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JKは錆びている

「最近のJKって錆びてるよな」


そう大学の学食へ行く途中に言ってきたのは、友人であるこの男、郁人。こいつは、時々わからない言葉を使う。個性的というか、独特というべきか、変人というか…。


「どういう意味だ?」


そう郁人に聞くと、その質問待ってましたと言わんばかりの顔をして、答える。


「最近のJKはおっさん化が進んでるってことだよ。ほら、金属って時間が経つと錆びるだろ?つまり、JKの中身だけ時間が経って錆びてるんだ」


と割と丁寧に解説してくれた。でも錆びって空気に触れるところになるから基本的に外側につくよなと思ったが、


「そうだな」


と言うだけにしておく。すると郁人は思い出したかのように、


「雄馬の彼女って今JKだったよな?錆びてるか?」


と聞いてきた。それは、友人の彼女に対して使う言葉か?と思ったので、


「さぁ、どうかな。あと、それあんまり人に聞かない方がいいぞ」


と返事と共に言っておく。しかし、お前にしか言わないよと人懐っこい笑みを浮かべて言われるので、少し絆されてしまう。こいつの素直なところはいいんだよなぁ…。そう思いながら、食堂へと足をすすめる。そして、先ほど話に上がった彼女に想いを馳せる。


 俺の彼女はとても可愛い。見た目も彼氏の贔屓目なしに十二分にして可愛い。そして、なにより中身が可愛いのだ。最近流行りだとかいうサバサバ系女子でもおっさん系JKでもない。おしとやかでふわりと笑う、THE 可愛い系女子…というのが、外向きの彼女のスタンス。というより、俺の前でもそうしたいらしい。しかし、それが隠せてないのが彼女の可愛いポイントだ。この前のデートの時も、スカートに猫の毛がたくさん付いていたり、寝癖も少しついていた。そして、カフェの顔のいい男性店員ではなく、露出したお姉さんに目が釘付けであった。…まぁ、カフェのことは俺のことも見てほしいという願望はあったのだが。しかし、それらを指摘しようとは思わない。それを隠せていると信じきっている彼女が可愛いからだ。

 …というのが、少し前までの俺の考え。今も隠していることは可愛くて仕方がないが、俺と一緒にいる時はリラックスできる時間であってほしいと、考えるようになってきている。実際、俺は彼女といる時にはとてもリラックスできる。勉強やバイト先での人間関係の疲れを彼女と一緒にいるだけで、彼女の声を聞くだけで一掃してくれる。だからこそ、俺も彼女にとってのそんな存在になりたいと考えている。

 そのために、俺はある計画を立てた。それは、家に突然訪問するというものだ。そうすれば、必然的に彼女の本当にリラックスした状態を見せてもらえる。彼女の家には何度かお邪魔したこともある。そして、彼女の家族とも連絡先を交換して、いつでもメッセージが送れる。ちなみに、彼女の母親には頼んで彼女が恥ずかしがって見せてくれないので、彼女に内緒で何度か彼女の昔の写真を送ってもらったりもしている。そのくらい仲が良いし、俺が彼女のズボラなところも知っていることを伝えてある。なので、彼女には内緒で家に行きたいということは彼女の家族に伝えることができるし、きっと許可してもらえる。しかし、正直勇気のいることで、未だに文章を考えては消してを繰り返している。

 昼飯のラーメンを買い、今日こそは送るぞと思いながら文章を作る。すると横から


「お前昼飯食わねえの?」


と聞いてくる郁人を無視して、文章の最終確認をする。そして、ふぅと息を吐きスマホを少し下ろして顔を上に上げる。


「おりゃ!」


と掛け声を出して隣に座る変人が送信ボタンを押す。


「あ!お前!」


そう言って怖くて送信された画面が見れず、スマホを机に置き、郁人の頭を両手で鷲掴みにする。すると、スマホがピコンとメッセージが届いたことを示す音を鳴らす。慎重に通知画面を見ると、"その作戦いいわね!ぜひ協力させてもらうわ"という返信が来ていた。俺は安心して、"よろしくお願いします"と打ち返す。それを見た隣の変人が


「俺のおかげ?」


と目を輝かせて言ってくる。むかついたのでとりあえず下痢ツボを押す。郁人が頭を押さえながら、悶えているのを横目にラーメンを啜る。



 そして、作戦決行の当日。初めて彼女にアポなしで会う緊張と、どんな顔をするだろうかという期待で胸を膨らませながら彼女の家へと歩く。門扉の前に立ち、一呼吸置いた後インターホンを押す。ピンポーンと鳴り、初めてこの家に来た時のことを少し思い出した。はーいと彼女の母親の声がインターホンして後、玄関越しに茉莉出てもらって良い?と聞こえる。はーいと彼女の声が聞こえた後、しばらくしてガチャリと扉が開く音がする。

