間章2:特別な友達
アイリスさんが宿屋に到着したのを確認した私は、マルスくんと共にその場をあとにしました。
地図なら私達も所有していますので、全力で走った分ロイドさんよりも早く宿屋に到着することができました。
受付職員に簡単な挨拶をして二階の客室へと戻っていきます。扉を閉めてようやく安堵のため息をつきました。
とりあえずこれで一安心ですね。
あとはマルスくんと口裏を合わせておけばロイドさんにバレる心配はありません。
魔法の鍛錬を覗き見するだけだったのに、ロイドさんの恋愛模様を一晩中観察してしまいました。
完走した感想ですが、アイリスさんのおっしゃるように120点だと思います。
アイリスさんに聖女の威光を使わせた時は私もムッとしました。私の妄想上、あそこはロイドさん無双で敵をボコボコのギタギタにしたあと「ロイド様素敵結婚して!」ってするのが正解ですからね。
ですが、そのあとは完璧です。
まだ来て間もないのに街の特徴を完璧に把握し、地形を最大限に生かした120点の答え。
魔光石の夜景に目をつけるだけでも充分すごいのに、朝日の色彩変化にまで考えていたなんて本当に敬服しました。
流石としか言いようがありません。
あらためて、ルビーさんは惜しい人を手放したんだなぁ……と可哀想に思いました。
私としてはどちらも応援したいカプ厨ですのですぐに答えは出しませんが、今回はアイリスさんの勝利と言ったところでしょうか。
それはそうと、急いで帰ってきたせいですごく汗をかいちゃいました。
今の私はちょっと汗臭いかもしれないので早くシャワーを浴びたいです。
「マルスくん。先にシャワー浴びてくるね」
「わかった。じゃあ先生が帰ってきたら声で知らせるよ。もしかしたら俺たちの部屋に寄ってくるかもしれないからな」
マルスくんはベッドに腰掛けて剣や甲冑等の装備を外している。
本来寝ているはずのマルスくんが装備をしていたらおかしいもんね。
「アイリスさんの惚気話をしてきそうだよね」
「いや、先生の事だからそういう話はしてこないと思う。だが先生は勘が鋭いから油断しない方がいい。もしかしたら俺たちに勘付いているかもしれないし」
「魔法は完璧だったから大丈夫だと思うんだけどねー」
《消音魔法》、《認識阻害魔法》、《魔力遮断魔法》の三つを重ねがけしたのだから、いくら優秀なロイドさんでも気づかないはずだ。
ロイドさんが超人過ぎるだけで私も充分優秀な魔導士なので、ロイドさんに見つかることなく行動できる自信があります。
「ねえマルスくん。別にシャワー中に入ってきてもいいんだよ」
シャワー室から顔だけ出してマルスくんを誘ってみる。
しかし、マルスくんは首を横に振った。
「それじゃあ俺が変態みたいじゃん。馬鹿言ってないでさっさとシャワー浴びてこいよ。後がつっかえてんだから」
「ちぇっ……」
マルスくんも汗だくなので本当は早くシャワーを浴びたいんだと思いますが、私に先を譲ってくれました。
マルスくんは口調こそ悪いですが誠実なので絶対にシャワーを覗いたりはしません。私としては覗かれても全然平気なんですが毎回言い訳されてしまいます。
実はえっちもまだです。
キスだって一か月前に一回したくらいだ。
マルスくんが寝ている間に私の方からこっそり頬っぺたにキスをしました。マルスくんの方からは一回もありません。
同じ部屋にこんな美少女が一緒に泊まっているのに、一回も手を出したことがないとか普通あり得ないでしょう。私って魅力ないのかなぁ。ちょっとショックー。
スタイルはそこそこ良いと思うし、胸の大きさだって最低限ある。
性格はまあ……残念寄りだけど普段は真面目なんだよ。少なくともロイドさんの前では真面目に振る舞っているし。
私がこうやって素を見せるのはマルスくんだけ。マルスくんは私にとって『特別な友達』だから。
あーあ、私もはやく恋人の関係になりたいなぁ。
そのような事を考えながら私はシャワーを浴びました。
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