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第12話:出発の朝

 アイリスを宿屋に送り届けた俺はその後、宿泊先の宿屋に帰還した。

 結局一睡もしてなかったのでいまはとても眠い。自室に戻った俺はベッドにぶっ倒れてそのまま眠りについた。


 起床後、俺は朝風呂を済ませてから部屋を出た。レラたちはすでに食堂で食事をとってる最中だった。

 朝食も昨晩同様のバイキング形式だったので今回はほどほどの量を皿に盛った。


「おはようございます先生。本日もよろしくお願いします」


 マルスが俺に気づいて元気よく挨拶をした。

 うんうん、何事も元気がいいのが一番だ。ちょっと上から目線になってしまうがマルスはホント良い子だと思う。


「おはようマルス。レラもおはよう」

「おはようございますロイドさん。今日からいよいよ冒険者生活の開幕ですね。クエストをどんどんこなして《冒険者ランク》を上げていきましょう」


 レラは柔和な笑みを浮かべてそう答えた。

 泰然たる態度は彼女の美しい容姿とも見事調和しており、食事風景に静謐なエルフ族らしさが漂ってくる。

 金髪美少女とオシャレな朝食って例外なく似合うんだね。ホットケーキをナイフで切り分ける優雅な仕草だけで何か聡明さを感じられる。


 朝食時のレラは神々しく近寄りがたいのでマルスの隣に座る。マルスは俺と同じ人間なので比較的接しやすい。


「飯を食ってるだけで聡明さを出せるなんてエルフ族ってやっぱりすごいな」

「レラが優れているのは外見だけで内面は穢れきっているので雑に扱っていいですよ先生」

「マルスくん聞こえていますよ。私は外見だけでなく内面も立派な高潔なるエルフ族です。まあ子供のマルスくんには私の偉大さがまだ伝わらないのでしょう」

「ねっ? なんか発言が上から目線でムカつくでしょう? 先生も俺たちと一緒の冒険者になったら嫌でもレラの本性が見えてきますよ。こいつ、取り繕うのは上手ですが化けの皮が剥げるのも結構早いんです」


 俺から見た現時点でのレラはお淑やかで清楚系のハーフエルフにしか見えない。

 そのうち本性がわかると言っているけれど淫乱だったらどうしよう。


「ロイドさんいまかなり失礼な事考えてませんでしたか?」

「カンガエテナイヨー」


 レラは小さくため息を吐いて、フォークとナイフをテーブルに置く。

 その後、真剣な表情で俺の方を向いた。


「ところでロイドさん。冒険者として一番大切な事を知っていますか?」

「一番大切な事?」

「知らないようでしたらここで教えておきますね」


 なんだろう。

 お金にならない依頼は引き受けるなとかかな。もしくは仲間同士で協力し合う事が大事とか。

 しかし、レラは意外な答えを言った。


「一番大切な事……それは『死なない事』です。勝てない敵が現れたら我先に逃げても構いません。無理をして依頼を引き受けるのも厳禁です。どんな時でも自分の命を最優先に考えて行動してください。本来、私よりも強いロイドさんにこんなことを言うのはおかしい話ですが、冒険者の先輩として必ず先に伝えなければならないと思ったのでここでお伝えしました」


 死なない事か。

 たしかにその通りかもしれないな。

 死んでしまったらすべて終わりだが、生きてさえいればいくらでもやり直せる。


「これが守れないならロイドさんに冒険者をする資格はありません。アトリエに帰った方がいいと思います」


 俺の性格を熟知しているからこそ、レラは最初にそう伝えたのだろう。

 専属魔導士だった頃もそうだったが俺は不眠不休で採取をすることが多かった。危険エリアにもよく足を踏み入れていた。時間制限が迫っている時なんて作戦すら立てずに突っ込んだことすらあった。


「案ずるな。ここでは二人が先輩で俺が新人だ。偉大なる先輩たちのアドバイスはしっかりと守るよ」

「そう言ってくれて安心しました。私の方こそロイドさんに生意気を言ってすいません」

「俺の事を案じてそう言ってくれたのはよく理解している。俺のことは案ずるな」

「先生! その案ずるなって言い回しが気に入ったんですか?」


 うっさいマルス。ちょっと黙ってろ。

 いま真面目な話をしている最中なんだからそう言われると恥ずかしくなるだろ。


「他にも先輩冒険者に気を使って依頼を譲ったり、クエスト中に忖度したり、流石ですと褒め称えたり、パーティ内では元気よく『こんにちはこんばんわ本日はよろしくお願いします』と挨拶したり、先輩として教えることはたくさんあります」


 うわ~、一番ダルイやつ。専属魔導士時代の友達の数0人の俺には難易度が高い。

 協調性がない俺には魔物と戦うよりもこういう対人関係が一番苦手だ。

 忖度という言葉には吐き気すら覚える。


「仕事したくねー。一生布団の中にいたい」


 つい本音が出てしまった。


「そんな弱気じゃ充実したセカンドライフは送れませんよ。いまから我々が行くところは残業代が出ない上に危険性だけは高いこの世の地獄みたいなところなんですから」


 昨日と言ってる内容がまったく違うことに震える。

 まるで求人の広告みたいだ。アットホームって書かれてるから就職したのに実際はサービス残業とパワハラのオンパレードで心壊した俺。


「ところで冒険者といえば二人以上のパーティが一般的ですが、どうなさるかもうすでに決めてますか?」


 母親のような口調でレラはそう言った。


「ノープランだ。剣士と魔導士が揃っていれば問題ないって昔聞いたから剣士でも探そうと思っている」

「剣士なら目の前に俺がいるじゃないですか」

「え? 二人のパーティに俺が加わっても大丈夫なのか?」

「もちろんオールオッケーですよ。むしろなんでダメだと思ったんですか。俺たちは血の繋がった家族より固い絆で結ばれているんですよ。先生は我々の人生の師匠であります!!」


