第44話:緊急クエスト
あれから二週間が経った。
俺はCランク冒険者として活動していた。残念ながら、まだ誰ともパーティは組んでいない。
現状では一人でなんら問題ないが、そろそろ同ランクの人とパーティを組みたいな。
次の依頼では他の冒険者とパーティを組んでみよう。
冒険者ギルドに赴いて、大掲示板でクエストを探していると、気になるクエストを発見した。
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【緊急クエスト:ルミナス牧場を救え!】
・仕事:ルミナス牧場の復興
・報酬:金貨1枚から成果に応じて追加。
・仕事内容:建築
・場所:ルミナス牧場
・期限:一か月
・備考:手が空いてる冒険者はこちらを優先して欲しい。宿泊施設と食事代はミネルフォート家が全額負担する。
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別途の資料を確認すると、こうなるまでの経緯が詳しく書かれていた。
昨日、ルミナス牧場に巨大隕石が落ちて施設が全壊したそうだ。幸いにも牧場経営者と飼い牛は予言魔法によって難を逃れたが、それを考慮しても施設が丸々吹き飛んだので、金貨数千枚相当の大損害らしい。
冒険者ランクを問わない全体クエストのようで、誰もが自由に引き受けることができる。
施設の復興作業が今回のメインであり、建築能力の有無に関わらず、手が空いている者なら全員徴集したいという意思を感じる。
ルミナス牧場はミネルバの酪農産業を支えているので、ギルド側も本気で救援にかかるとの事。
また、今回の報酬・費用に関してはイゾルテさんの実家であるミネルフォート家が全額負担している。
緊急クエスト扱いとはなんかすごい事になっているぞ。
隕石と聞くと、二週間前に発狂していたネロさんが記憶に新しい。
白装束を身に纏って、呪詛の言葉を込めて、藁人形にごっすんごっすん五寸釘していたネロさん。
結局、彼が発狂していた理由は未だに不明のままだ。
その翌日には元気に喫茶店を再開していたので聞くタイミングを逃してしまったのだ。
理由がわからない発狂はちょっと不気味だ。
「これは間違いなくネロが犯人ですね」
「うわ!?」
突然、真横からヌッという形で、アイリスが姿を表したので、俺は驚いて声を上げてしまった。
「び、びっくりした……。いきなり真横から現れないでくれよアイリス。心臓が止まるかと思ったよ」
「もし心臓が止まれば、私の聖法力で蘇生させるので、ご安心ください」
と、冗談を言いながら、アイリスは顔を綻ばせて笑う。
「ネロさんが犯人ってどういうこと?」
「もちろん冗談ですよ。ネロに隕石を落とすような力があるわけないじゃないですか」
「それもそうか」
アイリスの言葉だから一瞬本当に犯人だと思ったよ。
「ですが、事件の前に疑われるような発言をしたのは事実ですので、疑われても文句は言えないでしょう」
アイリスの言っている事は尤もだ。
もっとも、アイリスも本気でネロさんを疑っているわけではなく、『人里で鷹剣使いを名乗らず』という言動には注意しよう程度の口ぶりである。
このことわざの意味であるが、鷹剣は魔族や獣人が用いる剣術なので、人間が使用すると魔族と疑われてしまうというものだ。
あえて言及しなかったが、俺が戦った黒鴉も『魔族』なのだろう。
「ところでロイド様はこの依頼を引き受けますか?」
「もちろんだ。困っている人を放ってはおけないからな」
「ふふふ、ロイド様は本当にお優しい方ですね。そのお言葉を聞いて、ますますロイド様のことが大好きになりました」
アイリスの薔薇色の頬っぺたがさらに赤みを増した。
聖法力を使用せずとも、アイリスは笑顔だけで人の心を癒すことができるみたいだ。
それはそうと、アイリスの様子を遠くで眺めていた数名の冒険者がざわついている。いずれも男性であり、俺たちのやり取りを聞いていたようだ。
「な、なるほど。俺たちもあんな回答すればアイリス様から気に入られるのか! 閃いた!」
すると、そのうちの一人が周りの冒険者にも聞こえるような大声でわざとらしく叫ぶ。
「俺も困っている人は見過ごせないぜ!」
他の男達も一斉に挙手して自己PRに励む。
「俺は無償で奉仕できます。ボランティア大好きー!」
「俺も俺も! ちなみに俺は子供の笑顔が三度の飯より大好きです!」
「嘘つけ、お前が本当に好きなのは子供じゃなくて風俗だろ」
「お前だってお金と結婚したいといつも言ってるだろうが」
