第38話:蜜玉の使い道
アルラウネの討伐後に俺たちは蜜玉の採取に移る。
蜜玉は地中に埋まっている球根に詰まっているのでスコップを使って掘り起こした。
球根はワイン樽と同じくらいのサイズがあり、成人男性3人分くらいの重さがあった。
「私たちだけでは運ぶのがちょっと難しいですね。他の冒険者の手も借りますか?」
「問題ない。俺だけで運べるよ」
「へ?」
俺は球根を大樽に詰め込んでひょいっと持ち上げた。
するとレラが素っ頓狂な声を発した。
「ロイドさん!? ど、どうしてそんな重いモノが持てるんですか!?」
「ん? 最近筋トレにハマってるからな。
隠れマッスルって奴だ。
俺って結構筋肉あるんだぜ?」
「先生すごいです!」
「ロイド様、どうして《グロウ》の魔法を使った事をみなさんに黙ってるんですか?」
アイリスは不思議そうな顔でそう言った。
ばかっ、アイリス! それをバラしたら急にダサくなるだろ!
「そういえばロイドさんはグロウを使えましたね」
「俺たちが扱えなかった肉体強化魔法もなんなく使用できるなんてやっぱり先生はすごいです」
マルスが言っている言葉の意味であるがマルスとレラはグロウを使用できない。
初任者研修期間に俺から教えてもらおうとしたけれども今では難しくて断念している。
現在俺の身の回りでグロウを使用できるのは俺だけだ。
そのため、大樽を運べないみんなの代わりに俺が大樽を運ぶのだった。
【とある魔導士視点】
俺はAランク魔導士で《栄光の太陽》と呼ばれる有名パーティに所属している。
最近俺は気に入らないことがある。
騎士団に所属している騎士から小耳に挟んだのだ。
あのDランクの魔導士のロイドは無能で名高い専属魔導士のロイドらしい。
ルビー様のアトリエから逃げ出した情けない奴。
そんな奴が俺たちのアイドルであるアイリス様と一緒にいることが許せない。
どんな方法を使ったのかわからないがあの無能魔導士がアイリス様と一緒にいるなんて何かの間違いだ。
同じ魔導士なら俺の方が圧倒的に優れているはずだ。
Bランクの実力者であるマルスとレラと一緒だからイキっているのだろう。
あいつらもあいつらで生意気だから今回でわからせが必要だな。
まあ、いい機会だからAランクパーティの実力を見せてやるか。
「ジョージ! ようやくアイツらが戻ってきたぞ!」
「よしっ、生意気な奴らは俺たちの拳でわからせたるか」
「へへへ、お前も悪い奴だな」
森の入口で待機していると無能魔導士のロイドが戻ってきた。
だが、俺たちはロイドを見て唖然となった。
ロイドは魔導士なので筋肉があるわけではない。筋肉量で言えば俺とそう変わらない。
だが、ロイドはめちゃくちゃ重そうな大樽を片手で、それはそれは軽そうに携えていた。
「よっ!」
ドーンッ!!!
中に質量が詰まってますとわかるほどの衝撃音が響く。
「ふう、これを担いで5キロ以上歩くのは結構疲れるな」
「その割には全然疲れが溜まってなさそうに見えるんですが」と男性剣士が言った。
「いやいや、流石に俺も疲れているぞ」
いやいやいや、こいつの筋肉量どうなってるの? これを担いで5キロも歩いてたと言っていたがマジなのか!?
バーサーコングじゃねえか。
だ、だが俺は負けたわけじゃないぞ。
マッスルポイントでは負けたかもしれないが、魔導士の実力としては俺の方が数倍勝っているはずだ。
勝負はまだ始まったばかり、ここから逆転の時間だ。
「おい、そこのロイドという魔導士!」
俺が呼びかけたちょうど同じタイミングで、遠くの方から悲鳴が聞こえてくる。
「きゃああああああ!? みんな大変よ! 《オークジェネラル》がこっちに向かってきてるわよ!」
オークジェネラルだって!?
オークジェネラルと言えばA級パーティでも苦戦する化け物だぞ。
どうしてキャンプ場付近にオークジェネラルが出現するんだ!?
全長20メートルもあろうかという超巨大オークが森の奥から出現する。
で、でけえ!? なんだあの大きさ!? オークジェネラルってあんなにでかかったのか!?
すると、ロイドが一歩前に出て杖をかざす。
「エクスプロージョン」の一言でオークジェネラルを消し飛ばしたのだ。
俺を含めて、その場にいた冒険者達一同は唖然となった。
ま、まさかこのロイドがオークジェネラルを倒したのか?
