第63話:魔王とウンディーネ
魔王アルバトロスは人類全体に宣戦布告をかけた世界一有名な魔族である。
能力値は文句なく神話級で、高い魔法技術と死んでも記憶を維持して復活できる転生能力を保有している。
今の魔王は6回目の転生。
長く生きてるだけあって知識もかなり豊富なので、その知識を生かして魔族軍を大いに鍛え上げた。
当時の勇者パーティも魔王の転生能力にはかなり苦労したようで、《封印空間》に閉じ込める形で魔王の脅威を抑え込んだ。
そして現在。
不幸なことに、俺達の時代に魔王が復活してしまった。
殺してもどうせ蘇るので、今は魔王の暇つぶしに付き合う形で魔王の脅威を抑え込んでいる。
この関係がいつまで続くのかは俺にもわからないが、今のところは特に問題なく進んでいる。
とりあえず、これで行けるところまで行ってみようと思う。
ペットだって一度飼うと決めたら、責任持って最後まで面倒をしなきゃいけないしな。
そんな事を考えてると魔王から呼びかけられた。
「ロイドよ。アトランタ王国まで遊びに行ったらしいな。今回お主らが聖戦で勝った時は、アトランタ王国の秘密について話してやろう」
現在、魔王は玉座の上でふんぞり返っており、俺とセフィリアさんをドヤ顔で見下ろしている。
「今日のお題は肉まんだ」と俺は言った。
円形の木箱の蓋を開けると二つの肉まん。
以前ケルベロスがいたフロアで丹精込めて調理した。
まだ容器も熱々だ。
肉まんのコンディションは最高と言えるだろう。
「肉まんか……」
すると、魔王はテンションが露骨に下がった。
てっきり両手を挙げて喜ぶと思っていたので、魔王の反応は意外だった。
「どうした? 肉まんは嫌いなのか?」
「肉まんは妾も大好きなのだが、肉まんにかぶりつくと高確率で火傷するから苦手なのじゃ」
かぶりつくのをやめればいいのでは?
俺はそう答えると、「この愚か者!」と魔王に一喝されてしまった。
なんでいま俺怒られたんだろう。魔王の沸点は謎が多い。
「しばらく小皿の上で放置しておけば良いのではないでしょうか? 他にも水を口に含んで口内を冷やす等、食し方の工夫はたくさんあります。餡と皮を完全に分けてから別々に食べる猛者も世の中にいるそうです」
「最後のは肉まんである必要性ないですよね?」
前者二つは俺もよくやる手法だけど、一番最後の食べ方は俺もした事がない。
「セフィリアよ。肉まんはアツアツの状態で食べるのが一番美味しいのじゃ。わざと肉まんを放置して冷やしたり、冷水で熱さをごまかすのは職人さんに対して失礼であろう」
「舌を火傷するよりはマシであろう」と俺は冷静に答えた。
最もらしい事言ってるように聞こえるが、単に注文が多いだけである。
また、肉まんは冷やすと皮が固くなって、同じ触感で食べられなくなるという弱点がある。
ちなみに俺は冷えててもイケる派だ。
「はっ、確かにその通りであります。申し訳ありません」
セフィリアさんは頭を下げる。
魔王の要望をまとめると、
アツアツの状態で食べたいけど火傷はしたくない。
だからといって、肉まんを意図的に冷やす食べ方もやりたくない。
中々手ごわい相手だな。
「それなら《プロテクト》で口内を護るのはどうだ? あれは熱による炎症も防ぐから、アツアツを維持したまま肉まんが楽しむ事が可能なはずだ」
「ここでその魔法が出てくるとは……やはりロイドは天才魔導士じゃな」
肉まんで天才魔導士扱い。
喜んでいいのかどうかちょっと微妙なラインだ。
今朝も使った《ウォータープロテクト》なら肉まんの熱もかなり緩和できるが、それだと魔王の要望は満たせない。
魔王はアツアツの肉まんを要望しているのだ。
プロテクトとウォータープロテクト。
これらは一長一短であり、状況に応じてどんな魔法も使いこなす事が真の魔導士と言えるだろう。
まあ、プロテクト系を肉まんで使い分ける日が来るとは夢にも思いもしなかったけどな。
箱の中で蒸したアツアツの肉まんを魔王に手渡す。
そして、魔王に《プロテクト》をかけようとした矢先、魔王は大きく口を開けてかぶりついた。
「あっつい!」
はえーよアル。まだ《プロテクト》かけてないのに急ぎすぎだ。
魔王はとりあえず『待て』を覚えて欲しい。
俺は呆れながら《ヒーリング》をかけて口内の火傷を治療する。
「アルの場合、肉まんに躊躇なくかぶりつく事が、火傷の一番の原因かもしれませんね」
「肉まんはかぶりつくのが一番美味しいであろう。うー、熱かった……」
魔王は涙目でそう答えた。
俺は魔王にプロテクトをかけた。
最終的に魔王は肉まんを30個食した。体は小さいけど意外と彼女は大食いだ。
大変ご満悦の様子でとてもご機嫌だ。
満足した魔王は、アトランタ王国の秘密を話した。
「アトランタ王国から北に100キロ先にある海底遺跡アルマダには、『巨大海底竜リヴァイテーゼ』が200年前から封印されている」