「なんだと!? やんのかこら!」
「上等だ!」
そのまま殴り合いの喧嘩に発展している。
「ほんと冒険者の男共って最低ね」
「下品すぎる」
対照的に、女性冒険者たちは冷たい目で彼らを睨んでいる。
ちなみに当の本人は依頼書を熟読しており、彼らの魂の叫びはアイリスの耳には届いていないようだ。
「どうやらルミナス牧場が復興するまでは、新鮮な牛乳がミネルバに届かなくなるようですね」
「牛乳は色々な食材に用いられているから家庭へのダメージも深刻だろう。明日の《聖戦》で出そうと思っていたマカロニグラタンも、牛乳が使われているからしばらく作るのは無理だろうな」
「最近のロイド様は、魔王様のご飯作りに精を出し過ぎて、どちらが本業かわからなくなっていますね」
「言われてみればそうかもしれない」
アイリスの言葉に俺は苦笑いをする。
三日に一回ペースで聖戦の順番が回ってくるので、生活のリズムが幼女の世話に傾きつつある。
そのせいか、スローライフを送っているはずなのに最近は寝不足だ。
「せっかくなので私も《聖戦》のメンバーに加わりましょうか?」
「え? アイリスが?」
「聖戦のご様子は何度か拝見いたしました。大体の勝手はわかっていますので、私でもできそうな気がします」
アイリスがメンバーに加わってくれたら俺も助かるけど、道中は魔物も出現するので注意が必要だ。
いくらアイリスがローランドで高い教育を受けた上級魔導士とはいえ、万が一という事態もある。
「いきなり一人はちょっと心配だから、最初のうちは俺も一緒について行くよ」
「わかりました、お気遣いありがとうございます」
「感謝するのは俺のほうだよ。アイリスが来てくれたら時間的に余裕ができるからすごく助かる」
アイリスが仲間になった。
これからはアイリスと一緒に《聖戦》のお題を考えよう。
アイリスが正式に加わるのはまだ先の事になるので、三日ペースなのは依然変わっていないが、かなり負担が軽くなりそうだ。
「大好きなロイド様のために、聖女としての力を使えるのなら、それに勝る喜びはありませんよ」
そう言ってくれると俺も頑張り甲斐がある。
さて、本題に戻るが、緊急クエストの内容は建築業なので、ドワーフに依頼するのが一番かもしれない。
女性職員にイゾルテさんへの面会を申請する。
親しき仲にも礼儀ありだからな。ギルドにいる時はちゃんと手続きを踏むのが基本だ。
すぐに面会が許されて俺たちは冒険者ギルドの二階に行く。
イゾルテさんはギルド長室におり、こちらに背中を向けて窓の外を見ていた。
そして、こちらをゆっくりと振り返る。
「ロイドの方からやってくるのは珍しいな。今日は何の用だ?」
「緊急クエストの件なんですが、私から提案があって訪問しました」
「提案?」
「はい、建設業に詳しい方を探しているのでしたら、ドワーフに頼むのはどうでしょうか?」
「名案ではあるが、一つ問題がある」
「問題?」
「彼らはとても気難しい性格をしている。すでに要請を送っているが、クエスト参加に同意してくれたドワーフは2、3人程度しか集まらなかった」
イゾルテさんは自身の額をトントンと叩きながら怖い顔をする。
眼光が鋭いので睨むだけで人を殺せそうだ。
「それなら俺がドワーフ達を説得しに行きましょうか?」
「む? ドワーフにコネでもあるのか?」
俺はサンドワームの話をして、その時に一部のドワーフに気に入られたことを説明する。
「なるほど、たしかにロイドが適任だな。お前にドワーフ達の説得を頼んでもいいか?」
「もちろんです」
緊急クエストには明日から参加する予定だ。
今日中にドワーフ達を説得すれば問題ないな。
今の時刻は正午ちょっと過ぎなので到着は夕方頃になりそうだ。
これからドワーフの所に行って、ドワーフ達にも協力を仰ぐと伝えると、アイリスは目を輝かせる。
「私も牧場の復興を手伝いたいのでお供します!」
アイリスも一緒について行きたいみたいだ。もちろんオールオッケーだ。
馬車駅で駅弁を二個購入して俺たちは出発した。
駅弁を一緒に食べたり、アイリスの膝の上でお昼寝したりした。
のんびりと時間は過ぎていった。
「ロイド様、目的地に到着しましたよ」
「……ん、もうついたのか」
俺は上体を起こした。
いつの間にか麓の村に到着していた。
窓から入り込む細い夕日の光がアイリスの横顔を照らしている。
「随分と疲れが溜まっていたんですね」
「すまないアイリス。仮眠のつもりが寝過ぎてしまったようだ」
「いえいえ、ロイド様の可愛らしい寝顔を拝見できて、私も満足しておりますから」
