間章12:女王裁判 前編
大変お待たせ致しました。
ロイドをアトリエに連れ戻すためには多くの障害を乗り越えなければならない。
そのうちの一つに、今回の裁判をどうやって乗り切るのかも当然含まれている。
メルゼリア王国には二種類の裁判が存在する。
細分化すると本当はもっと多くなるのだが、一般的には『通常裁判』と『女王裁判』の二種類に分けられている。
通常裁判とは女王陛下が介入しない裁判の事だ。
法廷で弁護士と検事がやり取りを交わし、最終的に『裁判長が判決を下す』というもの。
ちなみにこの裁判長は陛下が選んでおらず、市民の投票によって選ばれている。
陛下の価値観が裁判に反映されないように設定されており、陛下自身も判決に口出しする事はできないそうだ。
しかし、『女王裁判』においてはその限りではない。
女王裁判とは、陛下自身が裁判長として出席する裁判の事である。
陛下が裁判長なので、裁判の形式もまるで異なり、陛下の匙加減で判決が下される。
『王族に対しての不敬行為』や『国家反逆行為』を行った者がこの女王裁判の対象であり、陛下自身の権力でその者を裁けるようになっている。
余談ではあるが、メルゼリア王国以外の国家は後者の裁判が基本だそうだ。
メルゼリア王国は前者が基本なので、他の国と比べてみてもかなり珍しい。
本題からやや逸れたが、今回私が行わなければならないのは『女王裁判』だ。
とても不本意ではあるが、私は陛下からブラックリストとして扱われている。
そのため、牢屋の環境も極めて劣悪だ。
一応まだ人扱いされてるが、裁判の結果次第では私は《アビスウォール》に送られるかもしれない。
《アビスウォール》とは、メルゼリア王国の中で最も恐ろしい刑務所である。
実質的な死刑宣告であり、ほぼすべての罪人は此処に送られる事を酷く恐れている。
当然ながら私もアビスウォール行きは全力で避けたい。
しかし、女王裁判の場合、判決次第ではこのアビスウォール送りが存在する。
だが、ピンチはチャンスでもある。
幸いにも私は犯罪は何一つ犯していない。さらに私にはロイドを取り戻すという大義名分がある。
ここを丁寧に説明すれば陛下もわかって下さるだろう。
今回の女王裁判において、特に意識しなければならない事は、裁判中は常に『エレガント』でいることだ。
エレガントとは陛下が好んでよく口にする言葉である。
貴族的な立ち振る舞いや紳士的な発言をすれば『+1エレガント』と叫んで大変喜んで下さる。
その様子を見る限り、貴族らしさを言い表す尺度的なワードなのだと勝手に考えている。
裁判においてもこのエレガント指数はとても重要なものであり、エレガント指数が高かったおかげで《アビスウォール》送りを回避できた者もいるそうだ。
その罪状が妥当であるかどうかよりも、陛下に気に入られる事が重要である。
裁判というよりもエレガントバトルと考えた方が気持ち的にも幾分楽になるかもしれない。
さて、エレガントらしさを出すためにどうすればいいのかを一晩考えたわけだが、私の中で答えが一つ出てきた。
「おい、女王裁判の時間だ。早く部屋から出てこい」
部屋の入り口に兵士が一人やってきた。
顎髭を生やしてる壮年の男性兵士だ。
彼は私に対して牢屋の外に出るようにと催促してくる。
私は兵士の言葉に従って素直に牢屋の外に出た。
兵士は私の両手首に手錠をはめながら長々と喋り始める。
「今回の裁判でお前の刑が決まる。陛下に迷惑をかけた時点で確実に有罪だとは思うが、少しでも罪が軽くなるように裁判中は大人しくしておいた方がいいぞ。反省の色を示せばもしかすると恩赦があるかもしれないしな」
やれやれ、「有罪確定だ」の「反省の色を示せ」などまるで犯罪者のような扱いだ。
私は無実の罪を擦りつけられた被害者だというのに。
「私を有罪だと決めつけるなんてアナタも中々に頭が悪いですね」
「は?」
私は大きなため息を吐いて、エレガントらしくクールな立ち振る舞いで兵士に向かって告げる。
「私の行動にはすべて陛下の依頼を達成するという共通の目的がありました。その意図が上手く陛下に伝えれば私の無罪は確定的に明らかです」
