第151話:リスタート(5)
数秒後、白薔薇はボロ雑巾のようになっていた。
一国の王にあれだけ舐めた口をきけばこうなるのは火を見るより明らかだ。
完全に自業自得だろう。
とはいえ、ロイドの真実を信じてもらわなければ先へ進めないのは事実。
私は陛下にある提案をした。
「ところで陛下。アナタは専属魔導士の役割をご存知ですか?」
「いくら私でもそれくらいは知ってるわ。錬金術のために必要な素材を採取してくる者でしょう?」
「それではなぜ、錬金術師本人ではなく専属魔導士が素材を採取するのかわかりますか?」
「…………依頼のたびに毎回素材を採取しに向かっていたら時間がいくらあっても足りないわ。それに素材採取ではモンスターが出現するから危険じゃない」
「そうです。凶暴なモンスターと戦う必要があるんです。さて、ここで陛下に質問です。私とロイドはどちらが強いでしょうか?」
「??? いくらロイドとはいえ、錬金術師のアナタよりは強いんじゃないの? そのための専属魔導士でしょ」
「陛下も当然そう思いますよね。そして、それは正しい。ロイドは私よりも強い。つまり………」
私は近くの兵士に急接近し、兵士の手に握られている剣を奪い取り、素早く剣を何十回も振るう。
「私よりも強いはずのロイドがエリアゼロで活躍できるのは至極当然のことなのです」
私がそう口にした次の瞬間、私が描いた斬撃の軌道で、強力な衝撃波が発生して周囲の兵士達をすべて後方へと薙ぎ倒した。
その場には、私一人が立っている。
あんなに大勢いた兵士が一瞬で蹴散らされたことで、陛下は唖然となっていた。
「す、素晴らしいわ! 最高にエレガントよ! アナタってそんなに強かったのね! 本当にビックリしたわ!」
「信じて下さいましたか?」
「ロイドのことはまだ半信半疑だけど、アナタの強さを知ることができたから気分は最高にエレガントよ。まさかメルゼリア王国に、コーネリアに匹敵する強さの剣士がいるなんて夢にも思わなかったわ」
「コーネリア?」
コーネリアといえば、メルゼリア王国の正統聖女のはず。
前世では、アイリスの影に隠れて存在感が薄くなっていたけど、あの人も剣士だったんだ。
聖女本人が戦ってるところなんてまったく想像つかない。
「我が王国のエレガントな聖女よ」
陛下は自分のことのように誇らしげにそう語った。
「それで、私の要求は呑んで下さりますか? 彼にはたくさんの恩があります。だから今すぐにでも彼のもとへ向かいたいのです」
「別に構わないわよ。最高にエレガントなアナタを見ることができたんですもの!」
陛下はニコニコ笑顔でそう了承した。
最初からこうすればよかったんだ。
細々と説明するよりも、エレガントな自分を見せた方がいい。
陛下との付き合い方を改めて再確認できた。
私は陛下から多額の金貨と関所通貨のためにエレガント手形を授かった。
多少のトラブルはあったがなんとか旅を始めることができそうだ。
「ルビー。旅に出る前にまずは怪我を治して欲しいんだけど……」
服がズタボロになった白薔薇がフラフラと近づいてくる。
たしかに白薔薇をこのままにするわけにはいかない。
彼女は師匠の師匠。
私にとっては大恩人なので、ちょっとアレなところはあるけど蔑ろにしていい人物ではない。
教会に立ち寄ることを伝えた。
私達は城を離れて今度は教会へと向かった。
すると、先ほども話に挙がった聖女コーネリアが出迎えてくれた。