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第138話:イェル孤児院(2)

 模擬戦終了後、レラは目を輝かせて私の手を握った。


「す、すごいですルビーさん! こんなに強かったんですね! ルビーさんって何者なんですか!?」

「何者と言われても、ただの錬金術師だよ」

「れ、錬金術師!? それは本当ですか!? あっ、ただ、ルビーさんの名前だと例のアレとよく勘違いされますよね?」

「例のアレ?」

「メルゼリア王国が誇る大魔導士ロイドにパワハラを働いた無能ゴミカス性悪キチガイパワハラ錬金術師のことですよ。初級ポーションすら作れずに喚き散らし、挙句の果てには収容所送りになった惨めな屑女です。さっさと死ねばよかったのに、噂によると、まだどこかで生きてるそうですよ。全世界のルビーさんに多大な迷惑をかけてると思いますから、私がゾンビになって欲しいランキング堂々の第一位はソイツです」

「キミがいま口にした女が私ってわけ」

「……………えええええええええええっ!!?」


 レラは尻もちをついて驚いた。どうやら私が本人だと信じられないようだ。


「え、ええ!? ほ、本当なんですか!? でも、ルビーさんは私を助けて下さった優しい方じゃないですか。そのルビーは人の心を知らない悪魔のような女だと師匠から聞いてますよ」

「それは別に間違ってないよ。当時の私はロイドに酷いことをずっとしてたから」


 自傷げにそう答え、私はレラから視線を外した。

 レラは神妙な表情となり、いまも私をジッと見つめている。


「な、なんだか私の思っていた人と全然違います……。もっと悪魔のような猟奇的な人物だと思ってました」

「ロイドから絶縁されてもう9年近く経つからね。それだけ時が経てば、私の価値観だって変わる。今はただただ、自分の行いに後悔している」

「……」

「それが原因で多くのものを失ったけど、剣という大切なものを手にいれた。だから今度は、前みたいに傲慢にならないようにして、私なりに人を救おうと思っているんだ」

「ルビーさん……。ぐすん、私が間違っていました。ルビーさんの気持ちも考えずに酷いことを言ってしまってごめんなさい」

「別に気にしてないよ。全部事実だから。それより、もっと生産的で楽しい話をしよう。レラさんだってこんな暗い気持ちになる話をずっと続けたくないでしょう?」

「そうですね。ルビーさんのおっしゃる通りです。ルビーさん、もしよければ、改めて私の友達になって下さいませんか? ルビーさんの人となりを知って、もっとルビーさんのことを知りたいと思いました」

「私のこと? 別にいいけど、楽しい話なんてできるかな?」

「ないならこれから一緒に見つけましょう! 私もそろそろ切り替えなきゃいけないと思っていますから」


 切り替えるというのは、マルスや師匠の死についてだろうか?

 彼らの関係は一切知らないので、私がどうこう言える問題ではないが、彼女がそうしたいならそうさせるのが一番無難だろう。

 私としても仲間が増えるのは大歓迎だ。


 こうして、私はレラと友達になった。



 ◆ ◆ ◆


「ところでレラの師匠ってどんな人だったの? その人は私のことをよく知っているみたいだったけど……」

「あー、それは……難しい質問ですね。なんと説明すればいいのやら……」

「もう。じらしてないで聞かせてよ。友達に隠し事は良くないと思うよ」

「そこを衝かれると苦しいですね。ルビーさんもショックを受ける内容ですよ?」

「それでもいい」

「わかりました。正直に話します……………私の師匠はロイドです」


 頭を鉄の棒で殴られたような強い衝撃を覚えた。

 合わせて、無意識のうちに、レラの話した内容が頭の中を駆け巡る。


「…………でもレラの師匠は殺されたって」

「はい。殺されました。だから、ルビーさんの知っているロイドはもうこの世にいません」

「…………」


 流石にこれはちょっと知りたくなかった情報だ。

 ロイドがこの世にもういないなんてイマイチ想像できない。

 だが、不思議と涙は出てこなかった。

 年月の経過で、ロイドに対しての想いが薄れていったのかもしれない……。

 しかし、一方で、ロイドを殺した相手に対しての怒りの感情がふつふつと湧いてきた。

 拳を握る手に自然と力がこもる。


「レラ。その悪神は王都にいるんだよね」

「ま、待って下さい、ルビーさん。まさかロイド師匠の敵討ちをしにいくつもりですか!?」

「そうだけど。あっ、レラには迷惑をかけないよ。一人で行くから」

「い、いけません! 危険すぎます!」

「それでも行かなければいけないんだ。ロイドは私の恩人だから」


 私はそう答えて、レラの反対を押し切ってすぐに孤児院をあとにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルビーよ・・・、 薄れたのはロイドへの想いではない、 執着だ。
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