12.復讐
宿屋のベッドに横になり、戦闘方法でトムに勝つことを考えていた。
ただ、非戦闘スキル持ちの俺には少し荷が重い。
そもそも、問題点として俺に攻撃手段がないこと。だから、俺はエレナとパーティーを組むことにしたのだ。
攻撃手段がないを言い訳にしているほどの余裕はない。
刻一刻と迫る日没に悩みながらもる考えを練り続ける。
「攻撃を耐える、か……」
何気なく思ったことを口にする。
攻撃を耐える。この一言で脳の一部がひらめき名案が思いついた。
「フッ。トムを地の底に落としてやる」
ベッドに横になりながらボソリと決め台詞を吐き、日没が近づく空を見る。
「さて、いよいよだな」
決戦に向け、バル山に足を進める。
風をきりながら急足でバル山に向かう。
途中から道が緩やかな斜面になり、決戦前に若干体力を奪う。
緩やかな斜面からもう少し進むとまたさらに角度のついた斜面になる。
そして、走り進むと、トム、ローズ、カレン、エレナが待っていた。
「エレナ早いね」
「フミヤが遅いのよ。日没前に普通は来るの! もう日が沈んじゃったわよ」
「すまん」
両手を合わせ、頭を下げる。
俺達の様子にトムは軽い咳払いをし、中に入る。
「フミヤ! 始めようぜ」
俺達がいる場所はバル山の中でも広く平らなエリアで戦うにはもってこいの場所だ。
この場所までは長い斜面が待ち受けていた。
本来なら疲れを癒す場所なのだろうが今回ばかりは別の使い道で利用させてもらう。
「さぁ、こいよ。トム!! 」
俺は力強く叫ぶ。
辺りは薄暗く、少し冷たい風が吹く。
シャリンという剣を鞘から抜く音が静かな空気にわざとらしく響かせる。
次いで剣を握ったであろうカチッという音が聞こえる。
俺は俺で秘策を使おう。
俺はスキル《癒すもの》しかない。
癒し方は自由自在。
剣は持ち主の技術に左右されるが俺は違う。
想像力と少しの工夫でこの戦いに勝ってみせる。
俺はスキル《癒すもの》を発動させる。
自分には常に完全回復。それに加えて、俺への物理攻撃、魔法攻撃の無効化としてヒーリングウォールをスキル《癒すもの》で発動する。
ヒーリングウォールは目には見えない障壁(壁)であり、俺の半径五メートルに半円状の障壁(壁)が作ってある。
このヒーリングウォールは前に勇者パーティーにいた頃。広範囲にいる仲間を癒しつつ、敵への攻撃を無効にするために考案したスキル《癒すもの》の応用スキルだ。
ヒーリングウォールの存在自体知らないトム。いや、勇者パーティー三人なら、この戦いに勝てると俺は確信している。
「おい、かかってこいよ? 」
俺は手招きのジェスチャーで挑発する。
「舐めてると痛い目に合わせてやるよ!! 」
剣先を斜め下に構え、走り迫ってくる。
戦闘前はそこそこの距離がトムとあったはずが、疾風の如く俺の半径五メートル付近に来た。
しかし、ヒーリングウォールに阻まれ、疾風の如きスピードは落ち、ヒーリングウォールにぶつかった衝撃で後ろに倒れる。
「ンヌッハッ」
ばたりと倒れ、何が起きたんだと動揺した表情をしている。
「トム。お前は俺に近づけない」
決め台詞をきめれたことに俺は快感を感じていた。今まで散々、理不尽なことをされたり、言われたりと辛い経験しかしてこなかった。
だから、やっと序章ではあるが復讐をできたことに嬉しかった。
今まで下に見ていた俺に情けない姿と挑発を受けたことで怒りを抑えきれなくなり、目を血走らせ、顔が赤くなっていた。
「よくも、よくも俺に恥をかかせてくれたなフミヤ! 貴様をこの剣でいや、剣の勇者として滅多刺しにしてやる!! 」
怒り狂った人間の心理は制御不能。
つまり、無駄や隙が現れやすい。
俺にとっては好都合だ。
怒りに任せるようにさっきぶつかったヒーリングウォールに殴り斬りを始める。
横に縦に斜めに色々な角度から斬撃を力任せに浴びせるもヒーリングウォールはビクともしない。
トムの体力をヒーリングウォールで奪い疲れさせる。
トムがハァハァと息を切らす。
ついに、効果が出始める。
体力を徐々に奪ってはいるがまだ決定打ではない。
ヒーリングウォールで守りを固めつつ、必殺技を使う。
スキル《癒すもの》の派生スキル。
ドレイン。
名前の通り、敵のヒットポイントを吸収し、味方、もしくは自分を回復する唯一の攻撃スキル。
スライムに襲われた時はヒーリングウォールにしろドレインは使ってこなかった。
と言うよりも、使えることに頭が追いついていなかったと言ったほうが正しいだろう。
勇者パーティーを追放され、あまりのショックで俺は頭が回らなかった。
だから、あの時たまたまエレナに助けられ、本当に運が良かったとしか思わなかった。
でも、今は違う。
俺の使えるスキル。勇者パーティーで培って来た経験を最大限に復讐という形で活かす。
「うわぁーーーー!!!! 」
剣の勇者の最大限の剣技をヒーリングウォールに打ちつける。
乱れ打ちを怒りに任せすぎている。
隙だらけだ。
「何で、何でお前に近づけない!! んぬっ」
トムは何かに刺されたような声を発する。
俺のスキル。ドレインが効いたのだろう。
ついに、トドメをさした。
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