表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4章

少女は順調に雪だるまの顔のパーツを集めていた。目、鼻、口、耳、皮膚、毛など、必要なものは全て揃ったように見えるが、少女はやはりどうも不満気だ。

「何かが足りないの」

少女は何が足りないのか分からない。神様である私でさえ分からない。しかし、確かに足りないのだ。少女はまた途方に暮れてしまった。


そんなふうに歩くから、少女は道に迷ってしまった。倒れたビル群が迷路のように入り組み、しかも、あちらこちらで火事が起きている。炎属性のバッタがバトルをしているらしい。消防隊は睡眠中、消防車は食事中、消防ドラゴンは恋龍を追いかけている。 黒い煙が辺り一面を覆っていて、捜し物どころではなくなってしまった。


少女がなんとか煙と瓦礫を掻き分けて進むと、そこには寂れたコンクリート小屋があった。

窓はなく、たった一枚の扉が錆を帯びきっている。

小屋は独りでありながら、その単純で荘厳たる様が存在感を強くしていた。少女はまるで誘われたかのように重い扉を力いっぱい開いた。


中は大きな星空だった。小屋の外見からは想像もつかないほど広いその空間は、大部分は暗いが、ぽつぽつと光が点在し、歩くのには困らない。小屋は夜を所有していたのだ。


そうやって数億光年、徒歩で宇宙旅行をしていると、スポットライトで照らされた一点に顕微鏡のような機械があった。その無駄のない洗練されたデザインからして、それが誰かがこの世界の歴史を集約させて作り上げた最期の遺産であるに違いない。少女は、おそるおそるレンズに目を近づけた。


レンズの奥には、心臓があった。少女は、それが自分の心臓だということがすぐに分かった。ドクドク脈打つ毒々しい見た目のそれは、少女の肉体に大量の血を送り続けている。

少女は心臓を強く握り締めた。少女の体に初めて痛覚が走ったのに、少女は顔一つ変えず、ただただ心臓を握り続ける。当然、心臓は潰れてしまった。潰れた心臓から、砂が溢れ、風が吹き、少女が生まれた。少女は歩き続けて、立ち止まる。


私は、少女が自殺をしたと思って、後悔した。何が悪かったのだろう。少女はプレゼントが気に食わなかったのか。少女は捜し物に疲れてしまったのか。少女はあのおどろおどろしい紫とピンクの空の下、狂ってしまったのか。私の背骨が千切れては乱雑に縫い合わされて、綿が吐瀉物となって体を蝕み続けるような感覚が止まらなくて、私は人形だと錯覚させられる。私は神様で、人形で、役立たずで、殺人犯だ。そんな妄想をすることでようやく自分を保てた。


しかし、私の錯乱に対して少女は明るい笑顔を見せていた。少女は砂漠を懐かしむように指でなぞる。それが地形を作って、山になる。少女はそれが退屈であることも理解している。それでも少女は、山を作り続けた。


少女は気付くとコンクリートをなぞっていた。そこはコンクリート小屋の前だった。扉は無くなっていて、中に入る手段は完全に失われた。


少女は小屋を数秒間見つめた後、また歩き始めた。

火事は消防ドラゴンが収めたようだ。消防ドラゴンは恋龍にキスをして、それを消防隊と消防車に見せつける。みんな、嬉しそうに笑っている。


少女は地図を頼りに墜落した飛行機のもとへ辿り着くと、雪だるまに目、鼻、口、耳、皮膚、毛などを貼り付ける。雪だるまに顔が出来た。そして、少女は上から降ってきた手足の人骨を拾い、雪だるまに取り付けた。少女は掃除用具入れからモップを取り出して、雪だるまに持たせた。雪だるまは笑顔になっていた。

少女は満足そうにして雪原に寝転ぶと、胸に手を当てて心臓の音を確かめる。もちろん無音だ。少女は一言、神の言葉で喋った。

「ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