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第67話:リヴァイテーゼ

 リヴァイテーゼが封印されたのは今から150年前。

 魔王アルバトロスの手によって当時の都アルマダに封印された。その範囲は街一つを丸々呑みこむほどの大規模な封印となった。

 この戦いがキッカケで、アトランタ王国の首都はアルマダからエスカルロに移った。


 遷都の発端となったリヴァイテーゼと一番関係が深かったのはウンディーネである。

 彼女にとってリヴァイテーゼは大切なペットだった。

 家族といっても過言ではなかっただろう。主従関係を超えた確かな絆があった。

 封印直後は彼女も非常に嘆き悲しみ、毎日のようにアルマダに赴いてリヴァイテーゼを哀悼した。


 しかし。

 封印から150年。

 当時の感情を現在まで維持するのは意外と難しい。

 良くも悪くも、燃えやすく冷めやすい人物だったので、人間との恋愛に勤しむうちに、リヴァイテーゼとの思い出は忘却の彼方へと押し流されていった。


 彼女が再びリヴァイテーゼを思い出したのは今朝。

 宮殿から外を眺めていると王国の上空を優雅に泳いでる水竜を発見した。

 まだ成体になっていない水竜で、拾った当時のリヴァイテーゼが脳裏をよぎった。


(そういえば、最近はあの子の所に行っていない気がしますね……)


 最後に訪れた時から『7年』もの歳月が過ぎていた。

 思い立ったが吉日。

 すぐに宰相を呼び寄せて、本日中にリヴァイテーゼの所へと赴くと伝えた。

 宰相は諸手を挙げて喜んだ。


「それは良かった。実は奴の封印が解けかかっていたんですよ」

「…………へ?」


 宰相の言葉によって、彼女の表情は当然凍りついた。

 状況を理解するまでに数秒。


「えっと、状況がイマイチ理解できないのですが、詳しく説明してもらってもよろしいですか?」

「えー、半年ほど前から結界にヒビが入っているんです。亀裂は徐々に広がってきており、昨日入ってきた最新の情報によると限界寸前のようです」

「半年前!? 限界寸前!? こ、これはいったいどういう事ですか!?」


 彼女は声を荒げて宰相を問い詰める。


「そんな危機的状況を半年間も私に黙っておくなんて信じられません! クビですよクビ! 今すぐ宰相の地位から降りなさい!」


 これ以上にないほどの憤怒っぷり。

 普通の部下なら腰を抜かして跪き、泣きながら許しを乞うところだ。

 だが、宰相は取り澄ました表情のまま姿勢を正して、慣れた様子で答える。 


「恐れながら申し上げます。私は半年前、今回の事をしっかりとお伝えしました。ですが、『今はこの人の方が大事』と言って、私の話に取り合わなかったのは、ウンディーネ様ご自身ではありませんか」


 宰相の言葉に彼女は言葉を詰まらせた。


 彼女には一つだけ欠点があった。

 何かに夢中になっている時は周りがまったく見えなくなるというものだ。

 特に恋愛にのめり込んでいる間はそれが顕著だった。

 今回の宰相の話も事実で、彼女は宰相の話をほとんど聞いていなかった。


 その証拠として宰相は、ウンディーネの言動を記録した行政文書をその場で提出した。

 ウンディーネはそれを読んで絶句する。


 そこには当時のやり取りがしっかりと詳細に記録されていた。

 また、半年前だけでなく、三か月前、一か月前、二週間前、一週間前にも報告があった事も判明した。


「昨日入ってきた情報も真偽のほどを確かめたのち、本日の会議で報告しようと思っていたんです」

「……申し訳ありません、宰相殿。どうやら今回の一件はすべて私が悪いみたいです」


 彼女は素直に謝罪した。

 恋愛が絡むと融通が利かなくなるが、そうでなければ基本的に彼女は素直なので、自身に非があればすぐに間違いを認める。


「いえいえ、理解して下されば結構です。それより、ウンディーネ様がお聞きになりたいのは結界の現状ですよね?」

「はい、状況を詳しく教えて下さい」

「半年前からずっと宮廷魔導士に解析させておりますが状況は芳しくありませんね。マスター級の結界なので、下手に干渉すると悪化させてしまう可能性があるんです」

「あの結界を作ったのは友人なので、実は私もよくわからないんですよ。その友人も急にいなくなりましたし、結界の修復に関しては、残念ながら力になれそうもありません」


 実は、魔王は致命的な勘違いをしていた。

 ウンディーネが得意とするのは《心象具現》を利用した水の制御。

 物体を破壊したり、水で物を構築したりするのは慣れていても、他人の結界を修復するといった高度な作業はまったくできない。

 ましてやマスター級の魔導士が作った高位の結界ならなおさらだ。


 しかし、魔王はそれに気づいていなかった。

 自分ができる事はウンディーネもきっとできるだろう。

 仮にできなかったとしても、アトランタ王国の魔導士達がなんとかするだろう。

 魔王なりの信頼の証であるが、同時に魔王の悪いところでもあった。

 魔王は指差し確認を怠っていたのだ。


 一つだけ魔王の肩を持つとすれば、当時はウンディーネと魔王の関係がこじれていた時期なので、術式を教えられるような状況ではなかった。

 いずれにせよ、残されたのは結界の修復ができない者達の集まりとなった。


「困りましたね。ウンディーネ様が無理となると正直手の打ちようがありません……あっ、そうだ!」

「なにか案が浮かびましたか?」

「先日キングクラーケンを討伐したロイド氏の力を借りるのはいかがでしょうか?」

「ロイドさんですか?」

「はい、フェルメールの話によれば、マスター級魔法の《アイテムボックス》を使用できるみたいなんですよ」

「そ、それは本当ですか!? あれはアルにしか使えない特別な魔法だと思ってましたが、彼もアイテムボックスを使えたんですね」

「どうでしょうか? キングクラーケンを一人で倒した実力といい、もしかすると修復できる可能性があるかもしれません」

「そうですね。私も賛成です。今すぐフェルメールを手配して、ここまで来て頂きましょう」


 すぐさまフェルメールを呼ぼうとするが、ちょうど間が悪い事に首都を離れている最中だった。

 彼女は小さく舌打ちする。


「これは減給ですね」


 かわいそうなフェルメール。

 先にアルマダに行くと伝えて彼女は宮殿をあとにした。

皆様からの応援は執筆の励みになります。

小説の一巻は明日発売となります♪

詳しい内容はあとがきに書いてますので、何卒よろしくお願いします!


次回の更新は12月28日のお昼12:00となります。

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