笑えないし、良い展開とは呼べない。だが、戦争とは、略奪とはそういうもの。


 いたずらに命が奪われ、知らぬ間に命を落とす。気付く間も与えられず殺される。


 そんな運命を家族や友人にたどってほしくないから、彼は決心した。否、すでに決心していた。


 「10、9……」


 誰も守れない命に意味はない。誰も守ろうとしない命に大義はない。

 奪おうとする命に、正義はない。


 「8、7……」


 そんな人生は嫌だと。守るための命を得て、捨てた。

 愚かな選択かもしれない。だが、後悔の選択を―――


 「6、5……」


 いつかの明日の自分に言う。

 今日より多くの命を守れと。


 「4、3……」


 いつかの昨日の自分に言ってみたい。今日はお前より多くの命を守れたと。


 「2、1……」


 だが、失った命を悔いるためにそんなことは言えない。たぶんそれを言えるのは、すべての戦いが終わり、全人類の運命と命を救った日だけ。

 そして、その日を超える命を救うことはない。それが彼の最後の日だから。


 『魔力、全快……』

 「行くぞ……」


 そして、今この瞬間、彼の握った拳は赤くなるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「あれは……!?ぜ、0号です!」

 「なにっ!?いったいどこから……」

 「それはわかりません……ですが、現在巨大デモニアに接近中。戦闘に入ると思われます」

 

 なぜ今まで現れなかったのか。なぜに今になってなのか。

 軍にとってそれは大いなる疑問だったが、これ以上の好機もない。なんせ―――


 「各隊員、ミサイルの準発射備の通達を。特殊行動部隊は、安全圏から徐々に0号を包囲するように通達しろ。そして、両部隊に互いの作戦は伝えるな」


 そんな隊長であろう男の言葉は、そのまま部隊に伝えられる。ある致命的な言葉を除いて。

 だが、そのことを知るものはまだいない。


 向かっていく真司。これ以上真司に活躍されてしまっては困る国。

 両者は知らぬ間に、泥沼の対立へと進んでいる。これは本当に哀れな人間と愚かな人間のいさかいの話。

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