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間章14:天才錬金術師の記憶 前編

 本日、私は誕生日を迎えて13歳になった。それに合わせて錬金術ギルドに登録ができるようになった。

 この日をどれだけ待ち望んだ事か。

 私はいつも以上に張り切って部屋から飛び出した。

 まず、私が向かった先は一階のダイニング。

 ロイドはここで本を読んでいる事が多い。

 螺旋階段を降りて一階のダイニングへと到着する。

 ダイニングを見渡すとアシュリーとジョナサンが仲良く朝食を取っている最中だった。

 しかし、ロイドの姿はない。

 だとすると、礼拝堂にいる可能性が高い。

 この時間帯、礼拝堂には院長がいるからだ。

 院長というのは、私やロイドが暮らしているイェル孤児院の院長の事だ。

 私には両親がいない。

 私が6歳の時に故郷の村を襲撃してきたモンスターの大群によって両親を失ってしまった。

 ロイドもほとんど私と似たような境遇だったと思う。

 ただ、この時期の辛い記憶は私もあんまり思い出したくないので普段は考えないようにしているし、ロイドもこの頃の話はほとんどしない。

 そういう経緯もあり、ここに来てからは院長が私達の母親代わりとなっている。

 ちなみに院長は私の魔法の師匠でもある。

 私は院長から《発想魔法》を教えてもらい、錬金術師の才能があると見出された。

 私が錬金術師になろうと考えたキッカケを作った人だ。

 礼拝堂に赴くとロイドが院長と立ち話をしていた。


 黒髪のロイドとは対照的に院長の髪色は銀髪。

 背丈は私と同じくらい。

 容姿は整っており、彼女の外見は十代前半くらい。

 私達と混ざっていたら院生の一人だと勘違いされた事もあるくらい童顔の女性だ。

 ただ、詳細な年齢は不明。

 孤児院の卒業生曰く、10年前から一切見た目が変わらないそうなので、魔族の類だと噂されているらしい。

 そんな不思議な要素もある院長だが、私達を実の子供のように可愛がってくれる。

 ロイドもそんな院長にとても懐いている。

 ロイドだけでなく私も院長が好きだ。この孤児院に暮らしている子供達はみんな彼女を慕っている。


「なあ院長、序盤中盤終盤隙がない最強魔法を教えてくれよ」


 またロイドが意味不明な無茶振りをして院長を困らせてる……。

 院長は私だけでなくロイドの魔法の師匠でもあるのだが、ロイドはよく変な質問をする事が多い。そのたびに院長から手厳しい返しをくらっている。


「そんな都合のいい魔法があるならみんな使ってるです。うだうだ言ってないで《ウォーターボール》を5000回撃ってこいです」

「また感謝のウォーターボールかよ。それもう飽きたってマジで。俺が近所でなんて呼ばれてるか知ってる? ウォーターボール小僧だぞ」


 当時のロイドは言葉遣いがよくわかっていなかった。

 そのせいか、院長に対してもタメ口で喋っている。

 幸い、院長はまったく気にしていないようだった。


「良かったじゃないですか可愛らしい愛称ができて」

「よくねーよ、ただの悪口だろ。なあ院長、俺にも他のみんなのように中級魔法とか教えてくれよ」

「教えてくれとせがまれても私は中級魔法なんて誰にも教えた記憶ないですよ」

「は?」

「他の皆さんが使ってる中級魔法は彼らが各自で魔導書等から見つけてきた中級魔法です。私は一切関与していないです」


 ロイドは唖然とした表情を浮かべている。

 どうやら彼は院長の方針を知らなかったようだ。

 院長は基本的に魔法を一つしか教えてくれない。それ以降の魔法は魔導書を読んだりして自分で覚えていく必要がある。

 一応、魔法に行き詰まった時に質問すれば丁寧に教えてくれるから師匠らしい所もあるけど、基本的にこっちから動かないと何もしてくれない。

 ちなみに『感謝の○○魔法5000回』はこの孤児院の伝統だ。

 院長は生徒一人ひとりに対して適性のある魔法を一日5000回撃つように指示を出す。

 ちなみにやらなかったからといって院長が怒ることはない。

 私の場合は、『感謝の発想魔法5000回』を院長にやるように言われている。

 ただ、律儀に5000回やると時間がいくらあっても足りないので、実際は十分の一の500回程度しかみんなやってないわけだが、ロイドはこれを律儀に5000回やっていたようだ。


「マジかよ……。じゃあ俺がバカ真面目に今までやってきたウォーターボール5000回はなんだったんだ」

「えー、マスター級の壁を越えるために必要な事前準備です。魔法への感謝でチカラがみなぎってきませんか?」

「感謝どころかお前に向かって攻撃魔法をぶっ放したい気持ちになったよ」

「元気があって素晴らしいです。じゃあ今日から倍の数の『ウォーターボール1万回』でお願いするです」

「絶対にやらねー!」


 ロイドはそう叫んで院長との会話を打ち切った。

 ロイドが礼拝堂を離れようとするので私は彼の背中を追って後ろから話しかける。


「おはよー、ロイド」

「ああ、ルビーか。おはよう。……ったく、あのヤロウ。ふざけた事を言いやがって。朝からとんでもない事実を知ってしまったわ。俺の大切な時間返せよ」

「あはは、さっきの魔法の件だね。みんないつロイドが気づくかなーって楽しみにしてたんだ」

「くそっ、お前らも共犯だったのかよ。知っていたら教えてくれても良かったじゃないか」

「ごめんごめん。でも、毎日5000回やってて周りの違和感に気づかなかったの?」

「やけにお前ら早く終わってるなーとは思ってたが、それが理由だったとはこれまで考えもしなかったよ」

「いい社会勉強になったね。これからはちゃんと周りの様子も観察しないとダメだよ」

「くっ、正論だから言い返せねぇ……」


 ロイドは悔しそうに奥歯を噛み締めた。


「それよりロイド。今日がなんの日か覚えている?」

「今日? いや、何にもわからない。なんかイベントでもあるのか?」

「今日は私の13歳の誕生日なんだよ!」

「へー、そうなんだ。おめでとう、ルビー。13歳になったのなら錬金術の依頼を受ける事ができるんじゃないか?」

「そうそれ! 今日から正式に錬金術の仕事ができるんだ。すごく楽しみだなー」

「ふーん、良かったじゃん。でも、錬金術をやるなら専属魔導士が必要じゃなかったけ?」

「なにをトンチンカンな事を言っているんだい、ロイド君。専属魔導士なら私の目の前にいるじゃないか」


 私は目の前にいるロイドを指差した。


次回の更新は2023年4月23日(日曜日)となります。

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― 新着の感想 ―
ネテロ会長を作り出す気ですね
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