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第64話:魔王解放

 その日は深夜まで《ブレイブゲーム》をして遊んだので、魔王が封印されている封印の間で宿泊する事になった。

 俺とセフィリアさんは床に布団を2枚敷いて横になった。


 魔王には天蓋付きの専用ベッドがあるけれど、どうやらセフィリアさんと一緒に就寝したいようで、セフィリアさんの布団に潜り込んできた。

 お母さんと一緒に寝たい子供のような感じだ。

 セフィリアさんはやや呆れつつも、蔑ろにはせず、そっと魔王を抱きしめて頭を優しく撫で始めた。

 魔王はそのまま就寝した。

 セフィリアさんと添い寝できるなんて羨ましい幼女だ。


「ご友人様。まだ起きてますか?」


 セフィリアさんの方から俺に話しかけてきた。


「はい、一応起きてますよ」


 彼女の呼びかけに応じるように俺は寝返りを打った。

 セフィリアさんはこちらをジッと見つめていた。


「本日はわたくしの聖戦を手伝って下さってありがとうございます。とても助かりました」

「いえいえ、昨日のお礼です。俺も楽しかったですよ。ところで、風邪のほうは大丈夫ですか?」

「昼間と比べるとだいぶ落ち着いてきました。このまま無理をしなければじきに治ると思います」


 よかった。

 これからもちょくちょくセフィリアさんを手伝っていこう。彼女一人に魔王の負担をかけさせるのは忍びない。


 現在、セフィリアさんは眠っている魔王の頭を撫でている。

 表情はとても穏やかで、母親が子供を見つめるような目に似ている。

 何となくだけど、この半年間でセフィリアさんの笑顔が増えたような気がする。


 アイリス、ティルルさん、セフィリアさん、ネロさん。

 出会った当時は、ギースのせいで、精神的に余裕を持てるような状況ではなかった。

 自分がやりたい事をできるようになって、それぞれが本来の明るさを取り戻したのかもしれない。


 あっ、でも、ネロさんはちょっと迷走してるかも。

 自分の店を手に入れて順調かと思いきや、俺達以外に客がいる所を一回も見た事がないんだよなぁ……。

 昼間も壁に向かって何かブツブツと呟いてたし大丈夫かな。大丈夫じゃないかも。

 先日の出来事を思い出しながら、俺は暖かい布団の中で就寝したのだった。 



 翌朝。

 目覚まし時計を見ると朝7時を指していた。

 昨夜は夜中の3時過ぎまで《ブレイブカード》で遊んでいたのでとても遅い就寝となったが、いつもと同じ時間に起きる事ができた。

 習慣とは恐ろしいものだ。


「むにゃむにゃ……卑怯な、勇者よ。妾一人を4人で袋叩きにするのはやめるのじゃ……」


 夢の中では勇者パーティと激闘を繰り広げている最中。

 勇者+魔導士+僧侶+武闘家 VS 魔王(一人)

 可哀想に、数の暴力の前では魔王も無力のようだ。今ごろ舞台ではとても上映できないような袋叩きが始まっているんだろう。


 魔王とセフィリアさんが起床したのはそれから一時間後。

 二人が目覚める間に、俺が朝食を作る。

 パンを主食としたありきたりの朝食だ。

 二人ともとても美味しいと言ってくれた。


 3人でテーブルを囲んで朝食を取ってると、飲み物として出していた牛乳の話題からルミナス牧場の話になった。


「せっかくなので三人でルミナス牧場まで遊びに行きますか?」


 セフィリアさんがそう提案する。


「え? アルを外に連れ出すんですか? 流石にまずいような……」と俺は答えた。


「そうですか……。ご友人様がそう仰るなら仕方ありませんね」


 セフィリアさんの目によると、最近の魔王はとても良い子で、人の道徳も理解してるような発言が見受けられるようだ。


 例えば、セフィリアさんが個人的にやっていた口頭試問によると……。

 Q.お年寄りが困っていたらどうするか?

