間章11:黒鴉の計画と天才錬金術師の現在
私の名前は黒鴉。ロイドに恨みを抱く復讐の魔人です。
現在私は各地を巡りながら協力者を募っています。
ロイドのいるミネルバに私一人で出向いてもいいのですが、どうやら私が敗北したことが本部に漏れたようで、応援の要請を送ると盟主様より手紙が届きました。
ここから結構距離があるので彼らが到着するのはもう少し先になるでしょうが、3人ほど煉獄殺戮団の上位メンバーがやってくるそうです。
そのせいで私は応援にやってくる彼らのために事前準備をしなければならなくなりました。
うむむ、いったいどこで情報が漏れたんでしょうか。
考えられるとするなら王都だと思うけど、私のプライド的に補助に回るのはあまり気が進まない。でも盟主様の命令なら従わざるを得ない。
ただ、悪い報せばかりじゃない。良い報せもあった。
今回のメンバーの中には『白薔薇先輩』がいる。
他二人はどうでもいいけど、白薔薇先輩が参加してるのは凄く嬉しい。
白薔薇先輩はアルラウネ種の最上位である『アルラウネクイーン』で私に戦いのノウハウを教えて下さった偉大な先輩。
優しくて頭が良くてめちゃくちゃ強いんですよ。
メンバー内の序列は第三位ですが序列以上の強さがあり、盟主様に並び立つ存在として私も一目置いてます。
ふっふっふ、ロイドよ。お前の命運もここまでだ。
いくらお前が規格外の強さを誇る化け物でも白薔薇先輩が到着したらお前は確実に終わる。
白薔薇先輩は戦闘能力に関していえば私を遥かに凌ぐほどの実力者ですからね。
盟主様を除けば煉獄殺戮団最強は間違いなく白薔薇先輩だ。
とはいえ、白薔薇先輩にも弱点はある。戦闘力とは別の問題だ。
白薔薇先輩は重度の方向音痴なのだ。先輩が序列三位で後輩の私より下なのもそれが理由だ。
道に迷いまくるから任務が終わった後にやってくる事も結構あるんですよね。
一年以内にメルゼリア王国に到着して下さったらラッキーと考えてるくらいだ。
さて、私の現在位置ですが、現在私はメルゼリア王国の王都に築かれたメルゼリア塔にいます。
ここは王族の礼拝所として用いられてる場所。
どうして私がこんな所に来てるのかというと、ここの地下にはルビーが罪人として収容されているからです。
ここは貴族の罪人を閉じ込めておくための留置所の役割もあり、裁判が始まるまではここで女王の監視下に置かれる。
ルビーの裁判が始まるのは三週間後。それまでに一度顔を合わせておこうと考えてる。
ルビーと会うのは本当はあまり気が進まないんですが、白薔薇先輩が少しでも戦いやすいように準備しておかなきゃいけませんからね。先輩ファーストの大精神です。
メルゼリア塔の入口には鎧を纏った見張りが二人。
彼らはそこから一歩も動かずに侵入者が現れないか監視してます。
一見すると潜入は困難に見えますがまったく問題ありません。
彼らの視線移動をよく観察する。そして、一瞬だけ隙が見えた。二人の死角を掻い潜るように二人の間を一瞬ですり抜けて時計塔の内部へと潜入に成功する。
こう見えて私は潜入も大得意です。戦うだけが私の本業ではありません。潜入や破壊活動、基本的になんでもできます。
伊達に筆頭とは呼ばれていませんから。
メルゼリア塔の一階を探索する。
今回はルビーから情報を聞き出す事がメイン。
落ち着いてゆっくりと話したい。
あまり騒ぎを起こしたくないので兵士には見つからない事を優先する。
礼拝堂を東に横切って通路をまっすぐ行くと、地下室へと続く石階段を見つけた。
ここにも見張りの兵士が二人いた。
フロアの構造上、さっきみたいに間をすり抜けるのがやや困難だろう。
制圧するのは容易いが、また此処に来るかもしれないし、今彼らに姿を見られるのは得策ではないな。
「仕方ない。ここは魔眼の力を借りるでごじゃるか」
私は物陰から飛び出して、彼らへと一気に接近する。
兵士達は私に気づくがもう遅い。
私は即座に魔眼を発動し、兵士二人を洗脳する。
兵士二人の目から光が消えて、ボーっとした表情に変わる。
今のは『支配の魔眼』です。
対象の意識を一時的に乗っ取る事ができます。
不都合な記憶を消したりも可能で、かなり凶悪なスキルと言えるでしょう。
その反面、消費魔力量も多いのであまり連発はできません。
人間よりも魔力総量が多い魔人の私ですら一日に三回が限界です。
彼らを洗脳した上で地下室の鍵を借り受けて私は地下へと進む。
そして、今回は本格的に情報を探ろうと思っています。
前回は失敗したので、先程の《支配の魔眼》も併用してルビーからロイドの弱点を根掘り葉掘り聞き出すつもりです。
ふっふっふっ……。私が負けてばかりだと思ったら大間違いですよ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「~~~ッッ!?」
突然、地下室の奥から女の絶叫が聞こえてくる。
思わず飛びあがりそうになった。
な、なんだ今の声。この世のものとは思えないほどの恐ろしい叫び声だった。
正体を確かめるべく、私は声が聞こえてきた方角へと歩いていく。
鉄製の扉が見えた。
扉には外から内部を確認できる窓があり、私はそこから内部の様子を覗く。
そこにはターゲットのルビーがいた。
だが、どういうわけかルビーは大暴れしており、赤色の髪をバリバリと掻き毟っていた。
「どうして誰も私の弁護をしてくれないのよおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ルビーが悲痛な叫び声をあげる。
先程聞こえてきた恐ろしい叫び声の正体はどうやらルビーのようだ。
ルビーはテーブルに置かれてる手紙の山を床にぶちまけた。
「私は天下のアルケミア卿なのに! 王国一の天才錬金術師なのに! 私が有罪になってもいいと思っているのかしら! 裁判まであと三週間しかない! それまでに私の弁護人を探さないと!」