 マルスはそう言ってくれるけれども絆イベントを起こした記憶は特にない。友達的な感覚ではあるけれども。でも冒険者のパーティってもともとそういう軽いノリなのかもしれない。


「私としてもロイドさんの魔法をもっとたくさん拝見したいので、ロイドさんさえよければ私たちのパーティに加わってくれたらすごく嬉しいです」


 レラもオッケーのようだ。

 とりあえず、見ず知らずの奴を忖度する未来はなくなった。彼らになら俺もあまり遠慮せず自然体で接する事ができる。


「二人とも今日からよろしく頼む。冒険者としては本当に初心者だから色々教えてくれ」

「はい、喜んで。これからよろしくお願いします、ロイドさん」

「もちろんです先生! 何かわからない事があれば遠慮なく聞いてください!」


 その後、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドは昨夜行ったばかりなので場所はすでに記憶している。


 さっそく二人を案内しようと思ったのだが二人は見知った様子で街を歩いていく。


「二人とも冒険者ギルドの場所はすでに知ってるんだな」


 二人の肩が同時に震えた。


「あー、ロイドさんが中々起きないから今朝マルスくんと一緒に町を散歩したんですよ。その時に冒険者ギルドの場所も確認したんです」


 そうだったのか。その言い方だと朝に俺のところに来たんだな。寝ていてまったく気づかなかった。

 二人には悪いことをした。


「すまないな。すごく眠かったんだ」

「受付の方に聞いたんですが随分と帰ってくるのが遅かったようですね。もしかして真夜中に女の子でも引っつかまえて朝帰りでもしたんですか?」


 ぎくっ。


 今度は俺の方が肩を震わせる。

 レラはいじわるな笑みを浮かべながらそう尋ねてきた。


「あれれ~。いまロイドさん反応しましたよね? もしかして本当に女の子つかまえてイチャラブしてたんですかぁ? くんくんくん、心なしかロイドさんの服から女性の香水の匂いがする~」


 レラは俺の衣服に顔を近づけて匂いを嗅いで、わざとらしい口調でそう言った。

 もちろん冗談のつもりで言ってるのだろうが、女性から服の匂いを嗅がれるのはやはり恥ずかしいし、心当たりがあるだけに反応に困ってしまう。


「おいやめろよレラ。先生が困ってんじゃねえか。先生だって色々大変だったんだよ」


 マルスが助け舟を出してくれた。

 助かったマルス。このままではアイリスのことを根掘り葉掘り聞かれるところだった。

 今から仕事に行くのに女性の話題で盛り上がるのは個人的に避けたい。


 夜の話をするのが少々恥ずかしいのもあるが、俺も本気で冒険者になるつもりなので、冒険者とは直接関係のないアイリスの話題で集中力を途切れさせたくはないのだ。


 冒険者よりアイリスの方が気になっちゃうと仕事に集中できなくなる。

 いまは恋よりも仕事が大事な時期だ。

 仕事の最初は覚える事が多くて大変だからな。


 ん? そういや大変と言えばあの事件があったな。

 レラには先に伝えておいた方がいいだろう。


「レラよ。お前今日はちょっと気をつけた方がいいぞ。ギルドの連中から何か聞かれるかもしれない」

「え? どういう意味ですか?」


 レラはきょとんとした表情を浮かべた。


「実は昨夜色々あって冒険者ギルドに行ったんだよ。その時、窓から矢が飛んできたんだ。他の奴は気づいてなかったんだけど、その時飛んできた矢って実はエルフ族がよく用いている特殊な矢なんだよ。矢じりの部分が独特だからすぐにわかった」


「それでハーフエルフである私を疑っているということでしょうか?」


「たぶん聞かれることはないとは思うけど念のためな。いきなり聞かれると人間しどろもどろになっちゃうからな」


 レラではなく、なぜかマルスの方が青ざめた表情をする。

 逆にレラは泰然と落ち着いており、顎に手をあてながら思案している。


「大丈夫なのか」とマルスがレラを心配する。

「いえ、私は嘘をつくのは上手いので大丈夫だと思います」

「え? 嘘?」

「いえいえ、間違えました。こっちの話です。たしかに冤罪をかけられたらまずいですね。少し頭に入れておきます。ご忠告ありがとうございましたロイドさん」

「やっぱり先生はすげえや! こんなクズのことすら心配してくれるなんて人間の鑑です!」


 なんだか誤魔化されたような気もするが、まあいいか。


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今回は待たせてしまったので二話連続投稿となります!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ……まあ、幼馴染を上司に不眠不休で働いてたからね……。 [一言] ロイ×マルでレラの脳が壊れる!(いい意味で……いや、よくないよくない)
[一言] >まるで求人の広告みたいだ。 >アットホームって書かれてるから就職したのに >実際はサービス残業とパワハラのオンパレードで心壊した俺。 ロイドじゃなくて作者の心の声やん(笑
[気になる点] 14話まで読んでも続きがあまり気にならないし、読むことに疲れてしまいました。 目次を押して幼馴染のざまぁ要素を探してしまった。。。 [一言] もう少し前半部分に「ざまぁ」的な話を盛り込…
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