 A.おんぶする


 セフィリアさんはこの「おんぶする」という部分にたいへん感動したそうだ。

 うーん。

 おんぶという耳当たりの良い響きに騙されてるだけなんじゃ……。


「ロイドよ。妾を疑いたくなるお主の気持ちも痛いほどわかる。だが、妾は復活して間もない。逃げ出したところで大した事はできぬから安心するのじゃ」


 魔王はそのように熱弁し、何度も妾を信じろと繰り返した。


 現段階だと、魔王の強さは中級にちょい入った程度。

 これからどんどん強くなると考えると、決して油断できる強さではない。

 しかし。

 思えば、心から魔王を信じた事はいままでなかったかもしれない。

 二ヶ月くらい一緒にいるし、今回の外出を機会に魔王ともっと仲を深めていくのも悪くないかも。

 俺は魔王を信じることに決めた。


 ちょうど近くに剣聖のセフィリアさんもいるしね、ヨシ。


「ところで、他のメンバーにはこの事話しましたか?」

「今日思いついたのでまだ話しておりません」


 俺達二人の独断は流石にまずいので、その日は実行せずに他のメンバーの説得の時間に充てた。

 手紙だけだとアレなので、ミネルバまで戻って、一人ひとり尋ねて相談した。


 ちなみに、それぞれの意見はこんな感じだ。


 ■アイリス

「いいですね! ティルル! ロイド様の手助けをしたいので明日以降の予定は全部キャンセルでお願いします!」


 ■ティルル

「ご友人様とセフィリアが大丈夫とお考えならば問題ないと思います。それはそれとして、明日以降の仕事は一つもキャンセルにならないので、よろしくお願いします」


 ■イゾルテ

「うーん、次のステップを意識するのは、まだ早くないか?」


 イゾルテさんがやや疑問視してる様子だ。

 結局、その日の夜に聖戦メンバーみんなを連れて封印の間までやってきた。

 封印の間には俺、イゾルテさん、ティルルさん、セフィリアさん、アイリスのフルメンバーが揃った。


「忙しい中、夜分遅くにここまで集まって下さって本当にありがとうございます。今回のお題は魔王アルバトロスを外に出して良いか否かです」


 俺は全員にお礼を言った。


「これは重要な問題ですね」(心の声:ここでの内容次第で明日以降のスケジュールが変わりますからね)

「お嬢様、仕事をサボりたい願望が漏れ出てますよ」


 ティルルさんが言った。


「とりあえず、この本の結果次第だな」


 イゾルテさんは真面目な顔で一冊の本を取り出した。


「イゾルテさんそれは?」と俺は尋ねた。

「最近王都で話題になってる道徳の本だ」

「へー、そうなんですね。どうしてまた道徳が?」

「風の噂でしか聞いてませんが、どうやら数日前にバハムートボムを人に向かって投げた方が現れたそうです」


 イゾルテさんの代わりにアイリスが深刻な表情で答えた。


 人に向かって爆弾か。

 恐ろしい話だなぁ……。

 剣術や魔法もそうだけど、一番大事になってくるのはその人の良心になってくる。

 その人にどんな心の闇があったのかは知らないが、しっかりと罪を償ってもらいたいものだ。


「この本には問題文も載っている。これを魔王に解かせてみようと思う」


 問題文を書き写した紙を机に置いた。

 そして、魔王は椅子に座って問題を解き始めた。


 ==========================

 Q.道を歩いてるとお金が落ちてました。アナタならどうする?

 A.拾って憲兵に届ける。


 Q.アナタは王都の魔法学園の生徒です。クラスの大人しい子がいじめられていました。アナタならどうする?

 A.担任の先生に伝える。


 Q.魔法学園祭ではクラスの出し物を決めなければなりません。アナタはどのような出し物を提案する?

