第160話:旅するアトリエ(5)
「おはようございます。今日は絶好のエメロード日和ですね」
ガゼルビアのホテルで一泊した私達。
今日こそは街を出発しようとフロントへと向かうと『例の聖女』が待ち構えていた。
メルゼリアの聖女コーネリアである。
パープル色の鮮やかな髪に、とても整った容姿。白色を基調とした露出の多い神官衣装。
絶世の美女のお出迎えに普通なら大歓喜するものだが、目の前のコーネリアはエメロード教のためなら『だまし討ち』に『放火』といった卑劣な行為を平然とやるような過激派信徒。
私とハクアはコーネリアの姿を確認して自然と「うわっ」と声が出てしまった。
しかし、コーネリアは私達の反応など眼中になく、魔人のハクアを殺す目的のためにフロントで剣を抜いた。
「ハクに斬られて死んだんじゃないの?」
「ルビー。私は峰打ちと言ったはずよ」
地平線の彼方まで人を吹っ飛ばすような一撃は峰打ちとは言わない。
「手心を加えられたのは癪ですが、そのおかげで私はまだ生きています。そして、私をあの場で殺さなかったことを死ぬほど後悔させてあげますよ。ふふふふふ~♪」
「後悔させる? あの一撃を受けても、私との力量差がわからないなんて、ほんと可哀想ね。馬鹿は死ぬまで治らないのかしら」
「一回勝った程度で粋がらないで下さい。たしかに負けたのは認めます。ですが、あの時の私が全力だと思っているなら大間違いですよ」
「どういう意味?」
と、私はコーネリアに尋ねた。
するとコーネリアは不適な笑みを浮かべて、手を頭上にかざす。
「神聖剣終ノ型『真化』」
次の瞬間、コーネリアの全身を包み込むように金色の光が球体状に集約する。
パリーンッ!と鏡が砕け散るような音と共に、神々しい光を放つ金髪の女性が姿を現した。
剣先から柄の頭まで金色に発光している魔力の剣が十本。
ふわふわとコーネリアの周囲に浮遊しており、コーネリアを中心において、まるで太陽のような陣形となっている。
「そ、その姿は……!?」
「さて、ここで問題です。魔王アルバトロスを倒した勇者パーティの子孫は今どこにいるでしょう?」
コーネリアはいたずらな笑顔で私達に問題を繰り出す。そして、私達の返答を待たずにコーネリアが続ける。
「私コーネリアは、勇者アレスハートと聖女レスティアの血を受け継いでいます」
「ちょっとキミなにやってるの?」
「え?」
それから5秒後、たまたま近くを通りかかった憲兵によってコーネリアは現行犯逮捕された。
現行の聖女が、公共の場にて複数の凶器を取り出し、さらに宿泊しているホテル客を脅迫するという前代未聞の不祥事に、国内外問わず大きな激震が走った。