私の発言に対して兵士はあっけに取られた表情を浮かべた。
気にすることなく、私は鼻を鳴らして顔をそむける。こんな小者にまで気を遣う必要などない。
陛下の前でだけ上手くやればいい。陛下とのやり取りを頭の中でイメージしながらゆっくりと歩き出した。
現在私がいるのは時計塔地下。そこから裁判所へと護送車で向かって法廷に到着した。
法廷に入ると人々の視線を感じた。
室内は真円の形をしており、外側に行くに連れて高くなっている。
1000人以上もの群衆が席に座っており、私の姿を見ると指を差しながら嘲笑している。
下賤な民衆に馬鹿にされて頭にカッと血が上りそうになったが、ここで暴れるとエレガント指数が大幅にマイナスとなるので注意が必要だ。
それにしても、私に対しての民の支持率が最低値なのはどうしたものか。
やはり裏ではローランドの偽聖女こと『アイリス・エルゼルベル・クォルテ』が関与しているのだろう。
卑劣な工作によって私は窮地に立たされている。
このアイリスという女性は稀代の大悪女であり、これまで起きてきた原因不明の事件の主犯である。
私の幼馴染であるロイドも奴によってすべて奪われてしまった。
馬鹿がつくほどのお人好しのロイドですら私の要請に対して返事がない。
きっと、途中でアイリスが関与して弁護を断るように仕向けたのだ。
『ロイドさん、そのルビーという人は犯罪者なので関わらない方がいいですよ。昔の女なんて忘れてミネルバで私と一緒に暮らしましょう。それはそうと早く紅茶買ってきて下さい』
本当に恐ろしい女だ。
アイリス、私はお前を絶対に許さない。
女王裁判で無罪を勝ち取ったあとは必ずお前を倒す。
それまで呑気に彼女ごっこでもしてるんだな。
アイリスを倒すと改めて決意を固め、私は中央に設けられた証言台の前に立つ。
私の前方には装飾が散りばめられた玉座があり、そこにはピンク色の王冠を頭に乗せた金髪少女が座っている。
彼女こそがメルゼリア王国の最高権力者。
三度の飯よりも「エレガント」というキーワードが大好きな女王陛下である。
詳しい年齢はわからないが10代前半。140センチくらいの背丈。
上半身には体の線が露わになるような衣装に、下半身は白色のミニスカートとニーソを着用している。
長い見事な金髪をほどけたターバンのように床近くまで垂らしている。
目鼻立ちは非常に整っており、将来的にはかなりの美人になるだろう。
しかし、私に対しての視線はかなり冷たい。
「アナタと顔を合わせたのは数ヶ月ぶりかしら。随分と一生懸命逃げ回っていたみたいね」
私が証言台の前につくや否や、陛下は挑発的な言葉を投げかけてきた。
しかし、私はわざとらしく咳払いをして、努めて冷静に答える。
「陛下、それは誤解でございます」
「ここは一階よ。アルケミア卿。逃亡犯になると自分がいる階層もわからなくなるのかしら?」
馬鹿にしたような口調で陛下がそう返すと周囲でクスクスと笑い声が起きた。
反射的に舌打ちが出そうになったが、私は口の端をひくつかせながら愛想笑いを返した。
「陛下。一つ勘違いなさっております。私は陛下の依頼を断るつもりなどありませんでした」
「でも現にアナタは、私の依頼をすっぽかしてアトリエから逃げ出したじゃないの。それはどう説明するの? アナタがリュックの中に金貨をたくさん積めてアトリエから逃げ出す様子を多くの民衆が見ているのよ」
「それはあの場に強盗が入ってきたからでございます。自分の命を守るために行った行動なんです」
「へー、なるほど。『強盗があの場にいたのにリュックにお金を詰める余裕がある』なんて随分とアナタは器用なのね」
陛下は笑顔でそう返した。
(し、しまったあああああ!? た、たしかに言われてみればそうだ! 着の身着のままで逃げ出すのが普通だ)
私は表情が凍り付く。
と、同時に、陛下の眉間近くに青筋がピキピキと浮かんでくる。
「ご、誤解でございます! それには深い事情があるんです!」
や、やばい。
このままではアビスウォール行きが決定してしまう。
それだけはなんとか阻止せねば……!
皆様からの応援は執筆の励みになります!
ブックマークと評価を下さるととても嬉しいです!




