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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第9章 愛と障壁

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118 魔力充填完了!~モヤの奥へ~

 場所:レーギアナの森

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 俺たちが防御魔法を訓練している間に、ネースさんは闇を防ぐ魔道具を完成させた。


 そして俺たちはいま、レーギアナの森の奥を目指している。


 やはりエニーも、すぐに任務への参加を決めたのだ。闇属性の仲間やファンたちのためにも、この問題を解決しなければならないと感じたようだ。


 闇のモヤのなかにイザゲルさんがいるという、聖騎士の方便を聞いてしまった兵士たちには、上官たちが口止めしていた。


 だけど、不安や怒りは抑えきれそうにない。真実が明らかにならない限り、事態は収束しないだろう。


 ネースさんは浄化装置の性能上、参加者を五人に絞った。それにもしもエンベルトが罠を仕掛けていたらと考えると、少人数で行動したほうが安全だと判断したのだ。


 聖騎士軍と交戦した場所からさらに奥へ進むと、森の空気が一変した。黒いモヤが渦巻き、腐ったような匂いが鼻を突く。


 このまま進んだりすれば、すぐに意識を失ってしまうだろう。俺たちが顔をしかめると、ネースさんが、魔道具を取り出した。



「これに二人の魔力を注ぐもらよ」


「そうだ。ネースの浄化装置はすごいぞ。光の魔力と風の魔力をうまく使って、モヤをきれいにできるらしい。安定して使えるから、安心だな」


「少ない魔力でしばらく使えるもらよ」


「おぉ、画期的ですね!」



 魔道具をエニーに渡しながら、ネースさんとハーゼンさんが満足げに話している。この装置があれば、風の魔力で光の魔力消費を抑えられるようだ。


 それにこれなら、万一エニーになにか起きても、すぐにモヤに呑まれてしまうことはないだろう。



「シン君」


「うん、やろう」



 エニーとシンソニーは頷きあって、魔道具に手をかざし魔力を注いだ。手と手を重ねて見詰めあう二人。仲がよくて本当に羨ましい。


 装置に彫り込まれていた魔法陣が淡い光を放ち、緑の風がそれを拡散していく。半透明のドームが俺たちの周りに形成された。


 俺は心のなかでそれを、『愛のベール』と名づけた。本当の名前は『シャインブリーズ・ディスペラー』というらしい。


 装置の周囲三メートルほどが、闇のモヤの影響を受けずにいられる範囲だ。


 ベールのなかは清々しい空気に満ちている。



「すごい……」


「いけそうだな」


「さすが、ネースさん!」



 俺たちは足並みを揃えて、闇のモヤのなかに踏み込んでいった。


 モヤのなかは思った以上に魔物だらけだった。主に襲ってくるのは、腐敗した泥の魔物ドロップだ。


 その名のとおり、茶色い泥が滴り落ちるような魔物だ。泥人形というよりは泥塊という感じで、顔も身体もとろけていてドロドロしている。


 俺たちを見つけると数十匹ほどのドロップが群れてきて、俺たちを包囲した。



『うふふ……』『うふふふ……』



 なぜか不気味な女性の笑い声が、あちこちから聞こえてくる。



「くらえ! フレイムスラッシュ! って、うわぁ。思った以上に全然効かねぇっ!」



 ドロップは炎耐性が高く、俺は完全に苦手だった。むりに燃やそうと火力をあげると、ベールのなかが熱気で暑くなってしまう。


 かといって、打撃や斬撃も効かない。どれだけ切り裂いても、切り離した部分がくっついてもとに戻ってしまうのだ。


 ハーゼン大佐のイバラによる拘束や、怪力で振り下ろされる巨大斧も効果がない。



「うわ、すごい泥が飛び散ったよ!」


「きたねーっ。体につくと腐敗臭がひどいな。しかも、ヒリヒリするぜ……」


「やだ! 装備が溶けてる!」



 酸性の泥が、肌をゆっくりと溶かしていく。剣や鎧にも、腐食が生じているようだ。



『うふふふ……』


「くそー! なんだこいつら」



 腐敗臭は愛のベールの浄化作用でかなりマシになっているはずだけど、それでも鼻のいい俺にはなかなかきつい。ドロップたちは俺たちを取り囲んだままジリジリと近づいてきた。



「ミズリナ、清き水で洗い流せ! ウォーターフォール」



 ミズリナはネースさんの守護精霊だ。ネースさんが呪文を唱えると、空から水滴が降ってきて、痛みを引き起こす泥を洗い流してくれた。


 だけどドロップたちは、その水を吸収し、さらに地面の泥も取り込んで巨大化していく。そして、途中で一体化し、泥を被った人間の女性のような姿になった。



『うふふ……あなたたちも泥になりましょう……』


「おい! ネース、悪化してるぞ!」


「わかってるっ、いま魔力充填中もら!」



 叫びながらネースさんが構えた水大砲は、前に見たときより部品が増え、さらに大きく、かっこよくなっていた。


 魔力がたまるにつれ色が変わっていく四角いバーが光っている。なんだかわからないスイッチやチューブ、いくつかのレバーも追加されている。


 あれは発射する水の向きや、量などを変えるためのものだろうか?



