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第106話:黒蛇の涙(6)

 少々時間がかかってしまったが、アイリスとセフィリアさんの二人は無事再会できた。

 これにて一件落着。

 ……かに思えたが、とある男の乱入にて風向きが変化する。


「おい! この状況はいったいどういうことだ! どうしてアイリスが建物から抜け出している!」


 皇太子のギースが現れ、怒り狂いながら数人の兵士を連れてやってきた。

 イゼキエルは俺達の方を見て、小さく頷くと、ニコリと笑みを浮かべながらギースに近づいていく。


「あらあらギース殿下。かっこいいお顔がそんなに怒っては台無しですよ!」

「イゼキエル! お前がアイリスを外に出したのか!?」

「ええ、左様でございます。実はですね、わたくしが姫様と取引をしてアイリスの身柄を……きゃあっ!?」


 ギースは怒りに身を任せ、まだ喋っているはずのイゼキエルに平手打ちをした。

 イゼキエルが地面にうつ伏せに倒れる。


「黙れ! アイリスの代わりでしかない女が俺様に黙って物事を決めてんじゃねえ!」


 イゼキエルは顔を上げる。

 先程までの余裕の表情とは一転し、信じられないと言わんばかりの驚いた表情で、イゼキエルはギースを見上げる。


「ぎ、ギース。私は状況を分析してこれが最善手だと判断して……」

「うるせぇぇぇぇぇ! 言い訳してんじゃねえ! 聖法力のないこの出来損ないがッ!」


 すると再び、ギースはイゼキエルに手を上げた。

 バキィッ!という骨が折れるような音が周囲に響いた。

 ギースが思いっきりイゼキエルの顔面を蹴り上げた。それだけでなく、ギースは倒れているイゼキエルの頭を執拗に踏みつける。


「い、痛い!? や、やめてギース! いたいいたい!?」

「てめえなんてもう必要ねえんだよ! アイリスが帰ってきたからな! ここにいても邪魔なだけだからさっさと田舎に帰りやがれ!」


 バキバキボコッ!と何度も何度も暴力を振るっていく。

 イゼキエルは頭を手で覆って亀のように丸まり、悲痛な声を上げていた。


 俺達はというと、突如として発生したギースの暴走に唖然となっていた。

 イゼキエルに『聖法力がない』という事実はたしかに衝撃的だったが、それ以上にギースがイゼキエルに対して理不尽に暴力を振るっている事実に怒りが沸いた。


 俺は政治がわからない。

 イゼキエルと会ったのも今日が初めてで二人の関係がどういうものかよく把握していない。

 だが、これが一方的ないじめであるのは、誰の目から見ても明白であった。


 俺は二人に近づいてギースに呼びかける。


「おいギース」

「あ?」


 振り返った屑野郎の顔を本気でグーパンする。

 奴の前歯をへし折ると、奴は鼻血を出しながら仰向けに吹っ飛んだ。


「好き勝手にするのもいい加減にしろよ」

「あっ!? て、テメーはあの時の男! ロイドだな!」


 ギースは俺を指差しながらそう激怒する。

 前回、自己紹介をした記憶はないのでどこで俺の名前を知ったのだろうか。

 考えられるならおそらく、白薔薇あたり俺の身元を収集したのだろう。まあ、いまとなっては正体を知られようとどうでもいいことだ。


「半年ぶりだな。お前はあの時から全然変わっていないようだな。相変わらずの屑みたいで安心したよ。人を殴ってこんなにも心が痛まないのは生まれて初めてだ」

「てめぇ! 俺様に手を出して生きて帰られるとおもうな! 絶対に殺してやる!」

「俺を殺す? できもしない事をつらつらと並べるのが好きみたいだな。言っておくが、今回は俺も容赦しないぞ。てめえのしょーもない復讐に付き合わされて多くの人が迷惑を被ったんだ。もう二度と復讐をしようと思わないくらいまで痛めつけてやる!」


 俺は奴にそう告げると即座にフルグロウを発動し魔力を大量に開放する。

 怒りによって魔力は激しく燃え上がり、強大な炎の柱となって俺の全身を包み込んでいる。


 それを目の当たりにしたギースは狼狽え始め、大声で城中の兵士達を一斉に呼び寄せた。


「ええい! であえであえ兵士共! そこにいる反逆者を抹殺しろ!」

「「「「「「「「「はっ! 仰せのままに!」」」」」」」」


 集まった兵士達はギースの命令を聞くと一斉に剣を抜いた。

 どうやら話し合いで解決する未来はなくなったようだ。


 尤も、ここまで来たら俺も穏便に解決する気なんてサラサラないが。

 当初の予定通り、力づくでギースの首を縦に振らせてやろう。



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