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「あいつら……」

「行っちゃいましたね……」


 さてどうすべきか……。


「カンザキ、とりあえずこれを解いてくれ」

「あ、はい」

 ちょっともったいない気はするけれど、仕方がない。

 私は巨大リボンの端と端を持って、力一杯左右に引っ張った──!!


 な、なんだかいけない遊びをしている気分……。

 ゆっくり解けていく巨大リボン。

 あっという間に先生を拘束していたリボンは地面へと全て落ちていった。


「すまない、助かった。……転移してこの空間から出るぞ」

 先生が同時転移をしようと私の手を取ったその時──。


「言い忘れたが、その空間から出るには指令を成功させないと出られないからなー」

 レイヴンの声が空間に響いた。


「どういうことだ!!」

「本当は過激な指令にしてやっても良かったんだが、ほら、この話R15指定だしな!! お前らみたいな初心者の奥手どもには優しいやつ用意しといたから」


 どゆこと!?


「つーことでシリル!! ヒメにご奉仕して、あいつを満足させろ!! あ、ちょっとぐらいなら食べてもいいぞ!! それがここから出るための指令だ!! じゃぁな!!」


「……」

「……」


 じゃぁな!! ──じゃねぇーーっ!!


「あいつは何を考えて……。大体、カンザキは一応人間であって、食べ物ではないというのに……」


 違う……。

 先生、多分その食べるじゃない!!

 さすが天然純度100%シリル・クロスフォード……!!


「で、奉仕とは何をすればいい? 君は──何をして欲しいんだ?」

「えぇ!? 先生、してくれるんですか?」

「それしかここから出る方法が無いんだ。仕方なかろう。それに、君の誕生祝いだ。何でも……できる限り叶えよう」


 何でも……だと……!?

 良いんですか先生!?

 そんな簡単に何でもとか言って、良いんですかぁぁっ!?


 いかん。

 健全に……健全に……。

 ん〜……。


「か……」

「か?」

「肩たたき?」

「君はいくつだ」


 うっ……。

 健全に傾きすぎた……!!

 ん〜……て言っても思い浮かばないのよね。

 先生と一緒にいられればそれで幸せだし。


「はぁ……。他に、何かないのか?」

 腕組みをしてなおも急かしてくる先生に私も必死に頭をフル回転させる。

「して欲しいこと……して欲しいこと…………ぁ……」

 あった。


「思いついたか?」

 私の表情から何かを思いついたであろうことに気づいた先生が尋ねる。

「あ、はい。一つ……」

「なんだ? 言ってみなさい」

 アイスブルーの双眸(そうぼう)が私を捉えたまま、答えを待つ。


 逃げられない。

 そう悟った私は、小さな声でボソボソとお願いを口にした。


「その……先生の……お膝に座って……食べたいです、ケーキ」


「……」

「……」


 ごめんなさい調子乗りましたぁぁっ!!

 謝るから黙り込まないでぇぇっ!!

 突き刺さるような視線と静けさに耐える私に、すぐに我に帰った先生が「君は……子どもか?」と呆れたように言った。


「うっ……だめ……ですか?」


 だめよね、やっぱり。

 先生のお膝はそんな安くないよね。

 うん、わかってた。

 私は肩を落としながらも、やっぱりいいです、と言おうと口を開くと──。


「いや、それくらい構わん」

「……へ!?」

 今、構わん、て言った!?

「い、いいんですか!?」

「あぁ。だが本当にそんなことでいいのか?」

 訝しげに首を傾げる先生に私は何度も何度も首を縦に振る。

 逆にいいんですかそんな簡単に先生の膝を許して!?

 自分を安売りしてません!?


「そ、そうか。なら──」

 先生は切り分けられたケーキの前の席に座ると、私に向けて右手を差し出して──……。


「来なさい」


「〜〜〜〜ッ!!」


 色気!!

 短い言葉が静かに耳に馴染んで、それだけでもう心臓に負担が……!!


「じゃ……じゃぁ、失礼して……」


 私はごくりと喉を鳴らしてから、差し出された手を取ると、そのままゆっくりと先生の膝の上へと横向きに腰を下ろした。

 同時に私のお腹にまわされた先生の硬い筋肉質な腕に、私の顔面へと熱が集中する。


「あ……あの……ありがとう、ございます」

 自分で言ったことだけど……はずかしい……!!


「……これの何が良いのかわからん……」


「先生、私が10歳の姿の時よくこうして食堂で食べてくれたじゃないですか」


「ッ、誤解を招く言い方はやめなさい。あれは君が、席が一席しか空いてないから膝の上に乗って食べると言って無理矢理座ってきたり、寝ながら食べようとしていたから仕方なくやっていただけで……!!」


 この世界に転移して二年ぐらいは、早く力をつけなくてはと毎晩遅くまで先生との修行後も一人で部屋にこもって魔力を限界まで使い切って魔力の底上げ訓練をしていた私。

 当然のことながら、常に寝不足だった。


 小さな身体は体力もその見た目通りのもので、疲れが溜まるとすぐに眠くなった私。

 そして寝ながら食事を取ろうとする私を、先生が危ないからと膝に乗せて食べ物を口へと運んでくれることもあった。

 なんだかんだと本当に面倒見の良い先生に萌えたのは言うまでもない。


「久しぶりに──して欲しくなったんです」


 子どもみたいだけど。

 中身は同じ大人だっていうのに、慣れはあれど子どもの姿の時は恥ずかしくなくできたことも、姿が成長しただけで途端にやりづらくなってしまう。

 それでもこの機会に……と、甘えたくなってしまったのだ。


「……そうか。わかった」

 小さくつぶやいて先生は、私を抱きかかえたまま、目の前のテーブルの上にあるケーキをフォークで刺し取ると私の口元へと寄せた。


「ほら」


「!!」


 こ、これは……あーん!!!!


 た、食べればいいの!?

 いや私がお願いしたことだけど……でも……い、良いの!?

 私が次の行動に迷っていると、先生が「どうした? 早く食べなさい」と何でもないことのように急かしてきた。


 くっ、この天然め!!


「じゃ、じゃぁ……いきます……!!」

 パクリッ──!! と、私は勢いよくケーキに食いついた──!!


 モグモグモグ……。


「んっ……!! 美味しい!!」

 甘いけれど甘ったるくない。

 ふわふわのクリームとスポンジが口の中でスッと溶ける。

 こんなケーキ、初めて食べた。


「そうか、よかった。作った甲斐があったな」


「……作った?」


 先生が?

 ま、まさか先生が?


「朝から学園の厨房で作っていた。君は毎年、私の誕生日に作ってくれていたからな。私も作ってみた」


 【学園の意思】がなんでも食堂で出してくれるあの学園に、厨房なんてあったんだ……。


 ていうか──……。


 うちの嫁がスパダリすぎるんですが……!!


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