へー、そんなモンスターがいるんだ。
200年前から封印されてるなんて規模がすごいな。
海底のモンスターについては、ほとんど知らなかったので、今回の情報は初耳だった。
ちょっと興味が湧いたので俺はリヴァイテーゼの事を質問した。
すると魔王はリヴァイテーゼの特徴を詳細に教えてくれた。
巨大海底竜リヴァイテーゼ
全長100メートルの巨大水竜。一般的な水竜よりも遥かに強くてタフ。
その強さは伝説級に匹敵する。
魔法を反射する『魔法反射装甲』を纏っており、物理攻撃も『ウォータープロテクト』で完全にシャットアウトする。
つっよ。マジで化け物じゃん。
俺がこれまで戦ったモンスターの中では、『アルラウネクイーン』が最強だったが、それと同等かもしれない。
「魔法攻撃と物理攻撃を同時に無効化するのはルールで禁止っスよね」
「伝説級にルールは無用じゃろ」
「やっぱし怖いですね伝説級」
「まあ、奴がデタラメに強いのはウンディーネのペットだったからという経緯もある。アイツはリヴァイテーゼを実の子供のようにかわいがってたからなぁ……」
ウンディーネ様の単語が急に出てきたので、ちょっと肩が反応してしまった。
悪い人じゃないんだけど微妙にトラウマになっているね。
「アルはウンディーネ様とお知り合いだったんだな。当時の二人ってどんな関係だったんだ?」
「あれは……昔々、妾が一人で海岸を歩いてるとベビータートルが子供達に苛められていたのじゃ。妾が止めに入った。すると、ベビータートルが感激して妾をアトランタ王国まで案内した。その時知り合ったのがウンディーネじゃ」
「いかにも物語の導入って感じですね」
とセフィリアさんが呟いた。
話が長くなりそうだ。
魔王はウンディーネ様とのなれそめを語り始めた。
補足として、昔話の魔王は5回目の転生なので侵略戦争をした魔王と同じ個体だ。
話を聞いてる限りだと、二人の相性は意外にも悪くない。
魔王がボケてウンディーネ様がツッコミを入れるというおしどり夫婦のような仲の良さがある。
また、話の中のウンディーネ様は温厚で優しくてお淑やかで高潔な素晴らしい性格。
人格者を体現したような方だ。
普段の性格はこんな感じなのかな?
さて、肝心のリヴァイテーゼだが、普段は放し飼いにされており、アトランタ王国の周りを泳ぎながら侵入者を撃退するのがお仕事だとわかった。
どうやらウンディーネ様は魔王が来る以前からリヴァイテーゼを飼っていたようだ。
だが、そんなある日、リヴァイテーゼが侵入者だけでなくアトランタ王国の住民まで襲い出した。
魔王側の視点では、急に狂暴化したという印象のようだ。
「結局そのあとどうなったんですか?」
「当時の首都はアルマダだったから、そこが決戦の土地になった。妾もウンディーネのサポートに回って一緒に戦ったのじゃ」
クロニクル級同士の共闘は熱いけど、リヴァイテーゼが暴れた理由が謎すぎて素直に喜べないな。
「完全に退治する事もできたが、ウンディーネ側の要望で封印という処置に至った。封印維持はウンディーネが毎年執り行っているはずじゃ」
「それは大変でしたね。ウンディーネも酷くお辛かったでしょう」
「じゃな。その日以来、ウンディーネの様子もおかしくなったのじゃ」
「おかしくなった?」
「ちょっと妾が座敷を離れると後ろからついて来るようになったのじゃ」
「うん?」
「奴の部下と話していると激しく嫉妬するようになったし、高頻度で『私を捨てようとしてませんか?』と詰め寄ってくるようになったのじゃ」
めちゃくちゃ依存されてるじゃん。
おそらく、ペットの封印が引き金となって、仲の良かった魔王に依存するようになったんだろうな。
「特に、そろそろ地上に帰りたいと言った時はすごい剣幕だった。『アナタを地上に返すくらいなら私がアナタをここで殺す!』と大声で叫んで、宝剣片手に襲い掛かって来たのじゃ」
ウンディーネ様の可哀想な話かと思いきや、ヤンデレになるキッカケの話だったでござる。
元々素質はあったんだろうけど、何かしらのショックがあると毎回こうなるんだろうな。
記憶を失っても同一人物である事には変わりないので様々な過程を経ていつものウンディーネ様に収束する。
歴史は繰り返される(至言)
「結局どうなったんですか?」
「なんとか逃げ切ることはできたが、奴の領土にはもう金輪際近づかないと誓った。うう……思い出したら寒気がしてきた……」
どうやら魔王もウンディーネ様がトラウマになったようだ。
その後はとくに何か起こる事なく平和に過ぎていった。
三人で夕食を囲んだり、深夜遅くまでブレイブカードで遊んだりと楽しい時間が続いた。
就寝する頃には、ウンディーネ様の事もすっかりと忘れていた。
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