第16話:冒険者ギルド(前編) 幸せな日常
今回は長いので三つに分けました。
前編は導入で本格的な説明は中編となります。
翌朝、俺たちは冒険者ギルド内での行動方針で話し合いをしていた。
俺の方針は一人で冒険者ギルドに向かい、一人で手続きを行い、依頼書を手に二人と合流するというものだ。これが一番安全だし臨機応変に対応しやすいと感じている。
マルスも俺の意見に賛成のようで頷いて同意していた。
レラは腕を組んだまま無言で話を聞いている。
「レラはどう思う?」
「たしかにロイドさんの案が一番安全ですね」
どこか含みのある言い方だ。
「何か問題でもあるのか?」
「問題点はありませんが、私が考えているプランとは大きく違いますね」
ほう、流石パーティ随一の参謀だ。
俺が思いつかないような独自のプランがあるのか。
「レラの意見も聞かせてくれ。そちらも参考にしたい」
「私の案はとても単純です。三人仲良く冒険者ギルドに行きます」
「三人一緒ということは変装でもするのか?」
「変装もしませんよ。ありのままの自分で行くんです」
どこぞの雪の女王が笑顔になりそうなトンデモ提案だ。
作戦も何もないレラの提案には流石の俺も驚いた。
これならノープランの方がまだマシなレベルだぞ。
マルスも同様の感想であり、あんぐりと口を開けて驚いている。
「誰かに勘付かれたらどうするんだ?」と俺は言った。
「その時は男らしく諦めましょう。いつまでもごまかせる内容ではありません」
「潔すぎるこのハーフエルフ。故事成語になりそう」
レラは一呼吸置いて、ゆっくりと自分の意見を語りだした。
「私も昨夜まではロイドさんと同じ意見でした。
ですが一晩おいて、少しだけ気持ちが変わりました。
マスター級だと知られない事は『平穏な日常』を維持する上でとても大事だと思います。
ですが、それ以上にロイドさんの幸せを優先するべきだと感じました。
たとえ平穏でなくともロイドさんにとって『楽しい日常』なら、それは立派な幸せと言えるのではないでしょうか?
ロイドさんが『平穏な日常』を失った時は、私が責任を持って『楽しい日常』に変えてあげます。
だから、昨日と同じようにまた三人一緒に行きませんか?」
レラの言葉の意味がようやくわかった。
昨日の出来事を機に俺は無意識のうちに、『マスター級だと人に知られてはいけない』という固定観念にとらわれていた。
たしかにいらぬトラブルを避けるという点ではその通りだと思うし、あまり多くの人々にマスター級だと知られる事はあまり得策ではない。
だが、これにあまり固執しすぎると、本来手に入るはずだった幸せすらも手から取りこぼしてしまうだろう。
俺にはもうすでに俺の事をよく理解してくれる友達がいる。この時点で俺はもう不幸なんかじゃない。
そう考えると少しだけ気楽になった。
「そうだな。また三人で行こうか。昨日の出来事はなかったことにしよう」
俺は大げさに両手を広げた。
その言葉に二人はとても嬉しそうな表情を浮かべた。
俺の幸せを維持する上でマスター級だと知られることは、はじめから問題ないことだったんだ。
それから10分後、俺たちは冒険者ギルドに到着した。
スイング式の扉を開けてギルドに入る。
午前中という事もあり、ロビーは大勢の人で賑わっていた。
俺が一応気になっていた矢の件だが、破壊されていた窓もすでに修復されていた。
他の冒険者たちもそれを気にしてる様子は一切なかった。
窓ガラスに関して追求されると思っていたが、どうやらそれは杞憂であったようだ。
「ロイドさんの思い過ごしのようでしたね」
「それは良い事だよ。犯人ではない無実のレラが疑われるのは心苦しい」
受付には白髪でケモミミを生やした女性職員。
胸元の大きく開いた服装をしており、若干だが谷間が見えている。
俺は女性職員に話しかける。
「冒険者登録がしたい」
「新規登録の方ですね。こちらの紙にお名前を書いて下さい」
長い睫毛をパチパチと開閉させながら笑顔でそう答えた。
なんとなくだが、人当たりが良さそうな性格だと思う。
三枚の紙とペンが渡される。
名前と種族を書く欄があり、注意事項と規約が書かれている。
名前欄にロイドと記入した。種族はもちろん人間だ。
「ロイドさまですね。これから冒険者ギルドの説明を致しますね」
女性職員は説明を開始した。
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