裁判の件でなにやら焦っているらしい。
なんだか大変そうですね。
人間の裁判にはあまり詳しくありませんが、裁判が始まったら対面が難しくなりそうですし、このタイミングで再会できたのはかなりラッキーですね。
兵士から受け取った錠束を取り出し、部屋の番号と確認する。
鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりと右に回す。
カシャっと心地よい音が聞こえる。実はこの音結構好きです。
「ハロー、偉大なるアルケミア卿。三か月ぶりに黒鴉様が遊びに来たでごじゃるよ」
「あっ? 誰よアナタ!」
彼女は私に驚いた様子を見せなかった。
それどころか私を鋭い眼光で睨んだ。前回同様に今回もかなり機嫌が悪いみたいだ。怒ってる顔しか見たことない。
「私の顔に見覚えがないでごじゃるか?」
「見覚え? ……あっ、あんたもしかして私のアトリエに押し入った強盗の女!」
「ふっふっふ、大正解でごじゃる。私がここにやってきた理由を教えてあげるでごじゃるよ」
「お前のせいで私はあああああああああああああ!」
ルビーは絶叫しながら飛びかかってくる。
「なっ!?」
私は反射的に回避する。
ルビーは壁に顔からぶつかる。
「い、いきなり何するでごじゃる! びっくりしたでごじゃろう!」
ルビーの予想外の行動に動揺し、私の心臓は早鐘を打っている。
ルビーはこちらを振り返る。
まるで獰猛な獣のような目つきで私を睨んでいる。
「お前が嘘の証言をしたせいで私はパワハラ錬金術師として罪人のような扱いを受けているんだ!」
「嘘の証言? 何のことを言ってるかまるで見当もつかないでごじゃる」
「嘘を吐くな! メルゼリア新聞だ! あれにお前の発言が書かれていた!」
「新聞……ああ、なるほど。あの取材ですか。ちゃんと新聞に載ったんですね。私としては嬉しいでごじゃるな!」
「ふざけるなああああああああああ!」
ルビーは拳を握り、ふたたび私へと飛びかかってくる。
とはいえ、動きは素人丸出しなので避けるのはたやすい。
私は冷淡な笑みを浮かべながら、それをひらりとかわす。
バランスを崩したルビーはまたしても床へと倒れた。
と、床にぶち撒かれていた手紙が風圧で一部飛んだ。
手紙が数枚、私の足元に飛んできたのでそれを手で拾い上げて中身を確認する。
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親愛なるアルケミア卿へ。
此度のご依頼なんですが、協会から強い圧力が加わっているのでアルケミア卿の弁護はできません。
ですが、アルケミア卿は素晴らしい錬金術師なのできっと陛下もわかって下さいますよ。
今後のご活躍をお祈り申し上げます。
By アナタの永遠の後輩ソテイラ
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親愛なるアルケミア卿へ。
申し訳ありませんが、今はノワールの方が大事なので此度の裁判には協力できません。
が、前回の契約の件に関しては私は全然気にしてませんので、そこはご安心ください。
女王にもそうお伝えしております。
話は変わりますが、今年の収穫祭ではノワールが釣り大会を開催するそうなので、もし外出が可能ならばぜひいらしてください。
今後のご活躍をお祈り申し上げます。
By アレイスター・クロウリー
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お初にお目にかかり光栄です。
ロイドには今回の裁判の件を一応伝えておきます。
が、ロイドがやってくる事は恐らくないと思ってください。ロイドも新しい環境に馴染んできて、新しい友人と共に一生懸命いまを生きています。
その生活を壊すような真似はできればやめて頂きたいです。
そもそも、アルケミア卿はいったいどこでロイドがミネルバにいることを嗅ぎつけたんですか?
正直怖いんですが……。
By イゾルテ・フォン・ミネルフォート
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その内容は多少の違いはあるものの、裁判の弁護が困難である事を書き記したものばかり。
おそらく、床に散らばってる手紙すべてがこれと同じ内容だと思われる。
「可哀想に」
と私は素直な感想を口にした。
「可哀想ですって!? いったい何様だよお前!」
「パートナーには逃げられ、アトリエの主から罪人に転落し、終いには知り合いから弁護すら断られる。これを可哀想と言わずになんて言えばいいでごじゃるか」
「ふざけるなああああああ! 勝手に同情するな! 私は可哀想なんかはでない! 私は天才錬金術師だぞ!」
「はぁ……この手紙を読んだせいか、なんだかお主から聞き出す気が失せたでごじゃる。拙者はもう帰るでごじゃるよ。バイバイでごじゃる、可哀想なアルケミア卿」
彼女から返事を待つことなく、私は部屋から出て、すぐに扉に施錠する。
それから数秒後、扉の向こうから激しく叩く音が聞こえてくる。
「こらっ! 開けなさいよ! 私に話があって此処に来たんでしょ! 私の弁護をしなさいよ! 私はロイドを取り戻すの! 私は諦めないぞおおおおおおおお!」
私はそれを無視して元来た道を引き返した。
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※時系列順に進めていく予定なので、ルビーへの視点変更が頻繁にあります。ルビーはいったいどうなってしまうだろうか。
次回の更新は2023/01/30(月)のお昼12:00になります。
また、小説一巻も絶賛発売中なのでぜひどうぞ!文量つよつよの大ボリュームです!