アイリスは柔和な笑みを浮かべてそう答えた。
馬車から降りる時は、アイリスが転倒しないようにエスコートする。
俺たちは手を繋いで石畳の上を歩いていく。
「こうして考えてみると、ミネルバから結構遠いですよね。ロイド様、三日ペースでこの往復は大変ではありませんか?」
たしかにアイリスの言うように、拷問内容を考えるより、この通勤時間の長さがしんどいところもある。
本業をやりながらこの通勤時間を三日ペースでこなすのは普通に拷問だ。
あれ? なんで拷問官が拷問を受けているんだろう……。
「いずれなんとかしようとは思っているよ。
ポータルを作れる錬金術師がいないか現在探している所だ」
「ポータル?」
「空間転移魔法のことだ。それがあればミネルバと魔王のフロアを繋げる事ができる」
「へえ、そんな便利なものが存在するんですね」
「ただ、それを作れる奴は今のところルビーしか知らないけどな」
「あらら、それは困りましたね」
アイリスは苦笑いをする。
ルビーとはもう関わりたくないので転移魔法を作る望みは薄い。
だから現状では、聖戦のメンバーを増やしてローテーションにゆとりができるようにするのが一番現実的だ。
「思い切って私と一緒にこの村に住みますか?」
「そういう台詞は、生涯の伴侶と決めた俺以外の相手に言ってあげてくれ」
「なかなかの難問ですねー」
「アイリスならきっといい人が見つかるよ」
「ロイド様は鈍感ですね。もうすでに見つかってますよ」
アイリスはギュッと手を握り返してきた。
その後、アイリスと世間話をしながらミネルバ山道を歩いているとセフィリアさんとばったり鉢合わせた。
セフィリアさんがここにいる理由は本日の聖戦の担当だからである。
「こんにちはセフィリアさん」
と、俺はセフィリアさんに挨拶する。
セフィリアさんは俺を見て不思議そうな顔をしている。
「ご友人様、本日は私の担当でございますよ」
「今日は魔王とは関係ない別の用事で来たんだ。セフィリアさんはルミナス牧場に隕石が落ちた事をご存知ですか?」
「いえ、ご友人様の言葉で、いま初めて知りました」
「その隕石でルミナス牧場が全壊したので、建築の専門家であるドワーフにも修復を手伝ってもらおうと考えているんです」
「なるほど、それでご友人様が派遣されたのですね。その依頼人はイゾルテ様ですか?」
「よくわかりましたね。
提案したのは俺の方ですが、直接の依頼人はイゾルテさんになります」
「なるほど、イゾルテ様は人を見る目がありますね。よい人選です。ご友人様の頼みならドワーフ達も快く引き受けて下さるでしょう」
セフィリアさんはそう断言した。
また、それに合わせてセフィリアさんは、俺にある提案をした。
なんと、幼女の聖戦を代わりに引き受けてくださるそうだ。
「大丈夫ですか? この距離を毎日往復するのは大変ですよ。
ぶっちゃけアレ、一ヶ月くらい放置しても死なないっぽいですから、無理に引き受ける必要はないんですよ」
今回の緊急クエストが終わるまで、俺は幼女の所に足を運ぶ事ができない。
仕方ないので期間中は役割を放棄しようと考えていたのだが、セフィリアさんがそう仰るのならぜひお願いしたい。
「ご安心下さい、ご友人様。しばらくはこの村に宿泊するので問題ありません」
それならお願いしちゃおうかな。
何からなにまでお世話になって本当に申し訳ない。
そして、ありがとうございます。
セフィリアさんのために立派なお土産を買ってこようと決意した。
その後、セフィリアさんと別れを告げて、俺たちはコッコロ山道に足を踏み入れる。
「今日のセフィリアはやけに上機嫌でしたね」
「え? そうなの? いつもと変わらないように見えたけど」
なにか嬉しい事でもあったのかな。
コッコロ山道の緩やかな坂道をアイリスと一緒に歩いていく。時々、ゴブリンなどが出現するが俺たちの敵ではない。
魔法でサクッと処理しながら進んでいく。
「魔王様の所には立ち寄りますか?」
アイリスが訊ねた。
「いや、今はルミナス牧場の復興が最優先だ。魔王にかまっている暇はない」
「ロイド様のおっしゃる通りですね。
魔王様には悪いですが、いまは《聖戦》よりも牧場復興が100倍大事でしょう。
そもそもミルクがなければ魔王様の料理も満足に作れませんから」
アイリスも同意する。
しばらくの間はセフィリアさんが引き受けてくれる。幼女の事はいったん忘れよう。
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