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第15話:エリアゼロ

 それからおよそ5分後。

 地図を確認しながら宿屋を目指していると占い屋を見つけた。

 占い屋は90代前後の老婆で露店の奥でプルプル震えている。


 ご老人の方がプルプル震えているこの現象をパワハラ幼馴染のルビーは《最終覚醒ファイナルシンドローム》と勝手に呼んでいる。

 ルビーは占いで服の流行をチェックするほど占いが好きなので、街で見かけるたびによく占ってもらっていた。


 俺の経験上、90代くらいのご老体の方が一番占いの的中率が高い。

 ちなみに占いは魔法の一種だが出来る人は限られている。

 実は俺も占いはできない。

 ご老体特有の特殊スキルだと適当に思ってくれ。


「せっかくだから今後の俺のセカンドライフを占ってもらうか」

「先生って占いとか信じるタイプなんですね。意外です」

「ルビーが占い大好きだったからな。俺も占いは信じてるよ」

「この男いつもパワハラ幼馴染の話してんな。もうアトリエに帰った方が良くないですか?」

「えー、やだー」


 勘弁してくれよ。

 あんな地獄には二度と戻りたくない。

 レラの冷たい問いに対して俺は全力で首を横に振った。


「ところでルビーさんはロイドさんがマスター級であることをご存知なんですか?」


 俺の顔を横から覗きこむようにレラが尋ねてきた。


「たぶん知らないと思う。ルビーにマスター級であることを伝えた記憶はない。それに俺はアトリエ内ではめったに魔法を使わない」


 俺は首を横に振った。

 俺は基本的にアトリエ内で魔法を使わない。

 徹夜で仕事し続けるルビーを眠らせるためにスリープをたまに使うくらいだ。

 ヒーリングもたまに使うかもしれないな。



「ロイドさん。心のコミュニケーションって言葉知ってますか? ロイドさんの方からルビーさんに対してのアピール足りてませんよ。もっと自分の仕事してる風景を見せるべきです。そうすればルビーさんの対応も変わったと思います」


 レラは声色に怒気を含めてそう言った。


「それは到底無理な話だよレラ」

「え?」


「俺の仕事場所は常に《未開領域エリアゼロ》だ。そんな危険なところにルビーを連れていくわけにはいかない」


 未開領域エリアゼロとは聖女の加護がまったく行き届いていない超危険エリアを指す。

 どこを歩いても中級以上~最上級以下の魔物が飛び出してくる。マスター級が飛び出してくる事はめったにないが、何度か交戦したことも程度にはヤバい場所だ。


 話し出すと長くなるのである程度割愛するが、この世界の素材は4つのランクに区切られている。



 未開領域エリアゼロ危険領域(エリア1)支配領域(エリア2)安全領域(エリア3)



