第135話:ゾンゾンの国(8)
「ゴオオオオオオオオオオオ!」
突如、村の外から獣の咆哮が聞こえた。
レラは小さな悲鳴を上げる。その目には恐怖と不安が宿っていた。
「ま、またアイツらがやってくる」
「アイツら?」
「こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい」
レラはパニックに陥っており、その場にへたり込んでガタガタと震えている。
事情はわからないが、どうやら誰かに追われているようだ。
ほどなくして、身の丈5メートルを超えるほどのサイクロプスが五体も私の前に現れた。
サイクロプスの肌はゾンビのように白くボロボロ。
目には生気がなく、口からよだれを垂らしている。
右手に棍棒を握っており、それを引きずりながら近づいてくる。
地面と棍棒が擦れる不気味な音が響く。
「ひっ!?」
レラは彼らを目撃するとさらに震え上がる。
私は、レラを孤児院の中に避難させるようにフェアに指示をする。
フェアはこくりと頷き、レラの手を引いて建物の中へと連れて行った。
私はというと、その場に一人残り、ある程度距離が縮まったところで私の方から先にサイクロプスに攻撃を仕掛けた。
まずは奴の右足を切断しようと思い、奴の真横へと踏み込んで大きく剣を振るう。
しかし、堅い骨に阻まれて止まってしまった。
「!!」
あまりの硬さに私は驚いて硬直する。
「ルビー! 上!」
フェアの声で我に返り、私は咄嗟に距離を取る。
先程まで私がいた位置に別のサイクロプスの棍棒が落ちた。
ひやりと背中に冷たいものが流れた。
戻ってきたフェアがすぐさま私の側による。
「ルビー。もしかしてサイクロプスの知識がない?」
「あはは……。実は戦うのは初めてなんだ」
「まったくもう……」
フェアは呆れた表情を浮かべる。
「サイクロプスの急所は首の後ろ。そこ以外は硬くて中々攻撃が通らないから気をつけて」
「アドバイスありがとう」
私はそうお礼を言って再び戦闘を再開する。
サイクロプス達はそれぞれ棍棒を乱暴に振るう。私はそれを冷静にかわしていく。
奴の攻撃速度はさほど早くないが、その威力はどれも致命傷になりえるものだ。
慎重に立ち回りながら、一瞬の隙をついて、弧を描くようにサイクロプスの真後ろに回り込み、剣を振りぬく体勢となる。
「獣王剣一式『風神一閃』」
鋭く、真横へと剣を振るう。
三日月型の風の衝撃波が飛んでサイクロプスの首筋に直撃した。
フェアの言葉通り、そこが急所のようで、サイクロプスは断末魔を上げてその場に倒れて動かなくなった。
「流石ルビー!」
とフェアが嬉しそうに喜んだ。
私も小さくピースサインを送る。
「フェア。残りの四体も全員倒すよ。フェアは左側にいる二体を頼む」
「わかった」
フェアと共闘してその場にいたサイクロプスを全員撃破した。
彼らの撃破後、私はレラの元へと戻る。
そして、改めてなぜ彼らに襲われていたのかを確認する。
すると、彼女は衝撃的な情報を口にした。
「この国がゾンビだらけになったのは、カタストロフィという神が原因なんです」
「カタストロフィ? なにそれ、全然聞いた事がないけど」
「カタストロフィとは、天界に君臨していた四人の悪神です。これまでは、天界に封印されていたんですが、どういうわけか復活して、この国に災厄をもたらしています」
「ちょっと待ってよ。天界とか神とか言われても全然わからないよ。そもそも天界ってあるの?」
「わかりません。私は、彼らが口にした話をそのまま二人に伝えているだけです」
うーん。
嘘を言っているようには思えないが、イマイチ信憑性がない情報ばかりだ。
「フェアはどう思う?」
「天界には一度も行った事がないからよくわからない」
「だよねー」
「天界に関しては信じて下さらなくても別に結構です。重要なのは、カタストロフィという屑野郎が、このゾンビ事件の元凶ってことだけです。それにそいつは、マルスくんや師匠を殺して……うう、うああああああああああん!」
説明をしている最中でレラは感極まり突然大泣きした。
かなり情緒不安定になっているようだ。
まあでも、今回のゾンビの一件が自然発生的に起きたものではなく、人為的に引き起こされたものだとわかったのは大きな前進だ。