19.出発
新調した黒のローブをわざとらしく見せつけるよう宿屋の椅子に座る。
エレナが帰ってくるまで椅子に足を組み待っていた。
待っても待ってもエレナは帰ってこず、机に頭を乗せうとうととしていた時。
ようやく、宿屋の自室のドアが開いた。
「遅くなってごめーん! ってあれ? 」
俺は机からゆっくり頭を起き上がらせる。
紙袋を両腕いっぱいに持っていた姿を見て俺は笑ってしまった。
「何で、そんなに物買ってるの? 」
「いや、これは旅に必要な物で……。そういうフミヤだって新しい装備買ってるじゃん! 」
お互いが気不味そうに突き合う。
旅ということで浮かれ、買わなくて良いものも買ってしまったその言い訳をまず俺から話す。
「旅だから装備は大切なんだよ。何があるかわからないしさ」
少なくとも俺の理由は正当性が認められると思うが、俺から見たエレナの買い物の量ははっきり言っていらない物だらけにしか見えない。
「私だって、何があるかわからないから備えに備えたのよ! 」
文句ないよね? という表情をされ俺は何もいえずにいた。
「明日の朝は早いから準備しましょうよ! 」
「そうだな」
俺達は大きめの麻袋に今日買った荷物を詰め込む。
ほとんどがエレナの荷物で埋め尽くされ、俺より心配性であることが知れた。
荷物を麻袋に詰め終えると旅の経路について話し始めた。
「この前も言ったけど経路はウェリア、ペレン、大帝国ライトエルの順で周るわよ! 」
「了解! ザイド王国だけは行きたくないからね。頼むよ」
エレナはニコリとして了承してくれた。
半分面白がられているのが妙に腹が立つが気にしないでおこう。
「明日なんだけど、歩いていくのも大変だからウェリアまでは馬車で行くから」
エレナから詳しく話を聞くと今日の買い物中に馬車を手配していたらしい。
用意周到な奴だと思いつつ、エレナに感謝する。
ウェリアまでの道中、エルの森を抜けなければならず魔物と遭遇することも考えられた。戦闘するのも意外に体力を消耗し、疲れるためこの起点を効かせた案に俺は嬉しかった。
万が一、魔物が馬車に近づいてきても、馬車の中から防御を固められるため、戦わずしてエルの森を抜けられるからだ。
「ありがとうエレナ。明日は楽できそうだ」
「でしょ! 」
感謝したことでかえって調子に乗らせてしまったがこれから旅をするということで勘弁する。
色々と旅への準備を済ませたこともあり俺達は眠りにつく。
相変わらず俺はベッドではなく、ソファーで寝ている。
眩しい陽光と旅への期待と共に目が覚める。
大きな欠伸をし、目を擦りながらソファーから俺は起き上がる。
エレナを横目で見るがまだ寝ていた。
馬車は何時からなのだろうと思い、エレナを叩き起こす。
「おい、エレナ! 馬車は何時なんだ? 」
俺の大きな声で慌てて目を覚ますエレナ。
そして、一言。
「今何時? 」
俺はステータスウィンドウで確認する。
「七時」
一言そう言うとエレナの顔がだんだん青ざめていく。
「ねぇ、フミヤ。私昨日伝えてなかったんだけど六時には馬車は出るらしいの……ごめんなさい!! 」
俺がフォローする前にベッドの上で頭をマットに何度も打ちつける。
これほど早い高速連続土下座を俺は見たことがなかった。
冗談はこの辺にして、馬車を逃してしまった俺達はこれから広大なエルの森を抜け、西方ウェリアに向かわなければならない。
昨日は楽できると思っていたがその夢も消えてしまった。
「しょうがないさ。歩いていくか? 」
「う、うん……」
ボサボサの髪をセットしないままエレナは頷く。
馬車が使えない以上大きな麻袋をどうやって運ぶかが問題だった。
「この麻袋、どうやって運ぼうか? 」
困ったようにエレナに尋ねる。
しかし、エレナはさっきまでの落ち込みを嘘みたいに感じるほど笑顔になり答える。
「魔法で、収納するから大丈夫よ」
俺は知らなかったが魔法使いは荷物を収納できる魔法もあるらしい。
エレナは荷物を魔法でしまい、身軽となった俺達はスタスタと宿屋を後にし、エルの森へと向かった。
エルの森入り口にたどり着く。
相変わらずの不気味な森で身構える。
馬車で楽に魔物を倒し、そのドロップアイテムをウェリアで売ってお金にする予定だったが、こうなれば歩きながら確実にお金にしてやると心に意気込み俺はエルの森に入った。
エレナは若干申し訳なさそうな顔でエルの森に入った。
今から旅だというのに相反する二人の顔は到底旅とは思えないものだろう。
むしろ、今から初めて魔物を倒す冒険者にしか見えなかった。
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