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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第12章 願いと白い竜

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174 ネースの研究室にて2~最後の希望~

[前回までのあらすじ]闇落ちしてしまった姉のイザゲルを倒すため、おもちゃではなく本物の武器を作ると決意したネース。思い詰める彼のもとにやってきたのは真っ赤な頭の後輩で……?


改稿しました(2025/01/20)


 場所:ネースの研究室

 語り:ネース・シークエン

 *************



 突然研究室の扉がノックされ、怯えていると、扉の向こうから声が聞こえた。



「あのー、ネースさん? いきなりきて脅かしてすみません。オルフェルです」



――え? なんだオルフェルか……。



 ボクはホッとため息をついて、そっと研究室の扉を開いた。


 立っていたのは真っ赤な髪の後輩だ。


 オルフェルはボクのなかでは数少ない、ボクが『お仲間』認定している相手だった。


 彼のこの姿を見ればボクは、彼を好きにならずにはいられない。


 オルフェルはボクが作った魔玩装備を全身に身につけ、腰には魔玩具の象徴みたいなトリガーブレードを得意げにさしているのだ。


 このトリガーブレードは、ボクの作った魔玩装備のなかでもかなり出来栄えがいいものだ。


 ボクは騎士が嫌いだけど、『騎士になりたい』というオルフェルの夢を応援していた。だって、夢を持つのはいいことだって、アジール博士の本に書いてたから。


 だけど、騎士になれば戦闘に出て、危険な目に遭うことも多いだろう。


 だからボクは気合いを入れて、できるだけ堅牢で威力のある剣を作ってあげた。


 トリガーの形状や音にもすごくこだわったし、剣先の光りかたなんかも、最高にかっこいい仕上がりだ。


 その甲斐あってか、オルフェルは思った以上にトリガーブレードを気に入ってくれた。ボクがつけた魔玩アビリティーを戦闘中に好んで使うのは、彼とベランカくらいだという。


 彼はボクの魔玩装備の熱心なファンで、ボクのお気に入りの後輩だった。



――オルフェルくらいだからね。変人モードのボクに普通に話しかけてくるのは。



 彼はボクが独自の言葉で話していても、ボクと対話しようとするのをやめない。


 興味津々という顔をしながら、「それ、どういう意味ですか?」と、毎回普通に聞いてくるのだ。


 ボクはそれに、さらに意味の通じない言葉で返すんだけど。



――ボクが言うのもなんだけど、オルフェルって、ほんとに変だよね。


――『お仲間』って感じがするよ。


――でも珍しいな、研究室まで来るなんて。



「すっげー。見たことない魔道具がいっぱいですね! でも思ったより明るいし、めちゃくちゃ綺麗に整理整頓されてる。ネースさんって綺麗好きなんですね」



 オルフェルは研究室に足を踏み入れ、興味深そうに周りを見回している。


 いつもすごく褒めてくれるし、たくさん感謝もしてくれるけど、素直に言ってくれているのがわかる。


 やっぱりオルフェルは苦手じゃない。


 だけど、ボクの研究室にはだれも来ない。ボクはハーゼン以外の人と、二人きりで話したことがないんだ。


 だからボクはオルフェルが相手でも、すごく緊張してしまう。


 ここはボクの領域だからね。目的のわからない人が入ってくると、ボクはやっぱり不安なんだ。


 オルフェルはどうして、いきなりここに来たんだろう。



「インガセッキン?」


「え? インガッキンってなんですか?」



 ボクが『変人モード』で話しかけると、オルフェルは首を傾げながらも、やっぱり普通に聞いてきた。その顔にはまったく邪気がない。


 でもあの日、ボクが土下座して謝った秘密会議では、彼もひどく泣いていたし、怒った顔をしていた。


 ボクはオルフェルが好きだけど、彼に嫌われるのは仕方ないと思う。


 ボクの姉さんが村を襲い、きみの両親を殺したんだ。


 それに姉さんは、きみの顔に火傷を負わせた。ミラナが処刑されたのだって、もとを正せば姉さんのせいだ。


 きみを泣かせているのはいつだってボクだ。


 姉さんを救えなかった不甲斐ないボク。


 現実に向きあえなかった情けないボク。


 それなのに、きみは本当に、どうしてここに来たんだろう。


 オルフェルが突然剣を抜いて、ボクを切り殺したって不思議じゃない。


 たとえきみに刺されても、ボクはきみに、誠実でいなくてはいけないと思う。


 ボクはひとつ頷いて、ごまかしのない言葉をきみに伝えた。



「インガセッキンは、なにしに来たのっていう意味だよ」


「あぁ~! 教えてくれてありがとうございます!」


「で、ここになにしに来たの?」


「いやぁ、ネースさんすっげー、思い詰めてたから、大丈夫かなぁって気になったんで」


「え……」



 オルフェルの発言に、ボクはドキドキが止まらなかった。子犬のようなつぶらな瞳は、とても嘘をついているとは思えない。



――この状況でボクの心配!? ほんとに? ハーゼンですらずっといっぱいいっぱいで、ボクのこと放置状態だったのに?



 ボクの胸がじんわりと熱くなっていく。喜びで心が満たされていく。


 この場所で研究ばかりしてきたボクは、ずっとずっと一人だった。だけど本当は、ものすごく寂しかったんだ。



――ほんとに可愛いな、この後輩! よかったら、このいちばんいい椅子を使ってゆっくりしていってほしいもら!


