間章1:光のカップリングエルフ
この話は主人公以外の別視点から語られます。
皆さんこんにちは。
光のカップリングエルフのレラです。
実は私とマルスくんの二人はロイドさんが宿を出たあと、背後からずっと尾行していました。
尾行していた理由ですがロイドさんの強さの謎を探るためです。馬車での移動中はロイドさんは全然鍛錬してませんでしたからね。
ようやく鍛錬するとのことなので、こっそり覗いちゃおうという次第です。
ロイドさんの強さはハッキリ言って規格外です。
巨大サンドワームを葬り去ったマスター級の魔法もスゴイですし、その後さりげなく使った《アイテムボックス》も実はマスター級だったりします。
ちなみにマスター級というのは各分野における評価の最高ランクと思ってください。
初級、中級、上級、最上級、マスター級。
どの分野においてもこの縦の並びは絶対的です。
ロイドさんはこの中でも最高ランクのマスター級に匹敵する大天才です。
ロイドさん本人は自分のことを過小評価しており、「マスター級の魔法使えても他がダメダメだから全然凄くないぞ」と謙遜しています。
これらはおそらくパワハラ錬金術師による調教が原因でこうなってしまったのだと思います。
ロイドさん本人には伝えていませんが、私は結構優秀な魔導士です。
16歳にして中級上位魔導士です。治癒魔法にいたっては上級下位魔導士の部類です。
この上級という言葉は、名前こそ下から数えた方が早いですが、基本的に天才しかたどり着けません。
大半の方は初級〜中級下位で人生を終えます。
ロイドさんが私達に気づいていないのも《消音魔法》、《認識阻害魔法》、《魔力遮断魔法》の三種類を重ねがけしているからです。
さてさて、ずっと尾行していたわけですが面白い状況になりました。
天才大魔導士のロイドさんと一緒にいるお方。
性格の悪いイケメン王子に国を追放された悲劇の聖女アイリスさんです。
すげー美人で震えます。美男美女の宝庫と言われるエルフ族でもあそこまで美人な方はいませんよ。設定盛り沢山で尊すぎる。
「性格の悪いイケメン王子に国を追放された悲劇の聖女は、没落先でイケメン大魔導士と出会い恋に落ちる。しかし、イケメン大魔導士には元カノである天才錬金術師を忘れられず、イケメン大魔導士をめぐる恋の三角関係が生まれたのだ」
「あのアイリスって子、国を追放されたとは言ってたけどイケメン王子に追放されたって一言も言ってなくね?」
私の言葉にマルスくんは頭に疑問符を浮かべる。
マルスくんの言うとおり、アイリスさんは追放されている理由をまだ説明してません。
なので私が頭の中で設定を改竄しちゃいました。
「わかってないですねマルスくん。こういうのは設定が一番大事なんですよ。追放した王子はイケメンでなければざまあ度を出せません。こんなに美しい聖女を追放したお前は無能!!と絶縁状を叩きつけるために必要です」
「お前ほんと絶縁状好きだな。お前の読む本いつもそればっか。そんな気軽にぽんぽん使っていい言葉じゃねえぞ。お前を森の守護者に命じた一族全員泣いてるぞ」
「絶縁状……それは新たな恋のラブレター」
「ダメだこりゃ。完全に自分の世界に入ってやがる」
マルスくんは大きなため息を吐いた。
ため息を吐くと幸せが逃げますよ。
「ところでマルスくんはルビーさん派ですか? アイリスさん派ですか?」
「え? えーっと……すまん、二人のことよく知らないからまだはっきりとは答えられねえよ。でもまあ、俺たちがどうこう言うよりも、先生にとって幸せな方が正解なんじゃないのか?」
「不正解。答えはこれから私と一緒に考える、です。私はどちらか正解を答えて欲しいわけではなく、私と一緒に考えて欲しいだけなんです」
「は?」
マルスくんは怒気を強めた声でそう返事した。
「今はアイリスさんが一歩リードしてますね。ルビーさんは絶縁状という名の恋のメッセージに気づいてませんからね」
「そもそも絶縁状もらった時点でアウトだろ」
「マルスくんは本当ダメダメですね。わかってない。どう見てもアレ、ルビーさんに未練たらたらじゃないですか。絶縁したと言っても口で言ってるだけだし、ルビーさんがここに襲来してきたら右往左往する面倒くさいタイプですよ」
「魔法の師匠のことアレとか面倒くさいとか言うなよ。失礼すぎるだろ」
マルスくんと喋っている間にもカップリング指数アップイベント発生しました!
「わお、アイリスさんの方から手を繋ぎましたよマルスくん。現在の主導権はアイリスさんにあるようですね」
なんとアイリスさんの方からロイドさんに手を繋ごうと提案してきたのです。
我を萌え殺す気かこの聖女。
「主導権ってなんだよ。何かと戦ってんのかよあの二人。ただ宿探ししてるだけじゃねえのかよ」
「ねえマルスくん。基本的に私はアイリス×ロイドが好みなので、こういう状況は非常に満足なのですが、人によってはロイド×アイリスで妄想したほうが気持ちいいって人もいるんですよね。こういう場合、私は頭の中で順番を入れ替えています。私はこれの事を《役割交代》って呼んでいるんですよ」
「俺なんでこんな奴のこと好きになっちゃったんだろう」
どうやらマルスくんはこの状況の尊さが理解できないようです。まだまだお子様ですね。
その後、私達はあの二人を観察してましたが、あの二人はお互いのことを意識し合って全然集中できていないようです。
尊すぎて爆破しそうです。この状況ならリンゴ六個はイケますよ。
「なんだか先生達が困っているようだな。フロルストリートもさっき通り過ぎちゃったし、地図にも気づいていない。……流石にちょっとヤバいから二人に知らせてくる」
「やめろッッッッ!! いま私がカップリング成分補給してる途中でしょうが!!! 余計な事したら目ん玉を矢で射抜くぞ!!!」
「ひっ!?」
私が本気で怒鳴るとマルスくんはとても怯えた表情をしました。
ですがこれはマルスくんが悪いので同情はしません。
イチャイチャするお二人を邪魔する者は絶対に許しません。
「で、でもよ。このままだと先生たちずっと迷子じゃないか」
「恋の迷路というのは複雑なものなんですよ。簡単にたどり着いたら面白くないんです。道を教えるにしても間接的に案内することが大事なんです」
「間接的に教えるってどうするんだよ」
私は宿屋から持ってきた地図を地面に広げる。
そして現在地を指差してマルスくんに説明する。
「この地図を見る限り、冒険者ギルドが一番近いのでそこに案内しましょう」
「どうして冒険者ギルドに案内するんだ?」
「冒険者ギルドは夜中でも開いています。さらに冒険者ギルドには街の地図や、街の地理に詳しい受付がいます。彼らに接触させれば自ずと答えが見えてくるでしょう」
「回りくどいなぁ。直接言った方がはるかに早いのに」
「いずれわかる時がくる」
なんにせよ、まずお二人が冒険者ギルドの存在に気づいてくれないといけませんね。
「……って言ってる側から先生たち通りすぎてるぞ!!?」
「ここは私に任せてください」
私は実家から持ってきた弓矢を取り出して冒険者ギルドの窓ガラスに向かって矢を放つ。
窓ガラスが割れて大きな音が鳴り、ロイドさん達もその音に気づいてくれました。
「よし」
「なにやってんのキミ!?」
やだなぁ、マルスくん。
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次回はいつもどおり主人公視点に戻ります。