一章
シルクを撫でる透明の手は、砂漠の暑さには敵わない。翻るワンピースは元気そうで何よりだけど、その活気を少しでもあの少女に分けて欲しい。
あの少女には名前が無い。顔も無い。自分が少女であるという自覚も無いその子は、砂埃のかからない摩訶不思議な白パンプスで7万キロメートルを歩いた地点、身体から脱落したみたいにぬるい唾液に苛立ちを覚えて、立ち尽くしてしまっていた。歩き始める前は真っ黒だった髪の毛も、風になびくのに疲れて今では完全に色が抜けてしまっている。日光の一縷の哀れみのおかげで肌こそ焼けていないが、少女のあまりに淡いこと、もはや溶けて液体となり砂漠全体を湿らせてしまいそうになるほどであった。
このままでは少女がかわいそうである。せめてこの熱気を何とかしてあげたいところだが、涼しさをリボンで包み贈るのは、実はけっこう難しい。
そこで私は、少女に娯楽をプレゼントすることにした。粒の塊の標高の有無を確かめるだけでは暇だろうから、それこそもっと、脳に刺激があるように、臓器に異変が来るように、まるで子どもが見せてくるびっくり箱みたいだったあの地球をあげたい。見知らぬ死人に花を手向けるように、残酷で、極めて偽善的な空を与えたい。
そうと決まれば、少女の感覚を司るめしべが枯れてしまわぬうちに、つまり自然界の真似事をするのだから、まずは図鑑でも探してみなければならない。
申し遅れたが、今から私は蜂で、図書館司書で、神様である。