 そこには、上に彼女が好きだと言っていたバンドのTシャツを着て、下には以前に見せてもらった中学の頃のジャージを履いている。そして、後ろ髪を適当に一つに括り、前髪は上でちょんまげのようにして括った彼女が出てきた。


「やほ」


と彼女に笑顔で手を振り挨拶をする。彼女は硬直して動かないまま徐々に顔を赤くしていった。そんな彼女を見て、あぁ可愛すぎないかこの子、と思いながら彼女に近づく。きっと今の俺の顔は人様には見せられないくらいにやけていることだろう。それでも、止められない。何せ俺の彼女が可愛すぎるのだから。そして、彼女の近くまで行った俺は彼女のちょんまげを指で少し弾き、


「かわいい」


と言った。彼女はさらに顔を赤くさせ、涙目になる。泣かせるつもりはなかったのだが、もっといじめたくなるのは彼女の顔が可愛いすぎるからだ。そう思っていると、彼女のお母さんがリビングの扉を開けて出てきて


「あら、いらっしゃい!茉莉、ちゃんと上がってもらわないと」


と何も知らないかのように言った。さすがですと心の中で思いながらお邪魔しますと言う。彼女はちょんまげをしているゴムを外しながら俺を家の中に招き入れてくれる。彼女のお母さんに手土産に買ってきたお菓子を渡すと、


「あら!このお菓子、茉莉好きなやつじゃない!お茶を淹れて持っていくから部屋に行ってなさいな」


そう言ってリビングへ帰っていく。俺は真っ赤な顔のまま俯く彼女を覗き込み、


「部屋に行っても良い?」


と聞く。彼女は少し目を逸らしてからこくりと頷き、彼女の部屋へと歩き出す。そして、部屋へ入る。しかし、特に部屋は汚いわけではなく、彼女が先ほどまでそこにいたであろう痕跡がベッドにあるだけで、他は前に部屋に上げてもらった時と変わりがない。彼女がこの後くるであろうお茶とお菓子のための小さな机を出すのを手伝い、ベットを背もたれにして彼女と隣り合って座る。彼女は先ほどからしゃべることなく俯いている。これは嫌われたか?と不安になり、


「ごめんね。いきなり来ちゃって」


と言うと、彼女はぶんぶんと首を横に振る。


「嫌いにならないで」


俯いたままそう小さな声で彼女が言うので、俺は


「嫌いになんかならないよ。絶対に」


と言う。すると、彼女がばっとこちらを見た。だから、俺も彼女の方を向き話す。


「俺はね、気付いてたんだ。でも、隠そうとしている茉莉が可愛くて今まで黙ってた。」


そう笑って言うと、彼女の通常に戻っていた頬が少し赤らむ。俺はそんな彼女の頬に片手を置き、親指で頬を撫で、もう片方の手は彼女の手を掴む。


「でも最近ね、茉莉には俺といる時、もっとリラックスしてほしいって思ったんだ。無理をしていない茉莉が見たいって思った。この後続く未来で、茉莉が俺の前でありのままでいられるように。それに、俺といると疲れるって思われたくないしね」


と言い、わがままでごめんねと付け加える。すると彼女は頬に置いた俺の手の上に自信の手を合わせて、手のある方に首を傾けふわりと微笑む。


「私ね、雄馬くんとデートする時にいっぱい準備するの。確かに大変だよ。普段からちゃんとしてない私にすれば。でもね、それ以上に楽しいの。どうやったらかわいいって思ってもらえるかなとか、雄馬くんと何を話そうとか考えるのが」


あぁ、なんで可愛いんだ。この子は俺をどうするつもりなんだ。彼女は続けて、


「だからね、全く疲れない。それはきっとこの先も変わらない。でも、雄馬くんの私を知りたいって思ってくれた気持ちはすごくわかるし、嬉しい」


そう言って彼女の頬にあった俺の手のひらに軽くキスをする。本当に可愛すぎると思うと同時に俺は彼女の額に自身の額を合わせる。すると、彼女は少し笑い、


「私決めた。無理はしすぎず、でも可愛いのも諦めない。女の子だもん。でも時々、ズボラな部分が出ちゃうかもしれないけど、嫌いにならないでね」


あと、こういういきなりは心臓に悪いからと付け加えられる。反省して、はい、と返事をした後、


「絶対に嫌いになんてならないよ」


そう告げ、次は彼女と俺の鼻をつける。そして目を閉じ、静かに唇を合わせる。唇が離れたあとも顔の位置は変わらず近いままで、俺たちは笑い合った。

 あぁ、こうやって、2人で確認をし合いながら一生涯、一緒に錆びていけたらどんなに幸せだろうか。そんなことを思う。




「「これからもよろしくね」」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

このお話は作者がこんな恋愛をしてみたかった…と言う思いから出来ました!

作者的には割と綺麗な終わり方ができたのではないかなと思っているのですが、いかができたでしょうか!


皆様も素敵な恋愛ができますようにお祈り申し上げます。

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