 A.風紀に違反しない健全な出し物を提案する。

 ==========================


 テスト終了後、イゾルテさんは模範解答と魔王の解答を照らし合わせる。

 すると、イゾルテさんは眉を潜めた。


「どうかしましたか? 何か問題でも?」

「あまりにも内容が短いから引っかかってな。採点をする人が喜びそうなワードが入っているのも気になるんだ」


 わかるよ、イゾルテさん。俺もちょっと思ったもん。

 魔王の答えは、すべての答えが一言二言で完結してる。


 魔王の考えというよりも、採点者が喜びそうな答え。猫被ってるって感じだ。

 道徳には正解がないので本人の考え方を書く場合が多い。

 そこで重要となるのは文章の長さである。長ければいいというわけではないが、最低でも100文字くらいは書いてもらいたいものだ。

 なんでそのような結論に至ったのかは重要だからね。


「結局どうするんですか? やっぱり中止にします?」

「いや、この解答自体は別に間違ってないから、監視前提なら大丈夫だろう。お前もいるしな。セフィリア達にもOKだと伝えておいてくれ」

「わかりました」


 少々不安な点も残ったが、外出許可テストは無事終わった。

 その日はみんなで封印の間に一泊した。


 翌朝、魔王を外に出す準備に取り掛かる。

 この空間の術式はすでに解析済みなので、俺は10秒ほどで魔王の封印を解除した。

 申し訳ないけど俺の方がこれよりもっと強い結界を作れそうだ。

 うーん、100年前の話だから魔法の水準が今より低かったのかな?


「当時の最強クラスの魔導士が必死に張った結界を、こうもあっさり解除するとはとんでもない魔導士じゃの」


 魔王は茫然とした表情で感想を口にした。


「流石ですロイド様」


 アイリスも笑顔で称賛する。


「それじゃあアルよ。さっそく出かけようか」


 さっきまで魔王がいた方向を見ると、魔王の姿が忽然と消えていた。


「ふははははは!」


 封印の間の入口には魔王が立っており、その場で高笑いをしている。


「愚かな人間共よ! 何の疑いもなくこの妾を解放するとはな! やはり人間は単純よの! 楽しかったぞ、お主らとの友情ごっこ! びっくりするくらい騙しやすくて笑えてくるのじゃ! よく聞け! 妾の名は魔王アルバトロス! 100年前に人間を恐怖のどん底に突き落とした魔族の王なのじゃ! 魔族の王である妾が、下等な人間なんぞに従うわけないであろう!」


 魔王はそう叫んで、キャキャキャと笑いながら封印の間から飛び出して、坑道の出口を目指して走り出した。

 清々しいまでの裏切りだ。


「そんな……信じてたのに……!」


 アイリスは悲しげな表情を浮かべている。


「お嬢様、今日のご予定ですが、12時ピッタリに神殿の方で収穫祭の打ち合わせとなります」

「いやああああああああ!」


 ティルルさんは淡々とスケジュールをアイリスに報告している。

 魔王が逃げようが逃げまいが、予定通りスケジュールを進行させていく計画表の鬼だな。


「嫌な予感はしていたが、やはり脱走したか」


 イゾルテさんは落ち着いている。反応を見る限り、脱走すると決めつけていたみたいだ。


「皆さん、申し訳ありません。これはすべて私の責任です。今から魔王様の再教育を行いますので、少々お待ち下さい」


 セフィリアさんは俺達の前に立って深々とお辞儀する。

 心なしか、セフィリアさんの目に炎が宿っているような。

 セフィリアさんが魔王を追いかける。

 それから片手で数えられる秒数で、セフィリアさんが魔王を捕えて、そのまま通路の横道へと引っぱり込んだ。

 ドガッバキッボコボコドスボコッギャアアアアアアと謎の音と悲鳴が聞こえてきた。


 それから10分後!

 なんという事でしょう。


 とても素直で人間が大好きな優しい魔王がセフィリアさんと共に現れた。


「半分冗談だったのに……」


 やっぱり教育の力ってすごいなぁ……。

 この10分間の間に何があったのかは意図的に考えないようにした。



 その後、俺達は、ルミナス牧場に赴く前にミネルバへと立ち寄った。

 久しぶりの外の世界で魔王のテンションはかなり高め。

 ミネルバの建物を指差しながらはしゃいでいた。

 ちなみに村人達の反応だが、魔王の角を珍しげに見てる。


 魔族への偏見がなくなっているわけではないが、幸いな事に、魔族だからってアルを敵視する住民は一人も見かけない。

 テイムや奴隷契約などで魔族の姿をよく見るようになったからだろう。


「初めて魔王様をお外にお連れしましたが、今の所問題はなさそうですね」


 町の子供達に混じって遊んでいる魔王を眺めながらセフィリアさんが感想を口にした。

 本当は問題しかなかったんだけど、力技でなんとかしたセフィリアさんは偉大だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まぁ魔王を仕留めれる人材が二人もいるし
[一言] つまり半分は本気だったんですね
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