 俺が採取する素材のレベルは、常に最高ランクの《未開領域エリアゼロ》。

 ルビーの指定する素材は9割方ここに集中しているからだ。


「《未開領域エリアゼロ》!?」

「足を踏み入れれば必ず死ぬと言われている超ヤバいエリアの事ですよね?」

「死ぬかどうかはわからんが超危険なエリアであることは間違いない。俺もマスター級の『人型魔族』と交戦した時は流石に死にかけたよ」



 俺は冗談っぽく笑いながらそう答えた。


「死にかけたよとサラッと知ってますけど、100%死ぬから《未開領域エリアゼロ》と呼ばれているんですがそれは……」


 マルスは絶句している。


「マルスくん。ロイドさんの普通の基準はバグってるから気にしない方がいいよ」


 レラはもはや呆れていた。


「こういう危険な場所で素材を採取してるからルビーが知らないのも仕方ないんだ」


 専属魔導士は外で素材を集めることが仕事で、錬金術師はアトリエで素材を調合をするのが仕事だ。

 お互いに役割がまったく異なるから相手の働いている現場を見るにはある一定の『意思』が必要だ。

 まだ駆け出しだった頃は俺の仕事現場に遊びにやってくることもあったが、領域の危険度が上がっていくにつれてルビーが同行する頻度も徐々に少なくなった。


 ここ二年間くらいは一度も採取に同行していない。

 そういやルビーのやつ今ごろなにをやっているんだろう。俺の代わりに専属魔導士を雇ったのかな。




 ルビーの動向は気になるが今は占いが先だな。

 《最終覚醒ファイナルシンドローム》が発生している老婆の的中率はマジで高いからな。

 当たり過ぎて俺もビビる。


「一回どれくらいですか?」


 俺は老婆に話しかける。


「銅貨一枚じゃ」と老婆が言った。

「とても安いですね」とレラがすぐに反応した。

「趣味みたいなもんじゃからの。老い先短い老ぼれの暇潰しだと思ってくれ」

「俺の今後を占ってくれ。個人的に仕事運が知りたい」


 俺は老婆に銅貨を渡す。

 老婆の水晶が青く光り、老婆は占いの結果を口にした。


「仕事運は申し分ないが、お主からは女難の相が出ておる」

「やっぱり」


 やっぱりってなんだよ。

 レラの発言にムッとしてしまう。


「じゃあ今度は私ね。ねえお婆ちゃん、マルスくんが好きな女性のタイプ教えて!!」

「ちょっ!? いきなり何を言ってんの!?」


 マルスがとても動揺している。


「だって気になるじゃん。まあ私なのは間違いないんだけど一応ね」

「だからってほらっ、実際に言葉にされると恥ずかしいだろ!」

「さてさて、マルスくんの好きなタイプはどんなハーフエルフさんかなぁ! マルスくんが悪いんだよぉ、はっきり言葉にしないから。さあお婆ちゃん言ってあげてよ!」


 普段の二人の雰囲気を見るかぎり、占いの結果はレラの事を指し示すだろう。

 水晶が光り輝き、老婆が占い結果を口にした。


「好きな女性はそこのハーフエルフのお嬢さんのようじゃな」

「やったー!」


 レラは万歳と両手を上げて喜ぶ。

 マルスはこれ以上にないほど顔を真っ赤にしている。


「どんな所が好きって言ってるの?」

「笑顔が素敵なところと水晶に書かれておる」

「へいへいへーい、マルスくんマルスくん。そんなに私の笑顔が好きなの~? それじゃあもっと私の笑顔を見せてあげるよ。にぱー☆」

「うっぜーよ。ニヤつきながら近づいて来るな!」

「ひっどーい!」

「もういいよお婆ちゃん。俺の事は占わなくていいから」


 マルスは占いの中止を申し出る。


「へえ、ここ性格診断もできるんだ」

「あまり評判は良くないがの」

「お婆ちゃんの占いよく当たるもんね。マルスくんの好きな人も見事的中したし。じゃあ今から全員の性格診断しようか」


 レラはニヤつきながら俺たち二人を見回した。


「なんでだよ」とマルスが言った。

「自分の性格がわかっていれば欠点もわかるでしょ? そんな事もわからないの?」

「こいつムカつくなぁ」

「にぱー☆」


 レラはかなりテンションが高い。

 やはり好きな男性が自分の事を好きだと言ってくれるのは女性としてはたいへん嬉しいのだろう。


「まずはロイドさんから!」


 レラは俺を指差した。


「おいおい、本当にやるのか?」と俺は言った。

「もちろんだよ。まあ私は完璧な性格だから性格診断もまったく怖くないんだけどね」

「フラグ乙」とマルスは言った。

「はあ? じゃあまずは私から性格診断していいよお婆ちゃん。清楚で優雅で優しい私の性格診断をご覧あれ!!!」


 この子調子にのってんな―。

 まあ、かわいらしいからいいんだけどさ。年の近い妹を見てるような気分だ。

 老婆の水晶が光り輝き、レラの性格が判明した。



「ガサツで乱暴で気に入らない事があるとすぐに人の粗探しをする。

 頭だけは無駄にいいのでやり込めるのが難しく、自分がエルフ族の末裔だからか、自分は誰よりも寛大で思慮深く優しい存在だと思っている。

 たしかにそういう一面もあるが、実際の所は目的のためなら手段を選ばないため周りが毎回迷惑し、しかも本人は無自覚なのでそれに気づかないヘイトモンスター。

 あと普段読んでる本のジャンルがキモい」



 え? マジで誰これ。


「すげー当たってる。お前のこと知り尽くしてんじゃん」


 もしかしてレラの事言っているの!? 嘘だろ!?

 冗談としか思えないがマルスは老婆の占いに感心している。


「よしマルス、この老い先短いインチキ占いクソババアを今すぐ斬り殺せ。魔法で細切れにしたあと鳥の餌にしてやるわ」


 俺の中のレラはお淑やかで清楚で静謐で分別があり落ち着き払った悠然なハーフエルフのイメージがあったので、いまの流れるような暴言に驚愕してしまう。


「心当たりがあるという事はどうやら正解という事じゃな」

「正解だとしてももう少しまともな答え方しろよババア」

「やめなよヘイトモンスター。そんなこと言うとまた他人からのヘイト溜まるぞ。少しは森の賢者らしくお淑やかになりな」

「ウッキー!! テメーの方が私の100倍ヘイト溜めてんだろうが!! ウッキー!!」

「ぎゃあああ!? いてええええ! こめかみはやめろ!! 森に送り返すぞ暴力エルフ!」


 二人は公衆の面前で大喧嘩を始めた。

 二人が仲直りしたのはそれから30分後のことだった。



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― 新着の感想 ―
まったく話しが進まない所が好きです!どうかこのままでお願いいたします。
[一言] やるなあ婆さん。実は高名な占い師?
[一言] 止めなよヘイトモンスターに腹筋が鍛えられました、などと
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