第2話:ルビーとの出会い
ロイド本人は、少なくとも善人だった。
……と、わたしは思っている。
だが、王都在住の錬金術師ルビーと聖女コーネリア、あの二人が人格破綻していたという噂も耳に入っている。
火のないところに煙は立たない。
どちらに非があったかはともかく、この二人に何かしらの問題があったのは確かだろう。
恋愛──わたしには、まるで縁のない話だ。
そんなことより、今は街の空気を味わう方が有意義だ。
わたしはキセルに火をつけ、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
王都の通りは石畳。路地には香辛料の匂いと、馬車の車輪の軋む音が混じっていた。
「……そこのあなた」
唐突に、背後から声がした。
振り返ると、赤髪の女性がこちらを睨んでいる。
腰まで届く鮮やかな赤、陽光を弾くような瞳。
「歩きたばこは禁止されています」
煩わしい。
わたしは特に言葉を返さず、視線を街の方へ戻した。
すると、彼女はさらに一歩近づき、声を強めた。
「聞いていますか?」
……正義感に火がついたらしい。面倒だ。
「……お名前を、うかがっても?」
試しに尋ねると、彼女は胸を張って名乗った。
「わたしはルビーです」
その名を聞き、わたしは一瞬だけ煙を止めた。
ルビーという名は珍しい。
そして、今聞いたばかりのロイドの過去話に出てきた人物と同じだ。
――もしやこいつが、例のあのお方か?
「ルビー……。もしや、天才錬金術師のルビーですか?」
わたしがそう問うと、赤髪の女はほんのわずかに目を細め、苦笑を浮かべた。
「わたしは天才なんかではありません。そう呼ばれるのも……ロイドのおかげですから」
噂に聞く人物像とは、ずいぶん印象が違う。
もっと傲慢で、鼻持ちならない女だと想像していたのだが。
「……わたしのことより、たばこは良くないです」
また、視線がキセルへと向く。
その声音は柔らかいが、引かない。しつこい。
「……わかりました」
わたしはため息を交え、煙管を口から外した。紫煙は細く途切れ、冷たい風に溶けていく。
ルビーは満足げに微笑むと、軽やかな足取りで通りの向こうへ去っていった。
見送る背中は、噂の「人格破綻者」には見えない。
……まあ、人は見かけによらない。
そして、人間関係の話は、当事者でなければ真相には辿り着けないものだ。
わたしは再びキセルを取り出し、火を入れた。
紫煙がゆっくりと空に昇っていく。
――王都は、やはり煙が似合う。