俺を含めて複数の冒険者がその光景を見ている。これは疑いようがない事実。
オークジェネラルすら消しとばしてしまうほどの攻撃魔法を放つ目の前の男に俺は大きな衝撃を受けてしまう。
「ところでキミ、さっき俺に話しかけてたけど何か用?」
「あっ、オークジェネラルがいる事をロイドさんに伝えたかっただけッス」
俺は慌てて訂正した。喧嘩売らなくてよかったぁ……。
噂で聞いていたような無能魔導士なんかじゃ絶対ない。
このロイドという男は、魔導士の最高峰たるマスター級魔導士だった。
【ロイド視点】
球根をナイフで切り開くと大量の蜜玉が入っていた。
甘い匂いが辺りに漂う。
アルラウネの蜜は魔物たちにもとても人気があるから、球根からかすかに漂う甘い蜜の匂いに引き寄せられたのかもしれない。オーク種の嗅覚って人間の数千倍らしいし。
あいつは本来なら未開領域にいるようなモンスターだ。
まあ、エクプロージョンで吹き飛ぶ程度の相手だから何体現れても全然問題ないんだが。
一つ手に取ってみると金色の飴玉のようである。ためしに一つ口に入れてみるととても甘かった。
濃厚な蜂蜜を舐めてるような気分。
「ロイドさん、もう食べてる。まだ分配終わってないんですよ」
「だって美味しそうだったんだもん」
「たくさん入ってますねー」とアイリスが言った。
「蜜玉は高級食材なので高値で買い取って貰えるんですよ。
一個あたり銀貨50枚の相場なのでこの数だと金貨いっぱいになりますね」
レラは蜜玉を枡に入れて分配していく。
俺:アイリス:マルス:レラ=2:1:1:1の配当となった。
補助魔法をかけた貢献度が大きいので俺が他のみんなよりも二倍多めに貰えるのだ。昔の俺なら固辞していたかもしれないが俺も成長してそれを素直に受け入れるようになった。
相手が正当に俺を評価してくれるならそれを素直に受け入れることも立派な成長だと思う。
さて、配当も終わったし料理でも作るか。
せっかく蜜玉もあるんだし昼食後に蜜玉を使ったお菓子を作りたいね。
キャンプ場を見渡す。
人気の狩場ということもあってテントの数も倍に増えている。昼食の時間みたいであちこちで美味しそうな匂いが漂ってくる。一部の冒険者はカレーを作っているようだ。
くぅ~! 王道のカレーは犯罪的だ! 急にカレーが食べたくなった。
それは他の三人も同じのようで俺たち四人はカレーを分担して作ることになった。
あちらのカレーに負けないような美味しいカレーを作らないとな。
多数決をとって辛さ控えめのポークカレーと決まり、俺たちは各自の役割に合わせて調理を行なった。
野菜のみの水分で調理を行うメルゼリア式のカレーはアイリスには興味深く映ったようで俺によく質問していた。
ポークカレーをぺろりと平らげた俺たち。
いまはお腹いっぱいなので小一時間ほど時間を置き、食後のデザート作りを開始する。
ボウルの中に30個くらい蜜玉を入れる。ゆっくりと時間をかけて丁寧に蜜玉を溶かしてペースト状にする。
この辺はチョコレートを溶かす温度調整と要領は同じだ。
人肌よりちょっと高めの温度で慎重に溶かしていくのが大事。
チョコレートもそうだけど、ここを雑にすると風味が一気に落ちて不味くなってしまうからね。
このまま蜜液をトーストにのせるだけでも絶品であるが俺はさらに一工夫する。
ミネルバ粉と卵と蜜を混ぜ合わせて生地を作り、それをドーナツ状にして油で揚げる。
今度は蜜入りドーナツの完成だ。
さっそく聖女様に試食してもらおう。お味はいかがかしら?
「ふぁあああ!? 一晩でローランド城を建てられそうな気がしますぅ!」
アイリスの豹変に一同騒然。俺が作ったドーナツは聖女の舌をも唸らせる極上のお菓子であった。
あらあら、とても喜んでいらっしゃいますの。
アイリスがとても美味しそうに食べるのでマルス達も腹を空かせてドーナツをせがむ。
二人にも蜜入りドーナツを渡すと大絶賛。
「はふっ、もぐもぐ。蜂蜜よりも甘みが濃厚ですごく美味しいです!」
「先生ェの料理はあったけぇ!」
お店に出せるレベルの美味しさのようだ。
その後、俺たちはキャンプ場で一泊した。
午後は四人で川釣りをしたり、そこで釣った焼き魚をワイルドに食べたり、夜は山菜鍋を作ったりしてキャンプを存分に満喫した。
すべてにおいて計画通りに事が進み、我ながら完璧なキャンプだった。
アイリスだけでなく自分もたくさん楽しむ事ができた。レラとマルスの依頼もこなせたから100点満点といっても過言ではないだろう。
その後、ヴィッド大森林からミネルバへと帰還し、俺は三人と別れを告げて宿屋に戻る。
ベッドに腰かけて明日の予定を考えていると、謎の紙切れが床に落ちた。
「なんだこれ?」
俺は紙を手に取り、文面に目を通した瞬間、全身の血の気が引いた。
「キノコパンチマンの討伐」
ロイドくんのお腹にボッコーン!!!
存在しないはずのキノコパンチマンにガチで腹パンされたような感覚。
ああああああああああああああああ!! 最悪だ!! キノコパンチマンの存在を完全に忘れてた!!
アルラウネを倒した事で俺はクエストが終わった気になっていたのだ。
依頼の締め切り日を確認すると2日後だった。
もうそんな経ってたの!?
ヴィッド大森林は遠いから往復で一週間は取られる。
今回に至っては中継地点で宿泊したりとかなり寄り道していたので合計二週間はかかっていた。
俺の冒険者での目標は依頼達成率100%だ。
それがキノコパンチマンのせいですべて崩壊する。
つーかなんだよキノコパンチマンって、名前ふざけてんのかコイツ。
「まずい、このままでは依頼が失敗になってしまう! それだけは避けなければ!」
俺は馬の魔導人形を出してヴィッド大森林まで大急ぎで引き返した。
なんとか間に合ったがギリギリだった。
今度からは他人の依頼ではなく自分の依頼を優先しよう。
締め切りに追われる感覚は久しぶりであった。
ブックマークと星5お願いします!
皆さまからの応援は執筆の励みになります!
次回は2022/8/21 19:00の更新となります!




