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メイズ

 割れた空間からは、案の定光が降り注いでくる。

 その光に当てられた魔物も、当然のごとく変容を遂げた。


 「グゴゴ……」


 今回のバッタの魔物は、より人間に近い形に変化した。

 肩や腕についていた鋭利な突起はなくなり、ただの人間のような体形になった。


 だが、顔もバッタだったり、体表が緑色だったりと多くの部分はまだバッタ。人が見れば一瞬で逃げ出すような見た目。


 しかし、魔物の形態変化がこの程度のはずがない。


 「叩けるか?」

 「かまわない。できるだけやってしまえ」


 青龍の言葉を受けて、真司は先ほどと同じように銃の後ろのレバーを引く。

 エネルギーをためて攻撃を図るが、先ほどと違い破壊力より、追尾性を高めた誘導弾で攻撃する。


 しかし、その射出された弾は相手に大したダメージを与えていなかった。


 追尾に力を使いすぎたせいで、攻撃性が薄れてしまったのだ。

 よくある力の差し引き。どこかを強化すれば、どこかが弱くなる。この理論にどれだけ真司が泣かされてきたか。


 だが、だからと言ってあきらめるわけにはいかない。

 彼には、守るべきものがいる。どれだけ冷たい態度をとっても守りたいと思う気持ちに嘘をつけない。彼は、母親だけじゃない。自分の幼馴染もライバルも学友になるはずだった人たちも守りたいのだ。


 「ギシャアアアアア!」

 「少し、速いな」

 「なら、コルバルトに……」

 「いや、そんな時間はない。形態変化は良くても、武器が間に合わない。最低でも使用武器の形状までは似ていないと使えない」

 「ならどうするのだ?」

 「それを今考えてる」


 そういえば、言っていなかった。

 メイズのもう一つの利点―――それは、劇的に頭の回転が速くなること。


 知識量や頭脳そのものに変化があるわけではないが、その場の状況判断―――ひいては、なにが最善の手段か。それを導き出すのが飛躍的に早くなる。しかし、そんなメイズの能力をもってしてもなかなか答えは出てこない。


 真司が長々思案していると、相手に動きがあった。


 機敏に動き続けていた魔物が、こちら側の攻撃が止むのを確認すると、こちらに飛び蹴りを放ってきた。


 「―――!?まずい!」


 ドゴ!


 魔物の攻撃は、真司に綺麗に当たった。

 彼はかろうじて腕をクロスして防御をしたものの、やはり耐久性能は悪く、後方に吹き飛ばされてしまった。


 「かはっ!?」

 「真司!」

 「……だ丈夫だ。あんま騒ぐな―――コホッ」

 「無理するな!メイズであんな攻撃を受けたんだ。普通の人間なら打撲で死んでるぞ」

 「普通じゃないから問題ない」


 そう言って真司は、ふらふらと立ち上がった。

 そして、真司の視界の端にカメラが写った。おそらくマスコミのものだろう。


 (もうこれ以上は、世間に隠せない。というか、よく2年も持たせた方だ)


 しかし、そんな青龍の思いとは裏腹に真司は叫んだ。


 「おい!死にたいのか!早く逃げろ!」


 カメラを構える人にそう叫ぶ。だが、相手も仕事。その程度では引いてくれない。それどころか、真司のこともカメラで収めようとしてくる。


 「マスゴミが……」


 呟くと、真司は銃口を記者に向けた。


 「真司―――なにを!?」


 ズガン!


 真司の手の銃から発射された弾は、綺麗な直線を描き、記者の目の前の地面に着弾する。その勢いで、地面が轟音を立てて爆発し、それを見た記者も恐れをなして一目散に逃げていった。


 「青龍、決めるぞ」

 「行けるのか?」

 「―――いいこと思いついた。前言ってたよな。あいつらみたいな下位種は知能が低いって」

 「言ったが……」

 「強者は同じ手を使わない―――なら、弱者は?」

 「まさか!?」

 「馬鹿の一つ覚えみたいに乱発しろよ……」


 真司は待った。

 次に、魔物が攻撃してくるのを―――武器にクリスタルをかざしながら


 「ギシャアアアアア!」


 攻撃をしてこない真司に、これ好機と魔物が先ほどと同じ攻撃をしてくる。だが、それはもう通用しない。


 「同じ攻撃を連続でするのは―――愚行以外なにものでもない」


 魔物の跳び蹴り―――真司に足の裏が当たる直前、その一点にフルチャージを叩き込んだ。いや、撃ち込んだ。

 誘導性などいらない、完全零距離からの威力全振りの弾。


 それは魔物の足から脳天へと貫通していき、真司に激突する前に魔物は爆散した。

 相変わらずあっけない最期。魔物にとっての死は、言葉すら発せないというのだろうか。


 「これ、返すよ」

 「あ、え……」


 そう言って、用事の終わった真司は銃をもとの形に戻して先ほどの警官にかえす。渡された方は何が起きたのかいまだに理解できず、ただなされるがままだった。

 しかし、ほかの警官はそういうわけにもいかなかった。


 「動くな!―――手をあげたまま膝をつけ!」


 変身を解除する前の真司に向かって、数人の警官が銃を構える。

 しかし、その警官たちも恐ろしいのか、構えている手が少しだけ震えている。


 「怖いのならやめておけ。これからも関わらないほうがいいぞ」

 「よ、余計なことを喋るな!―――って、どこに行った!?」


 真司は警告だけすると、コルバルトへと形態を変えて姿をくらます。

 と、言っても家に帰っただけなのだが。


 ―――これが、真司にとってではなく、人類にとっての始まりだった。そう、魔物の脅威に気付く始まりの出来事だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 次の日


 昨日の件は、警察を交えて映像ごと報道された。

 もちろん、真司が記者に向かって発砲したところもだ。


 その時の映像は、彼の警戒の言葉をカットし、ただ真司が攻撃しただけの映像に変えられていた。


 だが、そんな映像を見ても真司の母は彼のことを信じてくれた。


 「どうせ、映像が切られてただけで、真司は逃げろって言ったんだろ?」

 「よくわかるね」

 「何年あんたの母親やってると思ってるの?」

 「そうだな。本当、ありがとうな。いつもご飯作ってくれて」

 「やめろよ。いつも通りでいいんだよ。お前がどれだけ変わっても私の息子であることに変わりはない。つらくなったらいつでも甘えていいんだぞ」

 「それこそやめてくれ。俺を何歳だと思ってるんだよ」

 「何歳でも、あんたは私の大事な息子だよ」

 「ふっ、そうかい」


 そう強がるが、真司の口角は明らかに上がっていて、感情が全然隠せていないのであった。

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