第88話:白髪の女2
追伸
ロイドの発言を変更しました。
「ちょっ、待てよレラ。どうして俺が原因なんだよ!」
「いや、それはこっちのセリフです。私の師匠がこんなに恨みを買っているなんてショックです……」
「先生! 奴は去り際に『殺してやるぞロイド』と言ってました!」
いやいやいや、それはおかしいって。
なんで俺が!?
マジで身に覚えがないんだけど。
「おいロイド! うちのセフィリアがお前のせいで誘拐されたって本当かよ! てめぇ! 許さねえぞ!」
ひいいいい!
ネロさんまでガチギレしてる。
アイリスはというと、信じられないと言わんばかりな困惑した表情を浮かべている。
「と、とりあえずネロ。ロイド様を責めるのはやめてください。ロイド様も困惑してるではありませんか」
アイリスの言葉でネロもなんとか落ち着く。
セフィリアさんが謎の女に攫われた。
これは大きな事件だ。
なんとしてもセフィリアさんを救い出さなければならない。
ここで問題となるのは、その女が俺に対して恨みを抱いている点だ。はっきり言ってまったく心当たりがない。
仮に恨みを買うとすれば専属魔導士時代の依頼人からの怨恨からだろうか……。当時の俺の採取率は40パーセントと極めて少ないため、俺が原因で依頼が失敗することも多かった。
その結果、依頼人から恨まれてしまう。
ありえない話ではない。
とはいえ、それを考え出したらきりがないので、今は現実問題としてセフィリアさんを救い出すことに力を入れなければならない。
「マルス、レラ。誘拐犯の特徴をもっと詳しく教えてくれ」
「一番の特徴は『鬼の仮面』でしょうか。おどろおどろしい鬼の仮面をかぶっています。声色から大人の女性だとわかりましたが、素顔まではわかりません。それと、服装に関してですが、露出の少ない白装束で身を包んでいます」
「鬼の仮面?」
「はい。赤塗りの鬼の仮面です。もしかして心当たりがあるのですか?」
「ああ、一応な……」
今から三年前。
専属魔導士時代に出会った魔人の中に、該当する奴が一人いた。
それは、アルラウネの最上位とされるアルラウネクイーンだ。
白い髪に赤い鬼の仮面、全身を覆い隠すほどの白色の衣装を纏っていたのを、未だに覚えている。
どんな奴かというと、とても冷酷な性格だ。
俺達人間を塵としか思っておらず、初めて出会った時も、会話すら満足せずにいきなり攻撃を仕掛けてきたからだ。
それだけなら普通の魔人と変わらないが、奴の厄介な点はその強さ。
強いのなんのってトラウマ級の強さだった。
俺が戦ってきた魔族の中では飛びぬけて強く、エクスプロージョンを連打しても平然としていたほどだ。
マジの化け物だ。
さらに魔人というだけあって知能も極めて高く、適切に俺の魔法を対処してくるから、本気で敗北を覚悟したほどだ。
まあ勝ったけど。
奴の実力は極めて高いが、明確な弱点が存在しており、そこを突けばかなり弱体化する。
おそらくセフィリアさんが負けた原因は、奴の弱点に気づけなかったからだろう。
「セフィリアさんを誘拐したのはおそらく三年前に俺が戦ったアルラウネクイーンだ」
「アルラウネクイーン!?」
「アルラウネクイーンといえば神話級のモンスターじゃないですか! そんな相手と戦ったなんて、やっぱり先生はすげぇや……」
え? 神話級?
言われてみれば、リヴァイテーゼ並みに強かったかもしれない。
どうやら俺はまた知らないうちに新しい伝説を作ってしまったみたいだ。
「あの、ロイド様。私、セフィリアを救いたいです。どうかチカラを貸していただけないでしょうか?」
「もちろんさ。俺もアイリスと同じ気持ちだ。一緒にセフィリアさんを救い出そう」
「はい! どこまでもお供します!」
「おい、待て待て! なにふざけたこと言ってるんだロイド!」
すると、ネロさんが焦った様子でアイリスの目の前に回り込み、アイリスを庇うように両手を広げた。
「そんな危険な奴がいるところに、うちのかわいいアイリスをつれて行かせるわけにはいかない!」