――なんだありゃっ、すげー!



 あまりの変化にワクワクする俺。


 つい見入っていると、見上げるほど大きくなったドロップから、大量の泥が降り注いできた。



「オル、とにかく浄化装置とニニたちを守れ! ニニとシンは魔力温存だ」


「「はいっ」」


「了解! ヘキサシールド!」



 俺は覚えたての魔法陣によるヘキサシールドで、ドロップの攻撃を跳ね返した。



「上出来だ! だが、まだくるぞ! 防げ」


「ヘキサシールド! ヘキサシールド! ヘキサシールド!」



 タイミングをはかりながら、何度もヘキサシールドを出す俺。一回の魔力消費が少ないとはいえ、なかなか消耗するうえ、集中力が必要だ。


 ハーゼン大佐は石の盾で泥を防ぎながら、水大砲に魔力を溜めるネースさんを急かしている。



「早くしろ、ネース」


「魔力充填完了! 変形ハイプレッシャーモード! ウォーターキャノン!」


 ――ガチャガチャ!――

   ――キュイーーーン!――



 ネースさんの水大砲の筒状部分が変形し、大きく開いたかと思うと、空気を(つんざ)くような効果音が鳴り響く!


 そして高度に圧縮された大量の水が噴射され、巨大なドロップに穴を開けた。


 ウォーターキャノンは水大砲に魔力を貯める必要があり、発動に少し時間がかかるもののその威力は絶大だ。


 普通なら膨大な魔力が必要だけど、中規模の魔法を魔道具で強化し、魔力消費を抑えている。


 前にシーホの森で見たときとは比べものにならないくらいの勢いだ。


 まるで水の大蛇のように飛び出して、キラキラと水飛沫をあげた。


 ドロップは水の分量が多いと形を保てないようだ。


 頭を抱え、悶えながらも水に押し流されて、どんどん小さくなっていく。


 話しあいのときネースさんが『準備がある』と言っていたのは、この水大砲のことだったようだ。



『ぎゃぁぁぁ……!』


「わぁ……!」「かっけー!」「いいぞ! ネース」


「ネースさん、すごぉい☆」


「ぐひひひ」



 本気モードのネースさんは非常に頼もしい。


 背中を丸めて「ぐひぐひ」と笑う彼の隣に、水の守護精霊ミズリナが現れた。


 彼の海のように青い髪を、『偉いわ』という顔で、満足げに優しくなでている。


 ネースさんと同じくひきこもりなのか、いつも青い光になって姿を消している大人しい精霊だ。同郷の俺たちも、めったにその姿を見ることはない。


 だけどネースさんも、魔道具や装備品の開発で、日々魔力を消費している。だから、久々に見たミズリナは、かなり大きくなっていた。


 フィネーレよりも大きくて、人間でいうと十歳くらいの背丈がある。このミズリナの成長も、彼の水大砲が前より強力になった一因だろう。



「修復はお任せだよ☆ リペア♪」



 一息ついたところで、腐食した剣や鎧にエニーが修復魔法をかけてくれた。金色に輝く光がエニーのスティックから溢れ、装備がピカピカの状態に戻る。


 一時的だし、魔力も消費するけれど、いまはとてもありがたい魔法だ。


 俺たちは装備を整えなおし、さらに森の奥へと進んでいった。



挿絵(By みてみん)

 ついにモヤのなかへ突入したオルフェルたち!


 愛のベールに包まれながら、ヘキサシールドを駆使してドロップたちと戦いました。


 巨大化したドロップもネースさんの水大砲でなんとか撃退し、彼らは森の奥へと進んでいきます。


 挿絵はドロップ。AI出力です。


 次回、第百十九話 噂の館~フレイム・ジオラヴァ!~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
シンソニーとエニー二人によるロマンチックな愛のベール! 効果も十分そうで頼もしいですね! とは言え、行動範囲が狭まることには違いなく、周り中に敵が潜むモヤの中はやっぱり怖いです。 イメージ的には弱そ…
[一言] 花車様こんばんは! そしてオルフェル達の目の前に出てきたのは土というか泥モンスタードロップ!! 結構強い=͟͞͞(•̀ω•́ ‧̣̥̇) ですが土といえば忘れたくないのは… 僕だヤー(ノ)'…
[良い点] 愛のベールは商品としても売れそうです。 オルフェルのネーミングセンスは毎度独特で面白い。 そして強敵に苦戦するオルフェルたち。 早速ヘキサシールドを使いこなす彼は、流石のバトルセンスです…
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