――いまコーヒー淹れるもらよ! 豆を挽くから、ちょっと待っててね! 極上のやつ淹れるもらね!



 ボクに無言で椅子をすすめられたオルフェルが、少しキョトンとしながらも椅子に座った。



――あ、しまった。声出してなかった。だめだー! ボクたんやっぱり会話無理もらー! 変人のふりやりすぎてもうそれが通常モードになってるもらー!



 冷や汗をかきながらも豆を挽きはじめたボクを、オルフェルがニコニコしながら眺めている。



「あ、コーヒー豆、すっげーいい匂いですね。ネースさんこれ、どうやって手に入れるんですか?」


「ベランカが調達して、ボクにまわしてくるんだ。ボクがオトラーのために寝ないで研究しつづけられるようにって」


「うはぁ。優しいような、厳しいような。ベランカさんらしいですね」



 オルフェルがおかしそうにクククと笑う。


 その笑顔に、ボクの心は癒されてしまう。心を温められてしまう。


 ボクが豆を挽いていると、オルフェルが腰のトリガーブレードを、ゴトンと作業台の上に置いた。


 ボクの胸がドキリと跳ね上がる。



――落ち着け、ボクは覚悟を決めたはずだ。



 ボクは大きく息をついて、その剣に手を伸ばした。



「……オルフェル。きみの用件はわかったよ。この剣から、魔玩アビリティーを取り除いて欲しいんだよね」



 苦渋の想いがボクの胸に押し寄せる。だけど大丈夫だ。ボクは水属性だから、全て水に押し流せばいい。


 これからは余計な感情を捨て、やるべきことを成し遂げる。


 世界を変えるのは強い兵器。


 おもちゃの武器は、この世界に必要ない。



「心配いらない。ボクが責任をもって、それを本物の武器に改造するよ」


「え!?」



 ボクの言葉に、オルフェルは慌てた顔でトリガーブレードを自分の腕に抱えた。おもちゃを取られまいとする子供のように、大切そうに抱きしめている。



「いや大丈夫です! 俺トリガーブレードめちゃくちゃ気に入ってるんで! 音が鳴って光らねーと、さっぱり調子出ないですよ」


「え?」


「俺こうやって、机の上にトリガーブレード置いて、眺めるのが好きなだけなんです。誤解させてすみません」


「でも……」


「ほんとにこの剣、端から端まで最高ですよ。部下たちから不満が出てる部分は、改造してやってほしいですけど、これはこのままで大丈夫です」


「どうして、きみは……」



 オルフェルの言葉にボクの目から涙が溢れだしてくる。張りつめていた糸が切れたみたいだ。鼻水と嗚咽が止まらない。


 どうしてこの後輩は、こうも変わらずにいられるのだろう。こんな残酷な世界で、曲がることも、押しつぶされることもなく。


 自分を変えるほどの努力をしたにもかかわらず、君は大切な人を失った。志した夢は理不尽に潰えて、大きな失望も味わったはずだ。


 手に入れたかったもの、手にしていたもの、その多くを失って、ボクたちは激情に飲み込まれた。


 君の体に残るのは、隠し切れない大きな傷跡。


 それはボクが思うより、ずっとずっと痛いはずだ。


 それでもきみは、大きなわだかまりを熱に変え、ボクにまでその温かさを届けてくれる。


 君が人に歩み寄るのは、この息苦しさを乗り越えていくための、君の生きる知恵なのかもしれない。


 ボクはそんな推論を立てた。


 その強さと優しさは、過去の失敗や痛みに囚われたボクには、とても簡単には真似できない。


 ボクももっとまっすぐに、人と向きあうことができていれば……。



「えっ!? 俺、ネースさん、泣かせた!? すみません! 大丈夫ですか? ほんと、ネースさんにばっかり、みんなで期待して負担かけて申しわけないです。俺、あんま役に立たないかもしれないですけど、なんでも協力するんで困ったら言ってください!」



 オルフェルは慌てて駆け寄ってきて、ボクの背中をさすりはじめた。一生懸命慰めてくれてるけど、これは悲しみの涙じゃない。


 こんなボクを仲間と認め、ボクとその作品を大切にしてくれるきみへの、感謝の涙だ。


 ボクは義勇兵たちの武器から魔玩アビリティーを取り除き、本物の武器に改造するつもりだ。


 だけど、その武器だけは、そのままにさせてもらっていいだろうか。


 きみがそう望んでくれるなら。


 この恐ろしい世界への、ボクの最後の希望として。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 なにをしに来たのかと思ったら、普通にネースさんを励ましにきたオルフェル君。


 持ち前の無邪気さでネースさんのマッドサイエンティスト化を防いでくれました。


 次回からはオルフェルの語りです。現在から始まりますが内容は主に過去編になります。


 第百七十五話 秘密の会議1~教えてよ、ミズリナ~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
この関係性いいですねえ。二人とも大好きです! オルフェルの無邪気さと空気読まなさは美点ですよね。 かっこいい!を詰め込んだトリガーブレードが最後の希望になったことも含め、ネースさんの救いになりました。…
[良い点] オルフェルの心意気にグッときました。 いい子ですねぇ、流石主人公!
[良い点] ネースはオルフェルを仲間扱いしておりましたか。 水と油みたいな性格同士なのに、序盤はうまくやっていたので気になっていたところではありました。 親近感がネースにはあったのですね。 人との縁を…
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